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43 燃えてますよ

 決死隊の面々が勢いよく立ち上がり彼らの集落があると思われる方向を一斉に見た。

 今は天空に月が出ているものの彼らの視力で麓の様子を見て取れるものではない。

 それでも夜の闇が支配する状況だからこそ燃えている場所があれば目立つ訳で。


「リーアン!」


 決死隊の中で最も体格の良い角刈りくんが焦った様子でリーダーくんに呼びかけた。


「わかっている」


 渋い表情で応じたリーアンと呼ばれたリーダーくんだが、あまり焦っているようには見えなかった。


「里が燃えるのは俺たちの火魔法を見たからだろう」


「ということは……」


「ああ、里を捨てる準備を進めている証拠だ」


 聞こえてくる2人の会話からすると予定通りのことらしい。

 住んでいた場所を燃やすのは知能を持つ人型の魔物に利用させないためか。

 ならば魔法で延焼が広がらないようにしているのだろう。

 俺たちがお節介を焼く必要もなさそうだ。


 とにかく何か不測の事態というのでないことは分かった。

 そう言いたいところだったのだが……


「兄さん、里を捨てる必要はないのでは」


 リーファンが俺も考えていたことを指摘していた。


「わかっているさ」


 リーアンは深く嘆息した。


「だが、今更だよ」


「え?」


「急いで里に戻ったところで里は燃え尽きた後だろう」


「あ……」


 諭すような言葉を受けたリーファンはガックリと肩を落とした。

 いや、肩を落としたのは彼女だけではない。

 他の面々も同じく肩を落としうなだれている。

 せっかくスタンピードが無くなったのに住む場所を失うのはショック以外の何ものでもないよな。


 しかしながら衣食住のうち住だけが欠けるのではない。

 食も厳しい状況であることを考慮すると移住は不可避と言わざるを得ない。

 ただ、それをストレートに言うのは傷口に塩を塗るようなものだ。

 だからといって気持ちは分かると口で言っても受け入れられるとも思えない。

 ストラトスフィアという帰る場所がある俺たちが彼らの気持ちを真に理解することはできないだろうし。


「すまない」


 俺には頭を下げることしかできなかった。

 俺の唐突な行動にケイトたちがわたわたと慌てた様子を見せるが仕方あるまい。


「俺たちが派手にやらかしたことが少なからず影響していると思う」


 そう言い訳すると3人娘も納得したようだけど。

 ただ、今度は決死隊の方が大慌てし始めた。

 集落が燃えているという事実を突きつけられたことで俺たちのことが頭の中から抜け落ちてしまっていたところに冷や水を浴びせたようなものだ。


「「「「「っ!?」」」」」


 リーファン以外の全員が飛び上がらんばかりに驚いて再び土下座しそうになったところで──


「待て!」


 強い口調で土下座しないように言った。

 同時にケイトが直立不動で固まってしまったけどな。


「さすがは元紀州犬ニャーッ!」


 レイにはからかわれた上に腹を抱えながら笑われてしまっていた。


「余計なお世話よっ」


「何ニャ、やる気かニャ~?」


 激高したケイトをからかうように挑発するレイ。


「上等じゃない!」


 売り言葉に買い言葉でケイトが応じたところで……


「いい加減にしろ」


 俺は両者の間に入って両手を伸ばし2人の前頭部を鷲づかみにした。


「「ギャ────────ッ!」」


 いくら体が龍の素材でできているとはいえ、それは俺も同じである。

 対等であるならアイアンクローを食らって平気でいられる訳もない。


「ギブニャギブニャ~」


「もうしませーん」


 情けない声を出して懇願してきたので手を離すと、そろって安堵の溜め息をついた。


「バカね」


 スィーが蔑むようにぼそりと呟く。


「「っ!!」」


 瞬間湯沸かし器のように瞬時に反応した。

 俺がそんな2人をジロ見すると、すぐに押し黙ったけどね。


「まったく……」


 世話が焼ける2人に嘆息を禁じ得ない。

 この状況下で普段のノリのままケンカを始めるとかどういうことよ?

 とはいえ、世の中は何が幸いするのか分からないものである。


「「「「「……………」」」」」


 決死隊の面々に向き直ると唖然とした様子で固まってしまっていたからな。


「すまない」


 再び謝ることになってしまったのは御愛敬ってね。


「いえ、大丈夫です」


 返事をしたのはリーファンである。

 他の面子は、それでようやく復帰してきたものの再び土下座しそうになっていた。

 そんなにビビられてしまったのかと思うとショックが倍加する思いである。


「わーっ、待て待て待て待て待ってくれ!」


 もちろん、なりふり構わず引き止めたさ。

 幸いなことに、どうにかリーアンと角刈りくんだけは止めることに成功した。

 ただ、その両名もガチガチに固まってこわばった顔になっていたのは仕方のないことなのかもしれない。

 ビビっていないと感じたのは気のせいだったのだろうか。


「そんなにビビらせてしまったのか?」


「いえっ!」


 何故か直立不動になって返事をするリーアン。

 まるで鬼軍曹に報告を迫られた新兵であるかのようだ。


「じゃあ、土下座する理由が分からんのだけど?」


 とりあえず直球勝負で聞いてみたんだが。


「……………」


 返事を聞く以前の問題になってしまった。

 何も答えないというか、どうしてそんなことを聞くのか分からないとでも言いたげな顔をされちゃいましたよ?


「あの、怒ってらっしゃらないのですか?」


 おずおずと聞いてきたのは角刈りくんだった。


「何でさ? 怒る理由がないんだけど?」


「いえ、ですから神様の手をわずらわせてしまいましたし……」


「「「「神様ぁ~!?」」」」


 思わず俺たち全員でハモってしまったさ。

 まあ、そんな風に勘違いされたんじゃ無理もないけど俺たちは神様じゃない。

 本物の神様はストラトスフィアでお留守番をしているんだよ。


読んでくれてありがとう。

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