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62 エルフたちの戦い

 ドロップした宝箱はシャドウストレージの魔法で格納しておいた。

 中身を確認したいのは山々だったけど怯えているエルフたちが大勢いる中で宝箱を漁るのはデリカシーに欠けるだろう?

 幸いにも宝箱が出現したのはマッシブボアウォリアーが掘り返した穴の中だったのでリケーネの民からは死角になっていた。

 魔法で格納しても騒ぎになることはない。


 まあ、エルフたちは見上げるように大きな魔物がいきなり消えたことで唖然としているので気付かれなかったかもしれないけど。

 決死隊の面々ならば気付くとは思うが、多少なりと俺たちのことを知っている彼らが騒いだりはしないだろう。


「リーアン、終わったぞー」


 背後に声を掛けておく。

 でないと、ずっとポカーンとしたままで再起動するのがいつになったことやら。


「おっ、おお……、すまない、助かった」


 金縛りが解けたように身じろぎしたリーアンが、どうにか返事をしてきた。


「デカブツはこっちで処理するから雑魚はそっちで頑張れー」


「お、おう」


 返事はぎこちなかったが、その後の対応は素早かった。


「魔物への警戒を密にしろ!」


 仲間たちに活を入れ──


「風の障壁は解除して魔力を温存しろ。配置も初期状態に戻して警戒を怠るな」


 的確な指示を出し直した。

 ただ、返事はバラバラで先行きに不安を感じさせられたけどね。

 やきもきしつつ見守っていると各々が指示通り行動に移っていく。

 最初こそ動きがぎこちなかったもののテキパキとした動きに変わっていったので一安心。

 決死隊だけでなく戦闘要員のエルフたちも日頃から鍛えられているみたいだな。


 とりあえずマッシブボアウォリアーが消えたことには目をつぶることにしたみたいだ。

 新たにポップした魔物の集団が近づきつつあるし、それでいいと思う。


「ユート様、彼らに教えないのですか?」


 ケイトが小声で耳打ちしてきた。


「雑魚はリーアンたちに任せるって言ったばかりだろ」


 非戦闘員は大勢いるが、それを守れないようでは移住してもやっていけまい。

 フィールドダンジョン化する前のここより安全な土地で住めるとは限らないからな。

 少なくともこの近辺の地域はもはや安全ではない。

 たとえダンジョンの外だったとしてもね。


 ここはフィールドダンジョンとしても広大なようだし、外に弾き出される魔物も多くなるのは目に見えている。

 そう考えると移住先の選定は慎重にならざるを得ないのだが。

 人里に近い場所をリケーネの民が望むとも思えないのがネックになっている。

 今まで外部との交流が極端に少なかったからなぁ。

 脱出できればオッケーとか安直に考えていたのは反省すべきだろう。


「そうでした」


 ケイトが俺の言葉に納得したようなので、しばし思考に埋没する。

 その間にも魔物は接近しつつあった。


「兄さん!」


 リーファンが緊張感のある声でリーアンに呼びかけた。


「敵か!?」


「ええ、数が多いわ」


 察知した方角を指差しながら答えるリーファン。


「どれくらいいるんだ?」


「両手両足で数え切れないくらいには」


「なんてことだ」


 2桁の数を超える敵の襲撃が確実だと知ったリーアンは苦々しげに顔をしかめた。


「でも、足はそんなに速くない」


 リーファンは兄の様子に気付いてはいたようだが報告を続行する。


「まだ、猶予はあるか」


 気持ちを切り替えたリーアンが呟いた。


「背丈も私たちより低いわ」


「ゴブリンか……」


 迷いの表情をのぞかせながら呟くリーアン。

 確証はなさそうだが、すぐに表情を引き締めた。


「魔物が来るのはそちらからだけだな?」


「今のところは」


「そうか、引き続き警戒を頼む」


「分かったわ」


「他の者は弓の用意を」


 リーアンの指示を受けて剣を鞘に収め槍を地面に突き立て弓に持ち替える戦闘要員たち。


「数を減らしてから近接戦で殲滅する」


 そうして迎撃準備が整い待つことしばし。

 ようやくと言っていいタイミングで森の木々の間から魔物が姿を現した。


「弓、構え」


 リーアンの指示により弓を手にした者たちが矢をつがえ弓を引き絞る。

 決死隊の面々のその所作は手早く無駄がない。

 スタンピードの異変を偵察する選抜メンバーだっただけはある。

 それ以外の面子がダメという訳ではないがね。

 狩猟が生活の一部となっているだけあって弓の扱いは手慣れているもんな。


「まだだ! 引きつけて確実に仕留めるぞ」


 それを束ねるリーアンの指揮は落ち着いていた。

 狼などの足の速い獣系であったなら風の障壁を張り直させていたと思う。

 敵の姿を視認してからの判断も速い。

 だからといって拙速が過ぎることもなく先頭のゴブリンが見えた時点で矢を放とうとする者が出ないよう抑えている。

 ゴブリンの大半が未だ開けた場所に出てきていないからな。


「今だっ、放て!」


 ゴブリンどもが横に広がるように突貫してきた直後、リーアンの号令によって一斉に矢が解き放たれた。

 タイミングも絶妙。


「後衛、第2射を!」


 まだ距離はあるから更に数を減らせるだろう。


「前衛は武器を持ち替えて待機」


 2射目をも潜り抜けてきたゴブリンどもを近接戦で仕留めきるつもりのようだ。

 距離的には次も弓矢で攻撃できなくはないのだけれど。

 そのあたりは矢の消耗や確実性も考慮してのことなのだろう。

 あまり近づかせると非戦闘員のエルフたちを怯えさせかねない訳だし。

 対照的に武器を手にしたエルフたちはリーアンの指示通り迷いなく動けている。

 練度が高いと安心して見ていられるね。


 ただ、魔物にも気まぐれなのがいて俺たちの方へと向かって来るのが2匹ばかりいた。


「おや、目移りしたか?」


「始末します」


「斬る」


「任せるよ」


 短いやり取りをした直後には決着がついていた。


「他愛もないですね」


 シールドトンファーの一撃で首をへし折ったケイトが物足りなさそうに嘆息し。


「つまらぬものを斬ってしまった」


 スィーは何処かで聞いたような台詞を言いながら二振りの小太刀をそれぞれ血振りして納刀。


 後はエルフたちの戦いを見守るだけだ。

 もちろん奮闘したエルフたちによって残りのゴブリンも間もなく全滅した。


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