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34 決死隊、奮闘するも……

「あの2人が練り上げた魔力を暴発させないようフォローよろしく」


「任せてください!」


 ケイトがやる気満々で応じた。


「じゃあ、角刈りくんの方を頼む」


「はいっ!」


「リーダーの方は──」


 そこまで言いかけたところで視線を感じた。

 スィーである。

 無言ではあるがジーッと俺を見てきて俺がやるとは言えないほど強い圧を感じた。


「あー、スィーに頼もうか」


「了解」


 素っ気ない返事ではあったが、プレッシャーは感じなくなったので正しい選択をしたのだと思う。


「念のために言っておくと、向こうが魔力をちゃんと扱う可能性もあるからな」


 そうして見ていると、バランスボールサイズの火球は打ち出されず横一列に並べられるような形で量産されていく。


「考えたな。あのやり方なら広範囲にまんべんなくダメージを行き渡らせることができる」


 単発で火球を大きくするより熱量も上がらない。


「魔法を撃たなければ術式は完結しない」


「そうかもしれないけど火球を維持しながら増やすなんて制御が大変じゃない」


「ミスったら大変ニャ」


 ケイトやレイが言う通りなのだが決死隊の彼らもそのことについては考えていたようだ。


「次ができた、頼む!」


「おうよ」


 リーダーが隣にいた仲間に生成した火球を保持させて制御の負担を減らしていた。


「バケツリレーみたいニャ」


 最終的に2人が生成した火球は十数発を超える数になっていた。

 限界まで魔力を使ったのだろう。

 リーダーも角刈りくんも発射前からヘロヘロ状態だ。


 が、メインの制御はこの両名が握っているのだから失神することなど許されない。

 最後の気力を振り絞るようにして歯を食いしばり──


「くらえっ!」


「行け!」


 裂帛の気合いを込めてリーダーが火球を打ち出すと角刈りくんも即座に続いた。

 闇色の油虫どもに向かってすべての炎の玉が飛んで行き着弾と同時に轟音が響き渡った。


「爆裂術式」


「少しでも殺傷力を上げるためでしょうね。よく制御できたものです」


「こういう時は、玉屋ぁ~の方が適した発言ニャ」


「相手はGなのに?」


「うっ、きたねえ花火だったニャ」


 ギガコックローチどもが爆散した後も終わらない。

 飛び火して次々と炎に飲み込まれていく。

 この結果は読めていたので今回に限っては支援魔法を使っていない。


「結構やるもんだニャ~」


 先ほどまでは不機嫌の塊だったレイが上機嫌で下の2人を評価している。


「打ち込む場所も計算しているわ」


 ケイトも感心していた。

 火球の打ち込み位置を精密にコントロールすることで、より広範囲にダメージが行き渡るようにしていた。


「それだけじゃない」


 スィーの言葉にケイトとレイがどういうことかと問いたげにそちらを見た。


「相手は油虫」


 素っ気ない返事だったが、ケイトとレイは何かを察したように慌てた様子で前に向き直る。

 そのタイミングでギガコックローチを包み込んでいた炎が勢いよく燃え広がった。


「ニャーるほどなのニャ」


「体表の油分が引火しやすいのね」


 物理的な攻撃は体表面を滑ってダメージが通りづらかったりするが、こういう弱点も合わせ持つ。


「これはもう花火と言うよりもキャンプファイヤーなのニャ」


「何処がだよ」


 思わずツッコミを入れてしまったさ。

 広範囲で派手に燃えているお陰でキャンプファイヤーというより火の海状態だからな。

 山頂にいる決死隊の面々も口々に快哉の声を上げていた。

 ただ、それも糠喜びに終わってしまうのだが。


「おっ、おいっ、あれって……」


 最初に気付いたのは前衛にいた1人だった。

 いや、リーダーや角刈りくんは先に気付いていたが声に出さなかっただけだ。

 こわばった表情で声を発した仲間の方を横目で見やっている。


 その前衛が斜面の方を指差すと……


「ウソよ……」


「そんなバカな……」


「もう、こんな所にまで……」


 指差された方へ視線を向けた面々が次々に絶望の淵へと追い込まれていった。

 ただならぬ様子に後衛の者たちも前に出てきて斜面の現状を確認。

 どういうことなのかを理解した者たちの中には言葉もなくへたり込む者まで出る始末である。


 有り体に言ってしまえばスタンピードの実態を知ってしまった訳だ。

 山の麓を埋め尽くさんばかりの魔物魔物魔物。

 もはや魔物の海とも言えるような状態で、一部は中腹近くまで押し寄せている。

 決死隊の一同が絶望的な表情になるのも無理はない。


 ギガコックローチの群れでさえ完全には始末しきれなかったのに、それを超える規模で魔物どもが迫らんとしているのだ。

 そして決死隊は誰もが疲弊しMPも枯渇寸前。

 ポーションを使って回復しても対処できるものではあるまい。

 これで楽観的になれる方がどうかしている。


「では、そろそろ俺たちの出番だな」


「フッフッフ、いよいよ真打ち登場ニャ~」


 いかにも何か企んでいますと言わんばかりに邪悪さマシマシの笑みを浮かべながら、そんなことを言うレイ。


「そんなにフラストレーションがたまっていたのかよ」


 俺の呟きにスィーが反応した。


「ギガコックローチのせい」


「残り2割近くにまで数を減らしたんですけどねえ」


 ケイトが呆れた様子で嘆息する。

 そうなのだ。

 風魔法の段階では支援もしたが、それを考慮に入れても決死隊は予想を遙かに上回る戦果を上げた。


「減らしても残っている」


「あー」


「記憶にも残っている」


「……だよねー」


 レイが思った以上にやる気になる訳だ。

 入れ込みすぎとも言うけれど、わざわざ水を差すような真似をする必要もあるまい。

 もともと山越えさえさせなければ人的被害は発生し得ない状況だ。

 やる気が過剰でもスタンピードを短時間で終結させてしまうだけである。


 誰も死なないなら、むしろそれは歓迎すべきではなかろうか。

 俺たちはパーティを組んでいるから経験値も均等に入るし、レイが先走って1人でスタンピードを殲滅で終わらせたとしても結果は変わらない。

 ケイトやスィーが暴れたいと思っているならレイとケンカになるかもしれないけど。

 2人を見たところ、そういう雰囲気はなさそうだ。

 あれこれと考えている中で──


「行っくニャー!」


 レイがそんな風に叫んだので大きな魔法をぶっ放すのかと思ってしまった。

 俺の予測は大いに外れるのだけど。

 レイは音声結界を突き抜けて山頂に向けて下降を始めた。


「あ、おいっ、待てって」


 制止しようとしたものの思い込みが激しかったせいで初動がワンテンポ遅れてしまった。

 それだけで間に合わないことが確定。

 次の瞬間、レイは決死隊の面々の前に降り立っていた。


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