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54 気付けば気付かれる

 ひとつ重要なことを失念していた。

 狂乱状態の魔物どもに特定の目的地などありはしない。

 せいぜいが発生場所から近くて魔力の濃い場所へ引き寄せられるだけ。


 ならばどうして川の支流が本流へ流れ込むように魔物どもが合流するのか。

 一部が合流するというならまだしも、すべてがそのように移動するなど考えにくい。

 龍の知識が間違いないと言っている。

 その事実に気づけたのは何気ない疑問を口にしたエルフの子供のお陰だな。

 知識がありながら活かせなかった俺自身の情けなさが際立つというものである。


 ただ、今は反省するよりも対応する方が優先される状況のはずだ。

 直感的に焦りは感じないとはいえ、焦りを感じてから動き出すんじゃ遅すぎる。

 とにかく俺はハンドサインでケイトたちを呼び寄せた。

 エルフたちの大半は決死隊のメンバーを囲んで報告会のようになっているので気付かれないだろう。


「ユート、一体どうしたニャ~?」


 揚陸艇の陰に回り込んだ直後にレイが聞いてくるが緊張感はない。


「何か問題でもありましたか?」


 ケイトも同様だ。


「あるに決まっている。2人とも緊張感なさ過ぎ」


 スィーの言葉で2人とも「ぐぬぬ」状態になっていたけどな。


「絶対ではないんだが」


 俺はそう前置きして気付いたことを話し始めた。


「言われてみると確かに変ニャ」


「ユート様はこちらの方角に魔物どもを引き寄せる何かがあると考えられたのですね?」


「捜索任務」


「何をすればいいニャ?」


 3人も龍の知識を持っているから懸念事項を説明すればすぐに納得してくれた。

 その割に俺みたいな苛立ちを感じる様子がなかったけど。

 メンタルは俺よりタフなようでうらやましい限りである。


「あのぅ、何かあったんですか?」


 申し訳なさそうにしながらも横入りしてきたのはリーファンだった。

 彼女は精霊に愛されているので下手な誤魔化しは通用しないだろう。

 なかなか手強いものだ。

 とはいえ口は堅そうだし動揺して激しく取り乱すようなタイプでもない。

 そういう意味では運が良かった。


「今のところは何もないんだが、これから先はどうなるか読めないことに気付いた」


「どういうことでしょうか?」


 正直に話せば否が応でもそうなるよな。

 何か良くないことが起きそうだと言われては黙っていられないだろう。

 家は残らず燃えてしまったとはいえ、ここはリーファンたちの生まれ育った場所なんだから。

 ただ、状況によっては再建前で良かったと言えるかもしれない。


「スタンピードがらみの話だ」


「っ!?」


 俺の返答に驚愕しつつも困惑の表情を見せるリーファン。

 大きな声を出しそうになったのを無理に止めようとしたのか、凍り付いたかのように固まってしまっていた。

 顔色も一瞬で悪くなり凍ってしまったかのように血の気が引いている。


 悲鳴を上げなかったのは不幸中の幸いと言えば良いだろうか。

 他の誰かが寄ってくれば収拾がつかなくなる事態に陥る恐れだってあるからね。

 そう考えると、今の状態のリーファンに声を掛けるのも躊躇われる。

 彼女の内心を推し量ることは困難だし迂闊な真似はできない。

 それがほんの数十秒のことであっても息苦しささえ感じるほど長く感じた。


「まさか、まだ何処かでスタンピードが続いていると?」


 声を震わせつつ絞り出すようにしてリーファンが聞いてきた。

 あれだけの光景を目の当たりにして1日と経っていないのだから無理もない。


「それはない。スタンピードは終息している」


「本当に?」


「保証しよう」


 気負いなく答えると、リーファンはこわばっていた体から力が抜けへたり込みそうになっていた。


「大丈夫か?」


 我ながら間抜けなことを聞いたものだ。

 大丈夫じゃないからこそ、この状態なのだ。


「大丈夫です」


 そう返事してきたところでスタンピードの魔物どもの移動がおかしいことを説明した。


「それで、あんなに集まっていたのですね」


 気になるのはそっちか。

 まあ、間違った認識ではないんだけど。


「止められていなかったら里は確実に飲み込まれていました」


 こういう結果もあり得た訳だし。


「もしかすると過去の話にするのは早計かもしれない」


 再びリーファンの顔色が悪くなる。


「どういうことでしょうか?」


「最終的な目的地が同じだから魔物どもは集まったと言っただろう?」


「まさか……」


 大きく目を見開いたリーファンは言葉を失ってしまった。


「目的地が何処かは確定していないから断定的なことは言えないがな」


「では、里に押し寄せてこないこともあり得ると?」


 耳に届いた言葉だけなら期待を込めた問いかけに思えたかもしれなかったが、リーファンを見ていれば違うと分かる。

 その表情は最初から答えが否定的であることを覚悟しているかのごとく渋い。


「無いとは言わない」


「え?」


 意外な答えを聞いたとばかりに目を丸くさせるリーファン。


「魔物どもの目的地が北壁山だったかもしれないからな」


 倒してしまったから確証はないけど、可能性がゼロとは言えない。

 スタンピードの時の様子から察するに限りなくゼロに近いとは思ったけど。


「ただ、下手な期待は抱かない方がいい」


 最悪のケースが致命的な被害をもたらすのであれば想定して動くのは当然のこと。

 何もなければ喜べばいい。


「そう、ですか」


「場合によっては里は通過点でしかないということも考えられるしな」


読んでくれてありがとう。

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