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57 守備の主体はリケーネの民だけれど

「リーファンも行った方がいいんじゃないのか」


 俺が指摘するとリーファンは目を丸くさせて「あっ」と声を漏らす。

 次の瞬間には──


「すみません!」


 ガバッと全力で頭を下げ、そして兄の後を追っていく。

 充分に距離を取ったのを見届けて俺は嘆息した。


「さて、忙しくなるな」


「脱出させるだけのつもりじゃないのかニャ?」


 レイが意外だと言わんばかりの顔をして聞いてくる。


「誰もそんなことは言ってないぞ」


 俺はリーアンに里の者たちを守れと言っただけだ。


「手伝わないとは、これっぽっちも言ってない」


「なるほど。戦える者だけでリケーネの民全員を守るのは難しいかもしれませんね」


「非戦闘員の方が多い」


 ケイトとスィーが俺の意図を理解してくれたようだ。

 戦う準備を進めている者は決死隊の面々以外にも何人かいるみたいだけどカバーしきれまい。

 エルフは精霊魔法を得意としているから軽く身を守る程度のことができる者はそれなりにいるだろうけど。

 それでも連続して攻撃されたり数で押し寄せられたりすると厳しいと思う。


 あと不意打ちにも弱いはずだ。

 そういうのは日頃から訓練している者たちでないと対処できないからな。

 リケーネの民数百人の中では1割くらいか。

 非戦闘員を守るにはギリギリの人員だと思われる。

 戦えない者たちの協力があれば、どうにかなりそうではあるが。


 逆を言えば何かの拍子にそのバランスが崩れてしまうと悲惨なことになりかねない。

 リーアンが指揮するなら簡単にそういうことにはならないと思うが。


「ここがどれだけ広いダンジョンかは把握しているよな」


「もちろんニャ」


「ダンジョンはその大きさに比例して──」


「強力な魔物がポップしやすくなるニャ!」


 俺が喋っている途中でレイは強引に言葉を被せてきた。


「それを理解しているならリーアンたちだけに防衛を任せっきりにできると思うか?」


「それもそうだニャ~」


 レイはそう言ってニャハハと笑った。

 ただ、目は獲物を狙う光をたたえている。

 すっかりやる気になっている証拠だ。


「俺たちが手を出すのはエルフたちに対抗できそうにない魔物だけだぞ」


「了解、了解、オッケーなのニャッ!」


 すぐに応じはしたものの、疑わしく思えてならないノリの軽い返事に思わずジト目で見てしまう。

 当然のことながら何も言わなくても疑われていることには、すぐ気付く訳で。


「大丈夫ニャ~、そのあたりはわきまえてるニャよ」


 その口ぶりとヘラヘラした態度から今ひとつ信用ならないが追求したところで堂々巡りになるのが目に見えている。

 止むなくスルーした。


「ケイト、ストラトスフィアにアクセスして──」


「揚陸艇を降下させるのですね」


 指示を出そうと思ったら先回りされてしまった。


「ああ、マニピュレートアーマー用のでな」


 マニピュレートアーマーとはCWOで使われている人型兵器のことであり、略称をMAと言う。

 可変タイプだと正式名称はヴァリアブルマニピュレートアーマーという長ったらしい呼称になるので可変MAとかVMAと言ったりもする。


 俺のリクエストはそのサイズの揚陸艇を降下させることだった。

 あれならば1隻でリケーネの民たちを収容可能なはずだ。

 MAは搭載せずMA用ハンガーを何機分も積み重ねてフロア代わりにする必要はあるけどね。

 ただ、俺の意図するところはケイトには伝わらなかったらしくキョトンとしていた。


「周辺の魔物を一掃するつもりですか?」


 MAで魔物退治をするものと誤解されてしまったようだ。


「違う違う。揚陸艇にはMAを積まずに降下させるんだよ」


「あっ、全員を単機で回収するのですね」


「そゆこと」


 気付いた答えが正解だったにもかかわらずケイトはしおしおと縮んでいく。

 頬を赤らめてさえいるところを見ると恥ずかしいみたいだ。


「スィー、周辺の瘴気を──」


「既に確認済み」


「そうか」


 仕事が早い。


「瘴気が極端に濃い場所が数カ所ある」


「強力な魔物がポップしそうだな」


「その推測は正しい」


「おや、出現の兆候があるのか?」


 俺の問いかけにスィーは頭を振った。


「逆。完全にポップするまでは時間がかかる」


「あちゃー」


 スィーの返答に俺は渋面を浮かべて思わず天を仰ぎ見た。


「瘴気を貯め込むとか大型の魔物が出現するパターンじゃないか」


「高確率でそうなると推測」


 スィーは淡々と答えるがシャレになっていない事態になりつつある。

 リケーネの民たちにとっては最悪の知らせとなるだろう。

 数で押し寄せられるのも脅威だが、単独でも大きいのに襲われれば壊滅的なダメージを受ける恐れがある。

 大質量というのはそれだけで恐ろしい武器になるからな。


「ケイト、VMAを先に何機か降下させて対処させる」


 VMAであれば単独で地上に降下する能力があるし、揚陸艇よりずっと速い。


「了解しました」


「え~、そういうのを間引くのがニャーたちの役目ニャよ」


 俺が予定を変えたことにレイが不満を口にした。

 本来であればレイの主張は間違っていないのだが……


「遊ばずに瞬殺するなら、それでも構わんが?」


 遊ぶというのは言い過ぎかもしれないが、それはあえて口にしたことだ。

 大きな魔物と戦うのは初めてのことだから色々と試したくなるはずなんだよ。


「うっ」


 現に短く呻いて目をそらしてしまったからね。

 困ったものだ。


読んでくれてありがとう。

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