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64 連戦奮闘

 リグロフは言葉通りに行動しすぐに戻ってきた。


「オークの集団だ」


 周囲の空気が一気に冷え込んだようになる。

 豚顔の重量級戦士が脅威であることを知っている様子だ。


「面倒なのが来たな」


 渋面を浮かべるリーアン。


「矢では仕留めきれんだろう」


 とはいえ接近戦に持ち込まれれば危うい相手だ。


「わかった。弓矢で牽制しつつ投げ槍と魔法でトドメを刺そう」


 リーアンの選択は正しい。

 オークは筋肉と脂肪が分厚く鎧を着込んでいるも同然な上、痛覚を無視して猪突してくる凶暴な脳筋だ。

 弓だけで攻撃していては奴らに余力を残した状態で接近を許してしまうのは明白。

 エルフの主武装である細剣では苦戦を強いられ非戦闘員が襲われるのは想像に難くない。

 そんな訳で投げ槍による攻撃で先に深手を負わせておくのは必須だったのである。


「来たぞ!!」


「焦るなっ、引きつけろ!」


 風の魔法で勢いを付けた投げ槍なら筋肉ダルマなオークといえど深手を負うか死ぬかだ。


「今だっ!」


 一斉に槍が投げ放たれる。

 肩や二の腕に当たったオークはダラリと力なく腕を下げて攻撃力を低下させた。

 脚に当たれば引きずりながら歩くほかなく、次の攻撃で仕留められていく。

 頭や心臓なら即死なのだが命中率が弓矢ほどではないため剣でトドメを刺す格好になることも多かった。


 ただ、投げ槍が刺さったまま暴れたオークが少なからずいたため戦闘後に回収できないものもあった。

 矢も似たようなものだが投げ槍よりはずっと保有していた数が多い。

 日頃の狩りにおいての使用頻度の差が出たのだろう。

 その中で被害を出さずに済んだのだからモアベターと言う他ない。


 問題はここからである。

 スィーが足止めした次の魔物たちが来るからな。


「次の魔物たちが来るわっ」


 エルフたちが一息つこうかというタイミングでリーファンが再び警告を発した。


「何っ!?」


「気をつけて、数は少ないけど足が速い!」


「くっ」


 リーアンが歯噛みする。

 ここで戦士たちを少しでも休ませておきたかったのだろうな。

 オークの襲撃を受けている最中に速さの違う別の魔物が乱入していたらどうなっていたことか。


「偵察には行けそうにないな」


 投げ槍を回収したリグロフも今回は飛び出そうとしなかった。

 相手の足の方が速くて敵の情報を持ち帰ることができないと踏んだか。

 勘のいい男だ。


「森の中を高速で移動できるなら狼やそれに類する魔物だろう」


 グーガーが角刈り頭をガリガリとかきながら自ら推測したことを口にした。

 エルフにしては体格が良いので脳筋っぽく見られ勝ちだが決してそういうタイプではない。


「とにかく悠長にしていられないぞ、リーアン」


「分かっている」


 獣タイプであることが濃厚であると覚ったリーアンが渋面を浮かべて返事をしたが──


「敵の正面に立つ者は風魔法で押し返せ」


 即座に指示を出し始めた。


「側面は弓で風魔法の範囲に封じ込めろ」


 風の流れに逆らうことを厭えば矢の雨にさらされ、矢の雨を嫌えば速さを封じられる。

 いずれを選んでも簡単には近づけまい。

 考えたものだ。


「正面後衛は弓を構えて合図があるまで待機だ」


「「「「「おう!」」」」」


 皆が返事をしたところで森の木々を突き破るように獣が飛び出してきた。

 血のように赤い毛皮を持つブラッドウルフだ。

 普通の狼より二回りほど大きい体躯から繰り出される牙や爪による攻撃は一般人相手だと一撃で致命傷になり得る。

 その上、ゴブリンなどよりも素早く群れで狩りをするように襲いかかってくるのだから質が悪い。


「押し返せっ!」


 リーアンの合図で風の魔法が叩きつけられた。

 ブラッドウルフたちが強風にあおられて進みが遅くなる。

 忌々しそうに牙をむき出しにして唸りながらも前に進むことだけは諦めない。

 スィーはよくコイツらを傷つけずに足止めできたものだ。


「ウオオオォォォォォォォォン!」


 群れを統率しているとおぼしきリーダーが吠えるとブラッドウルフたちが左右に分かれようと動き始める。

 魔法の風は自然のそれと違って狭い範囲で幅が限られていることを見切るか。

 しかも二手に分かれれば魔法の集中を回避できると悟ったであろうリーダーは賢い。

 闘争本能丸出しで襲ってくるゴブリンなどとは大違いだ。


 ただし、所詮は獣がベースの魔物である。

 向こうの考えそうなことを読むのは造作もない。


「側面、矢を射かけろ!」


 指示が出されるやいなや矢が放たれた。

 斜め方向から飛んで来た矢を受けたブラッドウルフが倒れ、回避して逃れたブラッドウルフは強風の中へと戻されてしまう。

 その後は消化試合の様相を呈していた。


 リーダーだけは最後まで粘ったものの動きの鈍ったブラッドウルフなど脅威ではない。

 非戦闘員が放った矢でさえ易々と命中するのだから。

 狩猟が生活の根幹をなしているリケーネの民たちにしてみれば、これくらいはできて当然という認識のようではあったけれども。


 次に襲いかかってきた別のブラッドウルフの群れも同様に完封。

 残りの足止めしていた魔物たちもブラッドウルフだったためにパターン化したのは言うまでもない。


 最後の群れを相手にする頃には「またかよ」という空気すら漂い、リーアンに活を入れられる羽目になっていたけれど。

 油断大敵とはいえ、ちょっと同情してしまったほどだ。


 ちなみに俺たちに向かってくるブラッドウルフは何故か皆無であった。


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