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41 スタンピードが終わっても帰れません

「とりあえずドロップのことは保留にしておこうぜ」


「そうですね」


「後のお楽しみなのニャ」


「了解」


 皆も優先度は低いものとして受け入れてくれたようだ。

 約1名は何故ドロップしたのかはどうでも良くて中身の方が気になるみたい。

 俺も何をゲットしたのかとかは気にならない訳じゃないんだけどな。


 それよりも本当に自分のものにして良いのかという問題がある。

 決死隊の面々もそれなりにGどもを屠っているのにゲットしている雰囲気がないからだ。

 後から来た俺たちが根こそぎ持って行くのはどうなのか。


 配分比率とか考慮されていても良さそうなものだが、そういう気配がない。

 まるで容量の少ないレトロなRPGをプレイしているかのような雑な扱いである。

 ほら、断りもなく人の家で家捜しして金品をゲットしていくのとかあっただろ?

 俺はああいうのが気になった口だ。


 うちの爺ちゃんは、そういうのをツッコミ入れながら楽しんでたけどな。

 根っからの関西人は何でも笑いのネタにしてしまうんだなぁと思ったものだ。

 タイプは違うんだろうけど、したたかな精神をしているという点においてはレイも近いかな。


「問題はスタンピード後の近隣地域の状況をどうするかなんだが」


 俺がそう言うと、ケイトがシュンと縮こまってしまった。


「申し訳ありません」


「どうして謝るんだ?」


「後始末のことは考慮していませんでした」


 どうやら勘違いされてしまったらしい。

 俺としては皆に決死隊の集落のことを相談したつもりだったのだが、ケイトは土石流の土砂などの処理だと思った訳か。

 高温のガスで発生した火災などは雨を降らせて食い止めたものの土砂は大量に残ってしまったからな。


 俺としては、そこまで気にするようなことだろうかと思うのだが。

 決死隊の集落が被害を受けたというなら話も変わってくるだろうけど、土石流を流したのは反対側の斜面だし。

 もし集落側の斜面に土石流を放っていたら彼らの集落は壊滅していたであろう。

 それだけ遠くまで土砂が流れていった訳だが、そんなのを除去するなど考えたくもない。

 スタンピードを食い止めた痕跡を大々的に残すことになってしまうのは仕方のないことと割り切る方向で終息させたいところだ。


「放置でいいんじゃないかニャ~」


「同感。あの規模のスタンピードを食い止めただけで充分」


 レイやスィーも同じ意見のようだ。

 ケイトはそれでも踏ん切りがつかないらしく俺の方を恐る恐るといった様子で見てきた。


「俺が後始末と言ったのは土石流をどうにかするという意味じゃないんだが」


「え?」


 呆気にとられたケイトは次の瞬間には困惑顔になっていた。


「このまま帰ると困窮する人たちがいるでしょうが」


「あ」


 すっかり失念していたらしいケイトが驚いた顔のままで固まってしまった。

 まあ、気づけたようで何よりである。


「そんなに困るかニャ~?」


 ただ、レイは俺の危惧したことについては半信半疑といった様子だ。


「確実」


 一方でスィーは断言したところを見ると確信しているものと思われる。


「どうしてニャ?」


「こういう場所での生活だと食料の確保は狩猟に頼らざるを得ないからだよ」


 レイの疑問には俺が答えた。

 決死隊の面々が生活している集落は深い森の中である。

 規模の大きい牧畜や農業は望むべくもない。


「ニャーる」


 首をかしげていたレイもポンと手を打ち鳴らして納得の表情を見せた。


「スタンピードの後だと、しばらくは狩りをしても獲物が見つからないニャ」


「そういうこと」


 野生動物は本能で察して遠くまで逃げてしまっているだろうし簡単には戻って来まい。

 元通りになるまで、どれだけの時間がかかることやら。

 場合によっては年単位ということも考えられる。


「じゃあ配給することになるかニャー」


「配給するのは結果的に健全とは言えないことになりかねない」


 レイの意見を否定したのはスィーだった。


「配られる品々を貰うのが当たり前と思うようになったら終わりだ」


「それに何時まで配給を続けなければならないのかという問題もある」


「ウゲッ!?」


 失念していたことに気付かされた格好になったレイが奇妙な声を発して驚いていた。

 そこまで考えていなかったのは明白だ。


「そんな訳で配給は却下な」


「じゃあ、どうするニャ?」


「配るのがダメなら売ればいい」


「なるほどニャー」


「この近辺で住んでいる彼らは現金を持っているのでしょうか?」


 レイは素直に納得したが、ケイトが疑問を呈してきた。


「物々交換すればいい」


 俺が答えるより前にスィーが答えた。


「相場が分かりづらい物々交換は揉めそうじゃない?」


「配給よりは健全」


「そんなの言い合うだけ無駄ニャ」


 バッサリと切り捨てるレイ。


「相手が納得するかどうかが、すべてニャ」


「「ぐっ」」


 ケイトとスィーがそろって歯噛みしながら短く唸った。

 まったくもってレイの言う通りである。

 場合によっては交渉を持ちかけた初手で話を突っぱねられることも考慮せねばならない。

 相手が超のつく保守的な部族なんかだと大いにあり得る話だ。

 決死隊の集落は近隣に他部族がいないような環境にあるので大いに該当しそうで怖い。


 まあ、話を聞いてみないことには何も始まらないか。

 もしかすると危惧したことは杞憂で終わることだってあり得る。

 端から拒否されない場合でも、トントン拍子に話が進む訳ではないけどね。

 集落の存続に関わる大事な話になるからと決死隊の面々は話を持ち帰ると言うだろう。


「という訳で代表者に話を聞こうと思う」


 俺は決死隊の面々に話を持ちかけるべく振り返って彼らに近づいていったのだが……


「どうしてこうなった!?」


 次の瞬間には面食らって驚きの声を発するしかできなかった。

 リーダーとおぼしき長髪の兄ちゃんが真っ先に土下座したせいか決死隊の面々が一斉に平伏してしまったからだ。


「リアル土下座ニャー!」


 何故かレイはテンションを上げていたけどな。

 これが掲示板などでの発言だったらwの文字で草を生やしていたに違いない。


読んでくれてありがとう。

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