46 リケーネの里
結果から言えば決死隊の面々を魔法で眠らせたのは正解だったと思う。
揚陸艇が飛来するのを目撃しただけで失神同然に固まってしまった面々を説得するのは骨が折れそうだもんな。
そのまま無理に乗り込ませようとしたら、どうなっていたことやら。
夜明けまでかかっても無理だったんじゃないかな。
「エルフ御一行様、入りまーすなのニャ」
理力魔法で浮かせて眠らせた決死隊を揚陸艇に運び込むレイ。
「雑じゃないんだけど来客を迎えるって感じじゃないわね」
ケイトは渋面を浮かべている。
「言葉とは裏腹」
スィーも同意しているし、俺もそう思う。
立位で運ぶのはいいとして彼らの間隔が密着一歩手前である。
さっさと終わらせようという意図が見え見えだ。
「うちのが無礼で、すまない」
リーファンに謝っておく。
「いえ……」
困惑しつつも受け入れてくれたようだ。
そのリーファンは多少の躊躇いをのぞかせつつも素直に揚陸艇へ乗り込んでくれた。
不安はあっても不信はないといったところか。
実にありがたいことだ。
なんにせよ乗り込んでしまえば移動はあっという間である。
「ニャーハッハッハ! 異世界の車窓から、なんてニャ」
上機嫌で軽口を叩くレイが操縦しているのは微妙なところではある。
リモートで呼び寄せたのがレイだから仕方あるまい。
セキュリティ上の問題からリモートで呼び出すには個人認証が必要で操縦者が個人に限定されてしまう。
交代しようと思ったら権利を譲ってもらうか上位者の権限で強制的に奪い取るかしないといけない。
いずれにしてもレイが楽しんでいる以上は難しい。
断られるか機嫌を損ねるかだもんな。
何にせよ道中は不安を抱きつつも特に問題はなかった。
「まもなく到着ニャ」
問題はここからだ。
「えっ、もうですか!?」
リーファンの驚きようは無理からぬところだろう。
ものの数分で到着だからな。
「この揚陸艇なら、こんなものだよ」
リーファンは絶句してしまったが仕方あるまい。
これでも自分で乗り込んだ分だけマシな方だ。
「そろそろ起こすか」
問題は魔法で眠らせた面々だ。
どんな反応をするやら想像がつかないもんな。
今度はパニックを起こして騒ぎ出すことだって無いとは言えない。
まあ、躊躇っている時間的な余裕はないので魔法でまとめて起こしたさ。
眠らせる魔法の術式を反転させるだけなので簡単なお仕事にすらならない手軽さだ。
「うっ……、何処だ、ここは?」
真っ先に覚醒したのはリーアンだった。
「もうすぐ君らの里だ」
「は?」
間の抜けた返事だったが状況が理解できないだけだろう。
魔法で起こしたので眠気は完全に消えている。
「着陸するニャ」
「え?」
「到着だって言ってるのさ」
訳が分からないといった顔をするリーアン。
山頂で決死隊を指揮していた時と比べると落差が大きい。
「タッチダウンだニャー」
レイの台詞と同時にわずかな振動を感じた。
「ほら、降りるぞ」
着いてしまえばボケている暇はないのだが。
「な?」
先程から言葉を忘れてしまったかのようなリーアン。
これで正気に戻った場合どうなるのなね?
ガーッと吠えられたりするくらいはありそうだ。
それと、もうひとつ問題があったな。
里で待っていた面々の反応だ。
決死隊という前例があったことを考えれば楽観できなかったのは言わずもがな。
予想通りというか揚陸艇を目撃したあたりで騒然となったもんな。
決死隊の面々が降りて無事な姿を見せたおかげで拒絶されなかったのは不幸中の幸いである。
それはそれで騒ぎにはなったけどね。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
今、俺の目の前には小柄なエルフの婆さんがいる。
耳が細長くて肌が色白で細身というファンタジーの定番のようなエルフらしいエルフであった。
デナイヒと名乗ったその老エルフは里で長の立場なんだとか。
で、そのデナイヒ婆さんと丸太をベンチ代わりに対面で茶飲み話をしているのが現状だ。
ちょこんと腰掛けて穏やかな笑みを浮かべている姿は田舎の婆ちゃんを思い出させてくれた。
「いざという時に何もできない名ばかりの長でしてね」
互いに自己紹介した際には、こんな風に謙遜していた。
ちなみに里の者は自らをリケーネの民と称しているそうだ。
部族の特徴として髪と瞳の色は例外なく薄緑なんだが、近隣に他部族がいなかったのが原因のようだ。
大昔にスタンピードから逃れてきたそうだし、望んで未開地に引きこもった訳ではないみたいだけど。
それなら閉鎖的な反応をされなかったのも頷けるかな。
「すまんのう、恩人を持て成したくても御覧の有様でしてな」
少しだけ笑みを曇らせてデナイヒは頭を下げる。
「気にすることないニャ」
俺たちを代表するかのようにレイが言った。
「うちらはたまたま通りがかっただけニャよ」
些か誤解を招きやすい表現ではあったもののウソではない。
彼らが言うところの北壁山を幾つかある候補地の中から訓練場所に選んだのは確かに偶然だ。
「そうですよ」
ケイトがちょっと慌て気味にフォローに入るも、デナイヒの表情は変わらず申し訳なさそうにしたままだ。
「私たちも、それなりに稼がせてもらいましたし」
現状では金銭的な稼ぎにはなっていないが、食材は大量ゲットしたし売りさばけば一財産になるだろう。
まあ、神龍のお宝があるから換金する必要もないんだけど。
一応は経験値もゲットした。
パーティとして頭割りになったためか、あれだけのスタンピードを終息させたにしては少なかったけど。
総合レベルが上がらなかったのは言うまでもあるまい。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
Name:ユート・ギモリー
Rank:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
TLv.:9.832028641
HP:69.25|69.25 MP:78.03|78.03
STR:13/2 MAG:15/13
VIT:10/2 INT:13/11
AGI:13/3 DEX:11/5
* ability(figure/SLv.)
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
現ステータスはこんな具合だ。
今後、普通に魔物を倒してレベルアップしようと思うと道のりが遠そうだが仕方あるまい。
代わりにスタータスレベルの方は幾つか上がっている。
お陰でHPやMPも微増していた。
3人娘も総合レベルがどうにか9にレベルアップしていたことを除けば俺とそう変わらない。
これ以上、強くなってどうするのかと言われると返す言葉が見つからないけどさ。
読んでくれてありがとう。
評価とブックマークもお願いします
★は多いほど嬉しいですw




