５２　何故か気になる

「真の勇者はやめてください」

「勇者は構わないのか？」

　思わずリーファンに聞いていた。

「里の中で完結する冗談ですから」

「あー、そういうこと」

「真の勇者はどう違うのニャ？」

「冗談で終わらなくなる恐れがありますよね」

　外部に話が漏れれば無いとは言えない。

　俺たち部外者がいることだしな。

「それは笑えないな」

「どう笑えないニャ？」

「よその揉め事に無理やり担ぎ出されたら？」

「それは勘弁してほしいニャ～」

「そういうことだ」

　そんなことより気にすべきはスタンピードの発生源だろう。

　創天神様たちの話によれば、混沌のエネルギーを溜め込みすぎたダンジョンが暴発崩壊することによって発生する。

　混沌のエネルギー源は負の魔力とも言うべき瘴気。

　それを増幅させるのはネガティブな人の感情だという。

　ただ、１人や２人が憎悪を抱いてもダンジョン内で魔物が発生して終わるだけだ。

　だとすると今回の一件はかなりマズいことのような気がしてきた。

　あの規模のスタンピードならば発生源では相応の瘴気が蔓延していたと考えるべきだ。

　戦争や災害など小国なら軽く滅びてしまうくらいの何かがあったんじゃなかろうか。

　全滅ボーナスをゲットして浮かれている場合じゃない。

　ドローンだけでなくストラトスフィアにも調査の指示を出した。

　あの規模のスタンピードが通過した場所で救助対象は残っていないと思うが。

　それでも、どうなっているのか確認しておくに越したことはない。

　発生源は宇宙空間から確認すればすぐに発見できた。

　広範囲で瓦礫の山状態になっている不自然な場所があったからだ。

　ここからだと相当な距離があったが、スタンピードの魔物たちが行軍したような跡が北壁山方面に続いているので間違いあるまい。

　発生源の瓦礫はレンガや石材が多いことから元は大きな街だったものと思われる。

　何処かの国の首都か商業都市として栄えていた街か、そんなところだろう。

　よく見ると行軍の跡は他にもあって似たような有様だった。

　それも、ひとつやふたつではない。

　国破れて山河ありという言葉を思い出させてくれるほどの状態だ。

　小国であれば滅んでいてもおかしくない規模であるのは間違いなかった。

　不思議なことに行軍の痕跡はいずれも北壁山方面に向かって集中している。

　同時多発的に発生して川の流れのように合流していったというところか。

　まるで統一された意思に沿っているかのようだ。

　北壁山に向かうことに何の意味があるのか分かりかねるが。

　それよりも気にすべきはスタンピードの残滓の方だろう。

　ダンジョンが稼働状態で残ることもあると創天神様たちから聞いていたからだ。

　その場合、スタンピード直後は出し尽くした状態なので通常の状態にまで回復するのには時間がかかるのだが。

　とはいえダンジョンが断滅していなければ魔物を生み出す能力を失った訳ではない。

　いずれ力を取り戻しダンジョン内を魔物が闊歩するようになる。

　ただ、その状態に至るまでの時間は相応に必要だ。

　寿命の長いエルフたちでさえ前のスタンピードを過去の話とするくらいには。

　故にスタンピード直後の現状においてスタンピードが再発することにはならない。

　それでもダンジョンが残っていればリケーネの民には心理的な負担となったことだろう。

　幸いにもスタンピードの発生したダンジョンで稼働状態にあるものはないようだ。

　しかし、俺は何か引っかかるものを感じていた。

　釈然としないというか腑に落ちないというか……

　違和感と言い換えてもいいかもしれない。

　スタンピードは既に終息しているというのに一体何だというのか。

　まさか、まだスタンピードが続いているとでも？

　浮上しかけた疑念を問題外だとして一蹴しかけたところで何故か躊躇ってしまった。

　スタンピードで行軍していた魔物は全滅させたのだから常識的に考えれば問題外のはずなのに。

　だが、俺は勘というものは大事にすべきものだと思っている。

　嫌な予感がする時は尚更な。

　では魔物は全滅していなかったと仮定してみよう。

　ドローンで捜索してきたが生き残りがいるという報告はない。

　もしかしてステルス性の高い魔物がいるのか？

　例えば霊体型のアンデッドは実態を持たないため物理攻撃は通用しない。

　ただ、ケイトの擬似的な土石流アタックは魔法的な効果も付与されていたので防御はできなかったはず。

　空を飛んで土石流から逃れられたとしても高速で襲いかかる高温ガスからは逃れられない。

　あれに耐えきるほど強力な魔物だったとしたら……

　いや、だとしてもセンサーに反応しないのはおかしい。

　すべての魔物は瘴気をまとっているからな。

　弱い魔物なら反応が微弱で見逃すこともあるかもしれないが、ケイトの大魔法を耐えきるほどの強力なアンデッドの反応が弱いとは思えない。

　たとえダメージを受けて弱っていたとしてもな。

　それに弱体化している時だからこそ隙ができやすくなりボロが出るはずだ。

　何よりスタンピードの影響を受けて狂乱状態となっているのだから複雑な思考はできない。

　それはつまり相手を謀ろうとするような真似はできないことを意味する訳で。

　だとするならセンサーが捉えるはずだ。

　ドローンはＣＷＯ由来ではあるが中身は機械ではなく魔道具だからな。