37 スタンピードは食材の宝庫
髪の長い女の子を刺激しないようにそっと視線をスタンピードの方へと戻していく。
視線を外して安堵の溜め息をついたのは俺とケイトの方であった。
向こうに騒がれていたらパニックのトリガーになりかねなかったもんな。
だが、油を売ってばかりもいられない。
すぐに気持ちを切り替えるとケイトも敏感に感じ取ったようだ。
「ユート様はどうなさるおつもりですか?」
「この後のことか?」
「はい。ギリギリまで狩りを続けても全体から見れば一部にすぎません」
この口ぶりだとスタンピードの始末をやりたいのかもな。
魔物の海と化しているような状況を一気に終わらせる方法でも閃いたのかもしれない。
「今はそれより食材ゲット優先だ」
「え?」
意表を突かれたようにキョトン顔になるケイト。
「レイとスィーは食肉担当だろ」
「はあ」
すぐには立ち直れないらしく生返事だ。
「だから俺はそれ以外だな」
たとえばトウモロコシの魔物であるホップステップコーン。
実の部分のサイズだけが通常のトウモロコシより数倍大きいため、バランスの悪さで正体を見抜くのが容易な魔物だ。
見た目以上にクセがあって一般には気持ち悪がられているらしい。
根の部分を触手のようにウネウネと蠢かせながら飛び跳ねるせいでね。
その分、発見しやすいとも言えるが。
ならば避けやすいかと言えば、そうでもない。
こいつらが主に用いる攻撃手段が飛び道具だからだ。
実の部分を散弾のように撃ってくるため命中率とダメージが上がって厄介な攻撃である。
一見して自爆技のように思えるかもしれないが魔力の続く限り次弾装てんは即座に行われるのも厄介だ。
しかも弾けさせる実に硬化の魔法を掛けているため貫通力も高い。
一般人が生身で直撃を許せば惨劇の結末を迎えることになる。
実の硬化は一時的なもののため、ひたすら防御して耐える収穫作業と呼ばれる裏技もあるようだが。
まあ、穀物と侮って油断していい相手ではないだろう。
とはいえトウモロコシだけゲットするのはもったいない。
このスタンピードには多種多様な植物系の魔物がいるから得られるものはすべてゲットしたいものだ。
ホップステップコーンと同じような攻撃手段を持つポップソイビーンなんかもそうだ。
移動は根っこで歩行するという違いはあるが、魔物としては亜種として分類されている。
まったく異なる特徴を持つ魔物もいる。
例えば土の中を魚雷のように推進する根菜類、トーピードルートベジなどが有名らしい。
この魔物はにんじんや大根、ゴボウなどのバリエーションは多彩だが根菜でひとくくりにされているタイプの魔物である。
特徴はどれも同じ。
魔法で表皮を堅くさせて土中を追尾しながら進んでくるので迎撃が難しい。
堅さを生かして突き刺さってくるので厄介だ。
ただ、MPかHPが0になれば元の根菜類並みの柔らかさになるので食材としては扱いやすいと思う。
そしてこれの亜種としてクラッカーポテトが存在する。
ジワジワと接近してきて射程圏内に入ると地中から飛び出して体当たりする。
刺さりはしないが鈍器で殴られるに等しいダメージがあるという。
あるいはジャック・オー・ランタンのような頭部を持つローブ姿のパンプキンヘッド。
その亜種とされているメロンヘッドとウォーターメロンヘッド。
こいつらはフワフワと宙に浮いているため魔法使いタイプと思われがちだが、実際は強力な物理アタッカーだ。
硬化させた根っこを斬撃効果のあるムチとして振るってくる。
これと似たような外見の魔法職もいる。
地と水の属性魔法を使うトマトウィザード。
ヘッド系の前衛職タイプの魔物と連係することがあるようだが過密状態のスタンピードじゃ無意味だろうな。
他の魔法職というとマッシュルームマジシャンとモスソーサラーか。
前者はキノコの魔物で外見は様々だ。
移動はホバリングで行い地と水と風と闇の属性魔法を使用できる。
後者はマリモのように丸いコケの魔物で転がって移動する。
使える魔法の属性は地と水と光と理力だ。
穀物系の魔物もホップステップコーンだけではない。
米の魔物でマーダーライスとか。
その亜種で麦系のマーダーウィート、マーダーバリー、マーダーライ、マーダーオーツがいる。
順に小麦、大麦、ライ麦、カラス麦だ。
これら穀物系の魔物も実のサイズが元の穀物の数倍あるため外見で見分けるのは容易い。
ただし、移動方法はポップソイビーンのように根っこ歩行である。
攻撃方法になってくるとまるで違う。
根っこや葉っぱの先端を突き刺した上での吸血だ。
単体では脅威とはなりづらい程度の攻撃力だが群れる事を好むため危険度は高い。
あとはトレント系の亜種タイプである果物系の魔物も見受けられるな。
あらゆるベリー系の実がなるフルベリー。
同じくオールアップル、オールシトラス、オールグレープ。
それぞれ様々なリンゴ、柑橘類、ブドウの実がなる魔物である。
他の果物系の魔物は見当たらないので今回は諦めるしかないだろう。
梨とか柿とかゲットできないのは残念だ。
「それ、全部集めるつもりですか?」
呆れ顔でケイトが聞いてきた。
「今後の食生活が豊かになるかどうかがかかっているからな」
創天神様がそれなりに提供してくれたけど、それはCWOの宇宙食という形でだ。
マズくはないものの空腹を満たす味でしかない。
食にこだわる元日本人としてはゲットできるチャンスをみすみす見逃すなど考えられないことだ。
「ほどほどにしてくださいよ。攻撃せざるを得なくなったら巻き込んでしまうかもしれません」
氷の壁を越えてこられたら面倒だからな。
「阻止限界ギリギリまで粘るような真似はしないさ」
「そういうことでしたら」
俺が限度をわきまえていると知るとケイトは引き下がってくれた。
「じゃ、時間が勿体ないから行ってくるわ」
俺はそう言い残して先に食肉確保に向かったレイやスィーのように山頂から高速で飛び立った。
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