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47 ハズレの行商人

 なんにせよ俺たちのレベルを気にしている場合じゃない。

 リケーネの民は自らの判断でそうしたとはいえ焼け出された状態なんだし。

 事情を理解できているかどうかの子供たちは特に可哀想だ。


「それで、これからどうするつもりだい?」


 話を誘導するべく水を向けると長であるデナイヒは笑みを残しつつも困ったような表情を浮かべた。


「さてさて、どうしたものでしょうね」


 そう返事をしたきり、しばし沈黙してしまう。

 目をそらしてはいないので話すことを拒否するつもりはないのだろう。


「スタンピードが無いのであれば、この地に残りたいところですが」


 そこで言葉を句切って小さく嘆息した。


「皆の家は御覧の有様ですし」


 チラリと視線を向けた先には炭と化した残骸の山しかなかった。


「何より食料が限られていますからねえ」


 そう言ってデナイヒは大きく頭を振った。

 どうやら移住するより他はないと考えているみたいだな。

 普通に考えれば、それが無難な選択と言えるだろう。

 当面はこの辺り一帯でタンパク源となる動物を確保するのは難しくなるはずだし。

 動物が戻ってくるまでの間に子供が栄養失調から病気になるかもしれない。


「食べるものが確保できれば移住はせずに里を再建するってことでいいかな?」


 俺の質問にデナイヒは目を丸くさせた。

 あえて肉類とは言わなかったが、すぐに俺の言いたいことに気付いたようだ。


「必要になる食べ物を買えるほどのお金があれば良いのですがねえ」


 困り顔で返事をするデナイヒ。

 ちょっと驚かされた。

 文明と隔絶したような環境で暮らしているのに現金を所持しているような口ぶりだったからだ。


「物々交換は?」


 俺の問いにデナイヒが目を丸くさせたかと思うと次の瞬間にはホホホと笑い始めた。

 訳が分からないんですが。


「いやいや、笑ってすまんかったねえ」


 俺の困惑を見て取ってかデナイヒは笑いの余韻を残しながらも謝ってきた。


「決して馬鹿にしたんじゃないんだよ、許しておくれ」


「別に気分を害したとか、そういう訳ではないから気にしなくていいさ」


「そう言ってもらえると助かるよ」


 その後もデナイヒは申し訳なさそうにしたままだった。

 何かを言いたそうにしているものの沈黙が続くばかりで何も変化がない。

 よほど言いにくいことなのだろう。


 無理に聞こうとすれば逆効果になりそうだ。

 根気強く待つしかあるまい。

 やがて……


「売りたくても売れるようなものがないんですよ」


 デナイヒは寂しそうにぽつりと呟いた。

 急に老け込んだように見えてしまったんだけど、それだけメンタルに負荷がかかる話なんだろう。

 確かにリケーネの民は里を捨てて逃げるつもりで持って行けないものはすべて焼き払っているからな。

 売りたいものがないどころか、買い込みたいぐらいのはずだ。


「布地は?」


 彼らの衣服を見る限り充分に価値がある。

 派手さはないが精緻な描写の模様が織り込まれているのだ。

 この技術を用いて複雑な模様の絨毯を織れば高級なペルシャ絨毯に匹敵する出来となるだろう。

 その場合はリケーネ絨毯と言うべきかな。


「いいえ」


 デナイヒは頭を振った。


「あー、無ければ一から織ってもらうしかないが機織りも焼けてしまっているもんな」


「いいえ、そうではないのですよ」


「どういうこと?」


「機織りなどは作り直せばいいのです」


「時間が必要というなら待つけど」


「それはありがたい話なんですがねえ」


 弱々しく頭を振るデナイヒ。


「もっと根本的な問題があるのですよ」


「根本的な問題?」


「ええ」


 デナイヒはゆったりした動作で大きく頷いた。


「里で織った布地にさほど価値はないと言われましてねえ」


「はあっ!?」


 今度は俺が目を丸くする番だった。


「冗談にも程がある」


 3人娘も俺と同じように唖然としていた。


「一体、誰がそんなことを言ったのニャ!?」


 たまりかねた様子でレイが聞いていた。


「行商人ですよ」


「へえー、そんなのが来るんだニャー」


 そりゃあ売るもの買うものがあれば来るだろう。

 行商人は商店などが満足にない田舎だからこそ稼ぐことができるのだ。


 とはいえ、どんな行商人が来るかは運しだいなところがあるけれど。

 この里に来たのはハズレの部類と見るべきか。

 少なくとも当たりではないだろう。


「その行商人はどういう風に評価していたのですか?」


 ケイトが問うていたが、そこは空気を読もうぜって言いたくなったさ。

 あれだけデナイヒが言い淀んだことを考えれば酷い言われ様をしたはずだ。


「田舎くさいデザインの上に品質まで低いのでは売っても儲からないと」


「「「「そんなことは絶対にないっ!」」」」


 俺たちは声をそろえて否定した。

 儲かるかどうかは知らないが、デザインは洗練されたものだったからね。

 素材の綿やそれを染めた染料だって厳選されているようで染めムラなんて何処を探しても見当たらない。

 熟練の技を持つ職人が手間暇を掛けて仕上げているのは明白である。

 これが低品質などあり得ない話だ。


「布地じゃなくて糸だけで売っても高級品として扱われるんだけど」


 糸が高品質だから布地のクオリティも高いという訳だな。


 デナイヒは俺の言葉が信じがたいらしく沈黙を守っていた。

 それを焦れったく感じたのだろう。


「ユートの言う通りニャ!」


「ユート様の仰っていることが正しいです」


「右に同じ」


 3人娘からの援護を受ける結果となってしまった。


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