51 俺たちは勇者じゃない
「なんてことだ」
信じられないものを見るような目を俺に向けたまま呆然とするリーアン。
まるで俺が解毒できない毒を飲んだかのような反応である。
MPポーションは薬効はあっても毒性は皆無なんだが。
何にせよ、これよりも優秀なポーションはそうそうないだろう。
即効性がハンパない上に副作用もない。
この味に耐えられさえすれば、いざという時にMPの心配をしなくて済む訳だ。
あ、俺の場合はMPがすぐに回復して効果が実感できないから薬にならないのか。
……そっちの方が俺にはショックだ。
せっかく激マズなポーションを飲んだっていうのに味と効能の詳細を把握しただけ。
そんなの飲み干すまでもなく鑑定すればいいだけじゃないか。
まあ、ショックではあるが誰の迷惑にも害にもなっていないから良しとしよう。
だというのにリーアンは俺以上にショックを受けていますよ?
他のエルフたちも驚愕を顔に貼り付けた感じになっている。
「勇者……」
「勇者だ」
「勇者がいるぞ」
他のエルフたちが口々に俺のことを勇者呼ばわりし始めた。
誰が勇者やねん。
たかだかポーションを飲み干したくらいで……
味覚破壊は凄まじいものがあるのは認めるけどさ。
この程度で勇者認定されましたなんて何処のラノベだよ。
それともエルフにとって勇者というのは叩き売りするほど安っぽいものなのか?
言っておくが、俺は勇者になって魔王を倒しに行くなんてガラじゃないぞ。
俺は日本でゲームをしていた時のように好きなことをして生きたいんだ。
冒険者になって色々な依頼を受けてみたり、商売をしたり、ものづくりをしてみたり。
とりあえず商談の真似事や家を建てたりはしたので次の目標は冒険者になることだ。
ただ、各地に偵察用のドローンを送り込んで細かく情報収集をしてからにしたい。
衛星軌道上から観察するだけじゃリサーチは大雑把になってしまうからね。
ついでにスタンピードの発生源とかも確認しておいた方がいいかもしれない。
残りかすのような魔物どもが後から排出されてリケーネの里に来ないとも限らないしな。
あの規模のスタンピードなら、残滓といえども軽く見ていると痛い目を見そうだ。
ついでと言わずに今から確認しておいた方が良いか。
そんな訳で降下後に使っていたドローンを総動員させておく。
何か問題があれば自動で報告が入ってくるように設定して放置するだけなので手間はかからない。
ケイトたち3人娘からは「なんで?」って目を向けられたけど。
設定変更したドローンが動き出せば、誰がどういう操作をしたのか通知が行くからな。
俺は声に出さず素早く「念のため」と唇を動かした。
驚いた状態から抜け出すことができていないエルフたちには気付かれた様子は見受けられない。
さすがに繰り返せば不審に思うエルフも出てきそうだから1回で理解してほしい。
幸いと言うべきか3人娘たちには通じたようだ。
伊達に龍の素材でできた体じゃないな。
まあ、そんな高スペックな体でも味覚は人並みなんだけど。
おかげで今も続く責め苦に耐えるのは大変だ。
だというのに3人は里の者たちからポーションをもらい受けて一気飲みしていた。
「「「「「おお……」」」」」
沸き起こるどよめき。
「夢でも見ているのか……」
「勇者がこんなに……」
「一体どうなっているんだ」
俺は俺で困惑するしかない。
だってさ、俺の真似をする必要が何処にあるのかサッパリわからん。
現にやせ我慢しているからな。
ポーカーフェイスを貫いてはいるけど一言も喋らないのが何よりの証拠だ。
強がりを言う余裕さえないのは、らしくない。
ここはスルーしておいてやろう。
下手に話しかけて返事をし損ねたりしたら、やせ我慢が崩壊しかねないし。
そんな訳で目線を変える。
いや、戻すと言うべきか。
「本物の勇者なら、ここにいるだろうに」
俺の言葉にエルフたちの視線の矛先が変わった。
「リーアンたちは里のために全力で山を登ってポーションの不味さにも耐えながら魔物の群れと戦ったじゃないか」
肝心のリーアンは目を丸くさせている。
どうして知っているのかと驚いているみたいだ。
「見ていたからな」
しれっと言うとリーアンは更に目を見開いた。
「どうにかしようと奮闘しているのに水を差しちゃ悪いだろう?」
そう問えば、ガックリと肩を落とした。
図らずも決死隊の奮闘ぶりをすべて見ていたことを暴露してしまったが仕方あるまい。
結局、リーアンたちも勇者認定されることになった。
とはいうものの俺たちも含めてだったけど。
リーアンに皆の印象を上書きしてフェードアウトすることはできなかった訳だ。
せいぜい頭数が増えたことで勇者呼ばわりされる度合いが分散した程度だな。
まあ、リーアンにとっては急に降って湧いたような災難だったと言えるのだけど。
里のエルフたちは勇者呼ばわりされること自体はそんなに迷惑には思わないようだ。
注目されて目立つのはダメみたいだけど。
そのせいか──
「俺などより妹の方が凄いぞ。同行した俺たちに気付かれることなく2本を飲みきっていたんだからな」
などと口走っていた。
リーアンよ、錯乱気味だったというのはあるだろうが普通に身内を売るか?
お陰でリーファンはしばらく「真の勇者」と呼ばれることになり困惑していた。
勇者呼ばわりはスルーできても「真の」と頭に付いてしまうとダメらしい。
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