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66 細かく計画を立てても落とし穴はある

 リケーネの民は知らぬ間に強くなっていることに気付いていない。

 エルフたち全員に経験値が分配されていたのは俺としても嬉しい誤算であった。

 戦闘後に矢を回収するのを手伝ったりする裏方的な働きが影響しているみたいだ。

 裏を返せば、頭数が多くなる分だけレベルアップはしづらくなるんだけど。


 それでも弱者が強化されるのはデメリットを上回ると思う。

 子供などは特にな。

 HPが増え病気などの耐性も上がるから簡単には死なないし。

 MPも魔法がより多く使えることになりサバイバビリティを高める。


「いやー、頑張るねえ」


 リーアンたちの奮闘に感嘆の声を上げると何故だか冷ややかな空気が流れた気がした。

 近くにいる約2名から……

 俺がケイトとスィーの方を見ると、ジト目で見返される。

 誰が頑張らせているのかとでも言いたいのだろう。

 脱出を先送りすればするほど移転先での安全性が高まることを信じて俺は心を鬼にする。


「程々にしておいた方がいいと思うのですが」


 ケイトが釘を刺してきた。

 それも一理あるとは思うのだ。

 が、修羅場をくぐってこそ伸びるものもある。

 経験値やレベルアップでは得られない強さとでも言おうか。

 厳しさのないパワーレベリングは促成栽培しているようなものだと思うんだよな。

 得られる強さがいびつになりやすいというか、何処かに脆さがある状態になるんじゃないかと危惧しているが故にね。


 苦労知らずの天才が挫折すると妙に脆かったりするだろ?

 だからケイトの言葉が忠言であっても聞き入れる訳にはいかない。

 状況によっては強引に割り込んででも撤退させるけどね。

 犠牲を出すのは本意ではないし索敵も怠ってはいない。


 エルフたちには不幸になってほしくはないのだ。

 朝食を一緒に食べた程度の仲でしかないが良き人々だもんな。

 純朴で誠実。

 エルフってもっと閉鎖的なのかと思っていたが、そうではなかった。

 だから、できる限りのことをしたいと希う。

 四六時中ベッタリ状態で付き添うことはできない以上、せめてパワーレベリングはしておきたい。


「程々じゃ後悔しそうでな」


「お人好し」


 そう言ったのはスィーである。

 小馬鹿にしたような言い回しなのに視線は柔らかい。


「そう言うアンタはツンデレよね」


 クックックと喉を鳴らして笑いながらケイトが言った。


「誰が──」


「ツンデレじゃなくてクーデレだな」


 抗議しようとするスィーを遮って訂正するとムスッとした不機嫌顔になっていた。

 そうは言ってもヘソを曲げるほどではないだろう。

 しばらくすれば機嫌を直すと思う。


 今はそれよりもパワーレベリングに集中すべき時だ。

 そろそろ魔力が切れかけの者が出始めるはずだから余裕のあるタイミングで魔力を回復させたい。

 ポーションは飲みたがらないだろうけどね。


 魔物の襲撃は俺たちで抑え込んでおけば隙は作らずに済む。

 リーファンの索敵範囲内でポップした時は内緒にする訳にはいかないけど。

 今のところ、そういう形で出現した魔物はいないのでエルフたちにはバレていない。


 おおむね読み通りの展開になっていることに満足していた俺だが好事魔多しとはよく言ったもの。

 想定外の妨害者が現れることまでは読み切れていなかった。


「ねえねえ」


「ん?」


 下の方から呼びかけられたことで違和感を感じた俺は困惑に眉を寄せながらも、そちらを見た。

 ちっこいのがいる。

 守られている非戦闘員の集団から抜け出してきた子供たちであるのは言うまでもない。

 それも複数だ。

 どうやって抜け出してこられたのかと思ったが──


「ここでポーションを飲んでおくべきだ」


「まだ大丈夫じゃないか?」


「そうだそうだ」


「ギリギリまで粘るのは得策ではないと思うのよ」


「いや、これは切り札なんだからギリギリまで我慢すべきだろう」


「その考え方が危険だと言っている」


「そっちの方が危険だよ」


「いいや、そっちだね」


「そんなことはない」


 ポーションのことで言い合いになっていた。

 そのせいか陣形まで崩れている始末である。

 真っ先に気付きそうなリーファンは彼女は索敵範囲ギリギリの周辺ばかりを気にしている有様だ。

 リケーネの里もダンジョンに飲み込まれたのだから危険度は同じなのに。

 そのあたりは経験不足なども影響しているのか。


 なんにせよ幼い子供たちが大人たちの隙を突いて抜け出してきたのは問題である。

 はてさて、どうしたものか……


読んでくれてありがとう。

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