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63 招かれざる客はこちらの都合を考えない

 リケーネの民たちの手によってゴブリンは手際よく殲滅された。

 こっちに目移りして向かって来た奴らは俺たちを信用してあえて無視していたし。


「次の魔物がこっちに流れてきた時は俺も戦ってみるか」


「どういう風の吹き回し?」


 スィーが珍しく目を丸くさせて聞いてきた。

 そんなに驚くことでもないと思うのだが。


「いや、だって鉄甲の使い心地を確かめきれてないからさ」


 スタンピードの前に少し使った程度で馴染んだとは言い難いんだよな。


「使い勝手によっては他の武器に変更することも考慮しないといけないし」


 スタンピードの時は食材確保がメインの目的だったし時間が限られていたので魔法しか使っていない。


「ああ、そういうこと」


 言い訳くさい俺の返事を聞いたスィーも一応は納得してくれたようだ。

 とはいうものの魔物がなかなか来てくれない。

 出現場所などの都合で俺たちが待機している方向からは来なくなっただけで襲撃がゼロではないのだが。


「では、次の集団ではチャンスがあるかもしれませんよ」


「ん?」


 ケイトの言葉に俺は周辺の気配を確認すると比較的近くでポップしたらしい集団がこちらに向かっていた。

 チャンスと言った理由は集団の規模の大きさだろう。

 最初に迎え撃ったゴブリンよりも数がやや多い。

 ただ、奴らより足が遅いので別種の魔物だな。


 あと数分ほどでリーファンの感知範囲内にも入ってくるだろう。

 エルフたちも、なるべく魔法を使わず余力を残しているので迎撃に不安は感じない。

 超絶的にマズいポーションを飲みたくないというのもあるとは思う。


 戦術が計算され上手くコントロールされているとは思うのだが、何かが引っかかった。

 そこに油断はないだろうかと。

 誰も気がゆるんでいる様子はない。

 張り詰めすぎて疲れた様子を見せる者もいない。


 だが、何故か今のままではダメな気がした。

 何か小さな警鐘が鳴らされているように感じるのだ。

 大物が接近しているような感じではない。

 間近にいる集団に強烈な気配を放つ奴が混じっている訳でもない。

 念のために感知範囲を広げてみると……


「あー、これダメじゃん」


 チャンスとか言ってる場合じゃないのが分かった。

 間近に迫りつつある連中以外にも複数の集団がこちらに向かっている。

 こいつらは足が速い。


「え?」


 ケイトが気付かなかったのも仕方がない。

 足の速い魔物たちとは、まだ距離がある。

 出現位置自体は方向も距離もバラバラなのだ。

 しかしながら移動速度を考えると襲撃タイミングが被ってしまう。

 エルフたちに任せるということで感知範囲を最低限に絞り込んでいたのが裏目に出た。


 最も近い位置にいる魔物が最初に襲ってくることになるとは思うが奴らは数が多い。

 こいつらをすべて仕留めきる前に他の集団が続々と現れるはずだ。

 そうなれば四方八方から襲いかかられることになる。

 守る者が多いリーアンたちにとって荷が重いと言わざるを得ない。

 リーファンの索敵が見逃しもなく優秀であることに胡座をかいてしまった我々のミスだ。


「あっ」


 こちらから指摘する前にケイトも気付いたようで苦々しげに歯噛みしている。

 だが、今すべきは後悔ではなくエルフたちへのフォローだろう。

 下手なやり方だと混乱を呼ぶだけで時間を無駄にしかねない。


「ユート」


 呼びかけてきたスィーが目で語りかけてきた。

 万が一でもリーアンたちに聞かれないようにと用心しているのか。

 リーファンの索敵範囲に入る前に何とかすればいいのだろうが、安易に殲滅してしまうと後でそれがバレた時に揉める元になりかねない。

 雑魚は任せると言ったのに自分たちが信じられないのかなんて言われると返す言葉もない訳で……


「襲撃が被らないよう時間を稼ぐ感じで頼むな」


「了解」


 返事をするやいなや最初からこの場にいなかったかのように音もなくスィーは姿を消した。

 まるで忍者である。

 それでもリーファンには把握されているとは思うがね。

 ただ、彼女ならとやかくは言わないだろう。


「私も行きましょうか?」


 ケイトが聞いてくるが俺は頭を振った。


「さすがに何事かと思われるぞ」


 それに各集団を足止めするだけなら難しい仕事ではない。

 さっそく2番目に近い集団に接敵している。


「保険を掛けるにしてもリケーネの民が戦闘状態に入ってからにした方がいい」


「わかりました」


「向こうの方角から魔物の集団が来るわ」


 ケイトが返事をしたところでリーファンが警告を発した。


「気をつけて! 大柄で数はこれまでで一番多い」


 場の空気が騒然とする。

 今まで襲撃してきていたのはゴブリンや犬を擬人化させたような姿をしているコボルトばかりだったからな。

 数も最初に襲ってきた奴らと比べてそんなに多くはなかったし。


 体格的にもエルフたちの方が大きいから不利になることはない。

 コボルトはゴブリンよりも少し大きい程度で素早さはあるけど膂力は大して差がないからな。

 連携して攻撃してくる分だけゴブリンよりは厄介という程度の存在だ。

 エルフたちは散開させないように誘導しつつ上手く戦っていた。


 が、今度の相手は今までのように接近する前に仕留めきるのは難しかろう。

 背丈は大柄な人間ほどだが横に大きい重量級のオークだからな。

 体型だけで言えば力士に近い上に数十以上の集団とくれば、華奢なエルフたちでなくても脅威である。

 リーファンの警告に危機感が募ったのだろう。


「俺が見てこよう」


 そう言うなり投げ槍名人のリグロフが駆け出した。


「無茶をするなっ」


 リーアンは制止したが止まらない。


「すぐに戻る。魔物の種類を確認するだけだ」


 首だけを振り向かせて返事をしたリグロフは立ち止まることなく走り去った。


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