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61 鉄の巨人は猪武者の夢を見ない

「「「「「来たぁ────────っ!」」」」」


 地面を掘り返す勢いでダッシュを始めたマッシブボアウォリアーに何人ものエルフたちが悲鳴を上げた。

 怯えるなと言う方が無理があるのだが言いたい。

 他の魔物たちを誘引しかねないのでね。


「大丈夫だ」


 風の魔法を用いてエルフたちに声を届ける。

 その直後、デカブツ担当であるメイドロイドが俺たちの真ん前にVMAを滑り込ませて真っ向勝負を選択した。

 が、エルフたちは魔物の突進を受け止められるはずがないと思ったのだろう。

 非戦闘員の多くは堅く目を閉じ体を強張らせた。

 中には頭を抱えてしゃがみ込む者までいる始末だ。


 その予測は裏切られる結果となる。

 細身のVMAなど吹っ飛べとばかりにショルダータックルをかまそうとしたデカブツの突進は何もない空間で唐突に止められた。

 重力制御装置によって形成された不可視のシールドが突進を受け止め阻んでいる。


 あの巨体を正面衝突の形で受け止めたにしては激しい衝突音はなく静かだった。

 それを証明するかのようにVMAは微動だにしていない。

 形のある盾で受け止めていたなら、こうはいかなかっただろう。


 見えないシールドは突進を止めた少し手前の位置から奴の運動エネルギーを弱める形で作用していた。

 強制的にブレーキを掛けられ最終的に見えざる壁で止められた訳だ。


「ブモオオオォォォォォ────────ッ!!」


 何が起きたか理解できていないであろう魔物が苛立たしげに咆哮した。

 そのまま押し切ってやるとばかりに下肢に力を込め歩を進めようとするがVMAはビクともしない。

 シールドだけではなく重力アンカーも併用しているからね。

 ガッチガチに固定された今のVMAは堅牢な城壁以上の存在である。

 いかに相手が剛力自慢のパワーファイターであろうと力押しだけではどうにもならない。

 奴の足下の地面が掘り返されていくだけだ。


「なんとっ!?」


 誰かが発した驚きの声を皮切りに背後が騒然としていく。


「凄い……」


「ウソでしょ!?」


「どうなっているんだ」


「ビクともしないなんて」


「信じられない、夢を見ているのか?」


 エルフたちは狐につままれたような表情を見せているが、これは夢ではなく現実だ。

 気持ちは分からんではないがね。

 絶望的な状況があっさり覆された訳だし。

 ただ、そうではない者たちもいる。


「止まる前にかなり減速してたよな」


 角刈りくんことグーガーが隣にいる槍投げ名人のリグロフに確認していた。


「そうだな」


 困惑しつつも頷いて答えている。


「風の魔法を使ったとか?」


「どうだろうな、そういう気配は感じなかったが」


 リグロフの言う気配というのは風の精霊のことだろう。

 どうやら精霊魔法でなくても魔法を使えば同じ属性の精霊は反応するようだ。


「リーファン?」


 近くで話を聞いていたリーアンが妹に話を振った。

 それを察した先の2人もリーファンの方を見る。

 いや、決死隊の一同全員が注目していた。

 一斉に視線を受けたことで少しばかりたじろぐ様子を見せたリーファンだったが。


「いいえ、風の精霊は違うと言ってるわ」


 その返事に一同は困惑して顔を見合わせるしかなかった。

 答えたリーファン自身が困惑しているくらいだから無理もない。


「何か俺たちに分からない魔法を使ったんだろう」


 分からないながらもリーアンはそう結論づけた。


「あの鉄の巨人はユートたちが召喚したことを考えれば何ら不思議ではない」


「「「「「あー……」」」」」


 決死隊の面々が諦観の感じられる表情で頷いている。

 何でだよっ!?

 ツッコミを入れたかったが非戦闘員のエルフたちが不安そうにしているのでスルーしておいた。

 マッシブボアウォリアーを仕留めるどころか反撃もまだだしな。


 いい加減、奴を止めないと地面を掘り返しすぎて膝が埋まりつつある。

 ここが元の集落のままであったなら環境破壊もいいところだ。

 ダンジョン化しているので放っておいても明日には元通りだろうけど。


「そろそろトドメを頼みたいものだな」


 俺が注文をつけると、それまで微動だにしなかったVMAが動き始めた。

 まずは右腕だけ重力アンカーを解除。

 次に右手首のあたりから細長い棒が飛び出てくる。

 それをVMAがキャッチすると棒の先端から光が伸びた。

 ロボットアニメではおなじみのビームソードだ。


 眼前の敵を吹っ飛ばして押し通ることしか頭にない筋肉バカなどは格好の的だろう。

 横薙ぎに振るえば相手の首を切り落としてしまうこともできるくらい無防備だった。

 盾はこういう時に邪魔になりそうなものだが重力シールドは形状を自在に変更できるので便利だ。


 とにかく最初の襲撃は首チョンパによって呆気ない幕切れを迎えた。

 さすがのマッシブボアウォリアーも斬首されて動けるほど非常識な存在ではない。


「はい、一丁上がり」


 俺がそう言うのとほぼ同時に魔物の巨体が消えた。

 そして奴が掘り返した穴の中に大小の宝箱がいくつも出現する。


「ドロップしたか」


 ダンジョン内で魔物が死ぬとこういうことがあるというのは龍の知識で知っていたけど、実際に目の当たりにしても実感が伴わない。

 というより本当にドロップしたんだという驚きがあった。


「まるでゲーム」


 スィーの言う通りだからなんだろうな。

 そのうち慣れると思いたい。


読んでくれてありがとう。

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