45 送っていくだけですよ?
「急ぐなら里まで送っていこうか?」
「えっ!?」
俺の提案を受けたリーアンが急に慌て始めた。
まるで俺たちのことを神様だと誤解していた時に逆戻りしてしまったような、というのは言い過ぎか。
土下座はしていないしな。
とはいえ完全に落ち着きをなくしているし他の面子までもが同じような状態だ。
「無理強いするつもりはないさ」
なんて言っているが、内心では「どうしてこうなった!?」と泡を食っているのは内緒だ。
「サクッと移動できるぞ」
「うっ」
何故か短く唸って固まってしまうリーアン。
サブリーダー的なポジションの角刈りくんことグーガーも同じように固まっている。
他の面子はというと青い顔をして震え上がっていた。
「どゆこと?」
振り返ってケイトたちに聞いてみた。
「さあ、何なんでしょう?」
しばし考え込んでいたケイトだったが困り顔で首を捻る。
「小さな親切、余計なお世話に困ってる感じじゃなさそうニャ」
レイはこんな風に分析しながらもノリはお気楽な感じだ。
「意味不明」
スィーなどは分析すらせずにバッサリだったけどな。
「わかる相手に聞けばいい」
ごもっとも。
観念してリーアンの方へ向き直ったのだけど視線を合わすことができなかった。
別に視線をそらされたとかではない。
方向的には噛み合うはずなのにリーアンの瞳の焦点が合っていないのだ。
「おいおい、もしかして失神してるのか?」
ツッコミを入れる体で声を掛けてみたのだが返事はない。
グーガーの方を見るとリーアンと同じような状態だった。
「マジかぁ……」
思わず天を仰ぎ見たくなった。
「本物のエルフって繊細なんだなぁ」
「そんな訳ないじゃんニャ!」
ビシッと速攻でレイにツッコミを入れられてしまいましたよ。
「エルフかどうかなんて関係ある訳ないのニャ」
俺もそう思う。
現実逃避したくてボケてみただけだ。
「たぶん空を飛ぶのが怖いのだと思います」
なんて助け船を出してくれた人がいらっしゃいましたよ。
リーファンである。
「あー、そういうこと」
俺たちが空から現れて食材確保のために飛んで行ったのを目撃しているからな。
乗り物に乗っていくという発想がないのだろう。
揚陸艇を使うなら飛ぶことになるのは確定なんだけど。
「それなら大丈夫だ。乗り物を用意するから」
「え? 乗り物……ですか?」
俺の言葉に少しは安心してくれるかと思ったのだが、リーファンは困惑の表情を浮かべてしまった。
あるぇ? な結果に首をかしげるしかなかったのだが……
「ユート、彼らは森の民」
スィーがフォローの一言を入れてくれた。
「あー、なるほど」
思わずポンと手を打った。
「乗り物を必要としないから見たことがないのか」
普段の行動範囲はそれほど広くないだろうからね。
長距離を移動することになった場合でも、森の中じゃ移動にかかる時間や輸送人数を気にするより小回りが利くかどうかの方が優先される。
「おそらく」
それは盲点だった。
「じゃあ、百聞は一見にしかずだな」
「そう来るだろうと思ってリモートで呼んでおいたニャ~」
「ちょっ、おいぃ」
手配りの良すぎるレイの言葉に慌ててしまいましたよ。
「百聞は一見にしかずと言ったのはユートだニャ」
「言ったけどぉ、事前に断りを入れておかないとダメだろう」
「何でニャ?」
不思議そうに聞いてくるレイは何が良くないのか理解できていないようだ。
しかし、既に説明している時間はない。
揚陸艇がシューンと飛んで来てしまったからだ。
「「「「「おわあああぁぁぁぁぁっ!?」」」」」
決死隊の面々が大パニック状態である。
そりゃそうだ。
スタンピードが無事に片付いたと思っていたのに得体の知れない巨大な物体が自分たちに向かって迫ってくればね。
正確にはリモートで呼び出したレイに向かって飛んで来ている。
何も知らない彼らの瞳には、どう映るのだろうか。
「あー、やっぱり……」
思わず嘆息が漏れたが、諦観を感じていたのは俺だけではなかったらしい。
「私もこうなるんじゃないかと思っていました」
ケイトも同意しつつ溜め息をつき……
「安定の後先考えないクオリティ」
スィーが冷ややかに感想を漏らしていた。
「ガーン!」
芝居がかった驚きの表情を見せつつショックを表現するレイ。
まあ、言われた当人が懲りていないのは火を見るよりも明らかだ。
「「「口で言うな、口で」」」
すかさずツッコミを入れたらケイトとスィーと俺でハモってしまいましたよ。
「テヘペロ」
愛嬌たっぷりにポージングまでしてやがる。
「余裕だな、おい」
戦っている時は沈着冷静だったリーアンですら揚陸艇を見て混乱しているってのに。
グーガーとガッシリと抱き合って固まっているから相当だ。
見ようによっては腐のつく女子たちが喜びそうなシチュエーションである。
「揚陸艇に乗せるだけでも至難の業だぞ、これ」
「意識が飛んでるニャ。荷物扱いで放り込んでも拒否されないニャよ」
「運ぼうとした瞬間にスィッチが入って騒ぎ出すぞ、きっと」
「あー、ありそうですよね」
「よくある話」
「ぐぬぬ。否定できないニャ」
ケイトとスィーが俺の予言を肯定するとレイも悔しそうにしながら認めていた。
「しょうがない。眠ってもらおう」
顔色を失いながらも意識を保っていたリーファンは対象外として決死隊の面々を魔法で眠らせた。
倒れ込んで怪我をしないよう理力魔法を使って捕まえる。
「すまない。何かしでかす前に魔法で眠ってもらった」
どうにかコクコクと頷いてくれたが、声も出せないほどショックを受けている。
申し訳ないとは思うのだが……
「好都合ニャ。このまま運んでしまうニャ」
約1名の無神経さよ。
注意しても馬耳東風だろうしなぁ。
胃に穴が開きそうだ。
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