49 食問題の次は住問題
食の問題が解決できる目途が立ったら、次は住の方をどうにかしないとな。
何時までも野宿を続けていると子供や老人の健康面で不安が出てくる。
里の再建は消し炭になった家の残骸の撤去から始める必要がある。
「念入りに燃やしてるなぁ」
家屋だったものは完全に炭の山と化しているため普通であれば再利用も困難だろう。
残骸から推測するにログハウスっぽいものが建っていたようだ。
それと燃え跡が家の周囲で線を引いたようにくっきり残っている。
風の魔法で遮断しつつ内側に空気を送り込んで燃やしたものと思われる。
念入りかつ安全に気を配ったというところか。
まあ、終わったことを気にしても仕方がない。
問題は大量にある炭の処分だ。
「この炭は何かに利用したりするのかい?」
俺が問うとデナイヒはキョトンとした顔になった。
「火をおこす以外に何かありますか?」
どうやら、それ以外の使い道は知らないようだ。
里長が知らないのであれば、他の面々も同様だろう。
「消臭とか調湿とか断熱にも使えると思う」
「そうなのですか!?」
デナイヒが目を丸くさせて驚きをあらわにしていた。
「とりあえず避けておいて家を建てる時に使ってみるかい?」
「それはありがたい提案ですが、どう使えば良いのやら……」
使い方が想像できないらしくデナイヒは困惑気味である。
「だったら、どういう風に使うのか実際に家を建ててみせようか」
百聞は一見にしかずと言うし、その方が手っ取り早い。
「はい?」
もっとも俺の提案を受けたデナイヒの瞳は「何を言っているのだろう?」と語っていた。
プラモデルを素組みでサクッと作りますみたいな感覚で家を建てますなんて言われたんじゃ無理もないか。
こういうのは言葉を尽くすより結果を見せる方が早い。
という訳で、まずは家の跡地を適当にピックアップして瓦礫の撤去から始める。
使うのはシャドウストレージの魔法だ。
魔法で影を動かして、その中に炭の残骸を沈めていく。
「「「「「おお─────っ」」」」」
たったそれだけのことで何故か里の者たちは驚いていた。
まあ、レアな魔法を使ったからなんだろうけど。
この様子だと、もっと人の多い街中なんかでは使わない方が良さそうだ。
使うとするなら人目を避けるか何かしらの対策は必須だろう。
今はしょうがないので無視して作業を先に進めていく。
「何本か木を伐るが構わないか?」
デナイヒに許可を求める。
「どうぞ」
適当な木を伐採し、反りや曲がりを防ぐため魔法で乾燥させてから製材まで一気に仕上げる。
そして理力魔法を駆使してパパッと家を建てていく。
説明が不要な部分の作業は雑にならない程度に加速する。
炭を使うところでも何かを語ったりはしないのだけど。
単に手順や作業内容を把握し見て覚えやすいよう作業スピードを落としただけである。
最初は床で炭を使ったが、周囲からの視線を強く感じた。
質問とかされるかと思ったのだけど特に声がかかることはなかったので建築作業を進め、壁と天井で炭を使っていった。
残りは屋根となったところでラストスパート。
里の者たちにとっては説明不要な部分だからサクッと終わらせれば小一時間ほどで1軒の家は完成した。
即席で建てたにしては良い出来だと思う。
「ふうっ」
疲れた訳ではないが完成させた途端に声が漏れる。
自分でも気付かぬ間に集中していたんだろう。
誰も見ていないなら気軽にできたんだが実演だったからな。
大勢の目があることを意識するあまりプレッシャーを感じてしまったか。
こういうところは龍の素材でできた体でもどうにもならないようだ。
とはいえ見せるべき所はちゃんと見せられたはず。
途中から周囲の息づかいに気を回す余裕がなくなっていたけれど。
そういえば妙に静かな気がする。
何かしら反応があっても良さそうなものだと思うんですがね。
急に不安になってきたので振り返ってリケーネの民たちの方へ振り向いてみた。
「「「「「…………………………………………………………………」」」」」
全員、愕然を絵に描いたような表情で固まってしまっているんですが?
「あるぇ?」
どゆこと?
「あるぇ? じゃないニャよ」
レイが嘆息しながら言ってきた。
「アホみたいな速さで家を建てたら誰だって驚くニャ」
「えーっ」
そんなに大きな家じゃないんだし、こんなものじゃないかと思ったのだけど違ったらしい。
確かに高速で建てたという自覚はある。
けれども炭の使いどころではスピードを落としたし、他の部分だって一瞬で終わらせた訳じゃない。
はた目には動画を倍速再生させた程度に見えるようにしたつもりなんだが。
それが逆に忙しなく見えてしまったということも考えられなくはないのか。
一応は全力じゃなかったんだけど。
加減するって難しい……
「炭の使い方とかは分かってもらえたかな?」
確認するべく問いかけたが返事はなかった。
そんなにショックだったのか。
結局、全員が復帰してくるまで待たねばならなかった。
家を建てるのに費やした時間よりは短かったけど感覚的には長く感じたさ。
何もせずに待つだけだったからね。
ちなみにデナイヒやリーファンは復帰が早かった方だ。
まあ、復帰してきたらしてきたで色々と言われたさ。
それなりにショックでしたよ?
俺の魔法による建築スピードについて異常とか驚異的などの単語が飛び交えば悪口でなくても、ね。
もう少しじゃなくて、かなり気をつけないとダメなようで。
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