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33 レイ、ちょっとキレる

 空飛ぶ魔物の群れの正体がゴブリンサイズの巨大Gだと判明してからレイの機嫌はすこぶる悪い。

 普段のおおらかな性格とは裏腹である。


「あの2人は何してるニャ──────────ッ!」


 そして決死隊の一部に対して不満を爆発させた。


「他の面子は攻撃と防御で役割分担してるニャよ!」


 転生前の猫の姿だったなら毛を逆立てて「フシャーッ!」と威嚇していたことだろう。


「あの長髪と角刈りは何にもしてないニャー!」


「そんな訳ないじゃない」


 呆れた様子でケイトが支援魔法を使いながら言った。


「少なくとも長髪の人はリーダーとして指示を出しているわよ」


 よそ見しながら話をしてもミスることはない。


「同感」


 スィーがケイトの言葉に同意していた。


「角刈りも攻撃陣の片方に合図を出している」


「あれだけの数を相手に悠長なことを言っている場合じゃないニャッ!」


 レイは憤慨しながらも支援魔法に偽装の魔法を掛けるのを忘れない。

 やることやりながらなのでキツくは言えないが勘弁してほしいところだ。


「あれだけの数だから、タイミングを取りながら攻撃するのが重要なんでしょうが」


「意味不明ニャ!」


「どこがよ」


 嘆息しながら反論を始めるケイト。


「バラバラに攻撃するより集中させた方がダメージが大きくなって無駄が減るわよ」


「ぐっ」


 指摘を受けてしかめっ面になるレイ。


「それに乱発はガス欠の元」


 そしてスィーからも指摘を受けるハメになった。


「うっ」


 レイは表情は渋いままで唸ることしかできない。


「その様子だと、短時間でガス欠になった時のデメリットを理解できているようだな」


「──────────っ!」


 俺からも指摘を受けたレイは声もなく歯噛みするばかりとなった。

 今にも地団駄を踏みそうなくらい肩を怒らせている。

 まあ、空に浮いている状態なので踏もうにも踏めないんだけどな。


「あれっ、分からなかったか?」


「分かるニャッ」


 レイは言い放つと恨めしそうな目をして俺たちを見てくる。


「魔力を回復させるポーションが足りなくなるニャ」


「それだけか?」


 俺の問い返しに目を見開いてこちらを見てくるレイ。

 まだ何かあるのかと言いたげに見えたのは気のせいではないと思う。


「……………………………………………………降参ニャ」


 たっぷり時間を使って考え込んだものの結局はサジを投げた。

 頭に血が上ってる証拠だ。


「魔力がなくなれば時間稼ぎもできなくなるだろ」


「時間稼ぎ?」


「何もしてないと言ってた2人の状態をよく確認してみな」


 俺に言われてレイは渋々とではあるがリーダの長髪くんとその補佐をしている角刈りくんの方へと視線を向けた。

 それでも一瞥して終わりではないので真剣に観察する気はあるのだろう。

 ジーッと睨み付けるように2人を見ることしばし。


「ンニャ?」


 不機嫌そうな表情が怪訝なものへと変化した。

 どうやら2人の状態がただ指示を出しているだけではないことに気付いたようだ。

 ただ、それが確認できたとしても結論が得られる訳ではない。

 逆に混乱を呼び込む結果になってしまったらしく眉間にシワを刻んで考え込み始めてしまった。


「どういう状態かは気付いただろう?」


「魔力を練っているニャ」


 即答はしたもののレイの眉間に刻み込まれたシワはそのままである。


「どうしてさっさと魔法をぶっ放さないニャ!?」


 レイはキレ気味に疑問を口にした。


「限界まで魔力を練り上げて魔法を使うつもりなんだろうよ」


 俺の読み通りなら、それだけではないんだがな。


「意味不明ニャ!」


 鼻息を荒くするレイ。


「仲間と同調する方が威力も効果範囲も上がるはずニャよ!」


 レイの言うことも一理ある。

 ただし、それは──


「同じ属性の魔法だったらな」


 ということだ。


「ニャ、ニャンだってぇ──────っ!?」


 何処かで聞いたような台詞とともに驚愕の表情を浮かべるレイ。


 大袈裟すぎて吹きそうになってしまったさ。

 まるで某漫画のワンシーンである。


「使うのは火属性だろう」


「それなら尚のこと今が使い時ニャ」


 レイの言いたいことも分からなくはない。

 相手の被害を拡大させたいなら火魔法を種火にして風魔法で火勢を強めるのは有効な手段だ。


 ただし、現状の攻撃態勢を考えると必ずしも良い選択とは言えない。

 彼らの手元で風魔法を扱っている以上、火を付けた場合にどういう反応をするか彼らに読み切れるかは怪しいところだ。

 それこそ荒れ狂う嵐のように周辺一帯を火の海に変えてしまう恐れだって無いとは言えない。

 もしも、そうなってしまえば人的被害も発生する恐れが出てくる。

 そう説明すると、レイはようやく納得した様子を見せた。


「しょうがないニャー」


 とか言いつつも、どこか不満そうである。


「燃やす時は派手にやってやるニャ」


 言ってるそばからこれである。


「あの人たちは俺たちみたいに飛べる訳じゃないんだから無茶するなよ」


「ぐっ」


「そうよ、火傷とかさせたらどうするつもり?」


「うっ」


 俺が釘を刺すとケイトが追随してきた。

 レイは反論の余地がないようで短く唸ることしかできない。

 だというのに容赦なく追撃してくる者がいた。


「あの2人はポーションで回復させながら魔力を練り上げている」


 スィーだ。


「過剰な支援魔法は危険」


 少しは周囲の様子に気を配れと言いたいんだろうな。


「ぐぬぬ」


 レイは悔しそうに唸ることしかできなかった。

 スィーの言葉が届いたところを見ると頭に血が上りきった状態からは脱したか。

 リーダーと補佐役の2人が暴発しかねない不安定な魔法を使おうとしていることも同時に理解できたろう。


 こんなやりとりをしている間に下の2人が魔法を使う準備が整ったようだ。

 リーダーと補佐役の正面に大きめの火球が形成されている。

 しかしながら練り上げた魔力からすれば不釣り合いなほどに小さい。

 せいぜいがバランスボールサイズである。


「どういうことだ?」


 あの火球が敵に命中し爆裂しても決死隊がこれまでに始末したギガコックローチと同程度の数を屠ることはできまい。

 ここまで魔力を練り上げてしまうと連射は不可能。

 最初の発射で余剰魔力が放出拡散されるのがオチだからだ。

 初っ端で魔力を使い切らなければ無駄遣いで終わるしかない。

 無理に魔力を手元に残そうとした場合は暴発するのが目に見えているからな。


「熱でダメージを受けることを懸念しているのでしょうか?」


 ケイトが首をかしげながら推測したことを口にするが。


「そんな腑抜けた根性じゃアレは殲滅できないニャ!」


 レイが己の考えを力強く主張した。


「根性だけで通用するなら苦労はしない」


 そしてスィーが否定する。


「なんニャとぉ!?」


「やめないか」


 ここで止めていなければどうなっていたことやら。

 それよりも決死隊の2人である。

 一体、何をするつもりなのだろうか。


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