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50 朝ご飯で悪夢を見た?

 炭の使いどころを実演したつもりだったんだけどなぁ。

 俺の魔法による家の建て方はリケーネの民には刺激が強すぎたようだ。

 期せずして建築無双みたいな結果になってしまった。


 まあ、ショックで失神する者が出た訳でもないのでスルー決定。

 驚かせてゴメンなさいくらいは言ったけど。

 そのタイミングで腹が鳴り皆に笑いが広がって有耶無耶になった。


 ちょっと恥ずかしかったが結果オーライだと思う。

 スタンピードの時に得た食材で炊き出しっぽい感じの朝食になったし。

 メニューとしては豚汁だ。

 リケーネの民にとって初めての味らしくてドキドキしたけど──


「美味しいね」


「温まるー」


「お代わりぃ」


 子供たちが喜んでいたので一安心である。

 大人も最初は遠慮がちだったがお代わりしてくれたしな。

 おいしそうに食べてもらえるのは提供した側としても嬉しいものだ。


「何から何まですまない」


 お代わりを一心不乱になって食べている子供を眺めながら悦に入っていると、横から話しかけてくる者がいた。

 リーアンである。


「言われるほどのことはしてないつもりだが?」


 そう返事をするとリーアンは目を丸くさせた。


「何を言うのか!? 我らの危機を救ってくれたばかりか、こうして食事まで」


「そういうことは言いっこなしだな」


「しかしだなっ」


「借りができたと思うなら、いつか誰かに返せばいい」


「は?」


「恩送りって知ってるか?」


 俺もFFOで教わって実践するようになった。

 FFOに留まらず他のゲームでもな。


「恩返しではなくか?」


 困惑気味の表情を見せながらリーアンが聞いてきた。


「返すのではなく別の相手に送ろうって発想なんだよ」


「よく分からんな」


 眉間にしわを寄せながらそう言って首をかしげるリーアン。


「要するに皆で幸せになろうよってことさ」


 何処かの昼行灯な隊長の口癖が出てしまったな。

 抽象的すぎたのかリーアンには理解しづらい考え方だったようだ。


「情けは人のためならずってな。巡り巡って自分に返ってくることもあるだろうさ」


 俺がそう言うと、リーアンは呆気にとられた表情を見せた。


「随分と気の長い話だ」


「意外とそうでもないんだぞ」


「そうなのか?」


 今度は目を丸くさせるリーアンである。


「経験者は語るってな」


 ただしゲーム内に限るってやつだ。

 まあ、そこは言わなくてもいいだろう。

 むしろ言ってもゲームという概念を理解できまい。


「そういうものか」


「人に親切にすれば、した方も気分がいいものなんだよ」


 ダメ押しにそう言うとリーアンが何かに気付いたような顔をした。


「なるほど、そういうことか」


 ようやく納得したようだ。


「今は何も気にせず飯を食えばいい。しかめっ面で食べても味なんてしないだろう?」


「そうだな」


 俺の問いかけに同意しつつリーアンは苦笑する。


「?」


 何かが引っかかったように感じたのは、その苦笑いがリーアン自身に向けられていると感じたからかもしれない。

 俺の反応を見たリーアンも気付いたようだ。


「すまないな。せっかく食事を提供してもらったのに今は味が分からない状態なんだ」


「体調でも崩したのか?」


「そうじゃない」


 再び苦笑するリーアン。


「かなり強烈な薬を飲んで舌がバカになってるんだよ」


「あー、魔力を回復させるポーションか」


「どうして分かるんだ?」


 リーアンが目を丸くさせた。


「火魔法を使う間に飲んでいたのを見たからな」


「なるほど。ユートは飛んで来たんだったな」


 上空でずっと見ていたとか言ってドン引きされたくはないし、納得してくれて一安心である。


「そんなに酷い味なのか?」


「大人でも1本飲み干せば3日は味覚が使い物にならなくなる」


 そう言いながらリーアンは懐から細くて小さい竹筒を出してきた。

 どうやら最後の1本を残していたようだ。

 いや、気にするところはそこではない。


「3日とは壮絶だな」


 青汁とセンブリ茶を混ぜて濃縮しても、そこまで行くだろうか。


「冗談で言っているのではないぞ」


「誰もそんなことは言ってないさ」


「飲んでみれば分かる」


 そんなことを言いながら竹筒を突き出してきた。

 どうやら俺がリーアンの話を信じていないとか思っているようだ。

 俺はそんな風に言った覚えはないんだがな。

 とはいえ飲まなきゃリーアンは引き下がらないだろう。


「しょうがないなぁ」


 俺が竹筒を受け取ると──


「「「「「おおーっ」」」」」


 周囲からどよめきが起こった。

 いつの間にか里の面々から注目されていたらしい。


「何だかなぁ」


 衆人環視の中で飲むのは居心地が悪い上に気恥ずかしさがハンパなく湧き上がってくる。

 とにかく、こういうのは思い切りが肝心だ。

 俺は竹筒を受け取るやいなや栓を引っこ抜いて一気に竹筒の中身を流し込んだ。


「──────────────────────────────っ!?」


 これ、アカンやつや!


 シャレになってまへんがな。

 苦みと不味さのゴールデンコンビが口腔内を駆け巡るぐらいに思っていたのだが、そんな生易しいもんじゃない。

 ネガティブな味の爆発&誘爆の連続。

 3日は味覚が使い物にならないとリーアンが言ったのは伊達ではなかった。


 それ故だろう。

 脳内で水をガブ飲みしろと言わんばかりに警報がけたたましく鳴り響き続けていた。

 飲んでも苦さや不味さは消しきれるものではなさそうだが。

 それでもマシになるだけでも充分だと本能が水を欲していた。


 だが、俺はそうしなかった。

 決死隊の面々はこれを耐えきったのだ。

 ならば俺も耐えてみせよう。

 無意味な意地だとは分かっちゃいるんだけどね。


 それでも、ここで水を飲んでギブアップしたら格好つかないだろ?


読んでくれてありがとう。

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