42 話を聞いてみよう
何も言わぬままいきなり決死隊の面々が土下座してきたおかげで、かなり面食らってしまった。
普通は土下座されることなんて、まずないだろうから無理もない。
3人娘も唖然とした顔でフリーズしている。
レイなんてテンション高く叫んだはずなんだけど。
俺は日本人だった頃にパワハラを受けていた元上司から謝罪を受ける際に一度だけあった。
もっとも、来たのは当人ではなく身内である本家の当主という人物だったんだけどね。
土下座したのはその人だ。
元上司とは正反対のできた人だったのを覚えている。
もちろん土下座はすぐにやめてもらったさ。
そんなものは謝るべき人間がすべきことなんだし。
まあ、元上司は一貫して自分は悪くないと言い続けて逃げ回っていたそうだが。
成人した大人のすることか?
そんなのが連行されても自発的な謝罪をしたとは思えないし、誠意のない謝罪など不快になるだけである。
当主の方でも連れて来るのは無駄という結論に至ったようだ。
代わりに元上司は一族からの絶縁を言い渡され追放処分となったという。
犯罪者になればどうなるか後先考えないとか子供だよな。
職も失うし、再就職も困難を極めるのは火を見るよりも明らかなんだが。
名門家の次期当主だったそうだけど、それも御破算。
……っと、今はどうでもいいことだな。
とにかくレアな経験をしたおかげか比較的すぐに立ち直ることができた。
気を取り直して決死隊に向き直るが、幸いにも1人だけ土下座をしていない人物がいる。
身内の土下座にドン引きしているものの話しかけて返事をもらえそうなのは彼女だけだろう。
そう、立っていたのは女性である。
少女の域は脱しようかというくらいの年頃に見受けられる彼女は長く伸ばした薄い緑色の髪が印象的だった。
背丈がそこそこあるように見えるが、これは彼女が細身だからだと思われる。
実際はそこまで高身長という訳ではなさそうだ。
などと頭の中で余計なことを考えてしまうのは初対面の若い女性に話しかけなければならないせいだ。
女子にもてたためしがない俺に緊張するなと言う方が無理な注文である。
まあ、いつまでもこのままという訳にはいかないよな。
「ちょっといいかな?」
「っ!?」
話しかけると彼女はビクリと身震いした。
地味に傷つくんですがね。
「あの、なんでしょうか?」
一応は相手をしてくれるらしい。
怯えて拒絶とかされなくて良かったよ。
「聞きたいことがあるんだ」
「は、はいっ」
別に殺気立ったりはしていないんだが、ぎこちない返事をされてしまった。
「俺はユート・ギモリーという」
とりあえず先に名乗っておいた。
礼儀を意識した訳ではなく少しでも威圧の意図がないと伝わればと思ってのことだ。
「それからケイトとレイとスィー」
3人は俺の紹介する順に軽く会釈していった。
「私はリーファンです」
女性は恐る恐るといった様子で応じた。
自己紹介したくらいで緊張がほぐれるようなら苦労はしないか。
それでも、張り詰めていた空気が薄れていくのは感じられたので無駄ではなかったと思いたい。
「さっそくだけどさ」
「はい」
リーファンと名乗った女の子がゴクリと喉を鳴らしたが、完全には緊張がほぐれていないせいだろう。
「彼らはどうしてこんな真似をしているんだい?」
「は?」
リーファンが呆気にとられた表情で固まってしまった。
俺は視線を下に向け彼女の仲間である面々に目を向ける。
リーファンも釣られるように下を見た。
「あ……」
視界の真正面に捉えたことで俺の言ったことをようやく理解できたらしい。
どうやら俺が思っていた以上にリーファンも動揺していたようだ。
なんにせよ、これで理由を聞くことができると安堵していたのだが……
「あっ、あのあのっ、本当に申し訳ありません」
何故だかペコペコと何度も頭を下げて謝り始めた。
「別に怒ってないから謝らなくていいよ」
とは言ったのだけど、そのまましばしリーファンの謝罪が続くことになった。
俺の言葉が耳に届くような精神状態ではなかったようだ。
結局、4人がかりでなだめにかかって落ち着かせることができた時には皆ぐったりしていた。
こんなことならスタンピードに対処する方が楽だったさ。
あちらは魔法を使うだけの簡単なお仕事です状態だったからな。
なお、リーファンの仲間たちは未だに土下座したままで声を掛けても無反応なままだ。
会話が成立するだけリーファンの方がマシというのが頭の痛いところである。
で、どうにかリーファンから聞き出した話でも彼女の仲間が土下座をした理由はよくわからなかった。
一応、魔法の威力に恐れをなしたんじゃないかとは言っていたけれど。
「どう思う?」
「色々とやり過ぎたニャ」
「最後のは特に」
「……反省してます」
スィーのツッコミが堪えたのかケイトが地味にダメージを受けていた。
「俺たち全員の責任だろう」
加減の仕方を会得するために地上に降りてきたはずが、この体たらくである。
そこは反省すべき点として受け止めるべきだろう。
「それに、なんか違うんだよな。ビビって土下座しているようには見えないんだが」
「確かにそんな感じするニャ」
「そうでしょうか?」
レイは素直に同意するもケイトは懐疑的だ。
「震えてはいない」
決死隊の面々を観察していたスィーはレイに近い印象を持ったようだ。
「3対1だな」
まあ、多数決を取ったところで土下座をやめてくれるわけじゃない。
とりあえずは放置するしかないだろう。
「もうひとつ気になっていたんだが……」
そう言いながらリーファンの方を見た。
「なっ、なんでしょうか?」
「あの燃えている辺りって君らの住んでいる所じゃないか?」
「「「「「ええっ!?」」」」」
土下座していた面々が一斉に起き上がった。
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