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30 様子見の理由

 現在、山頂の上空で待機中。

 魔法を駆使して山頂で決死の表情をしている面子には気付かれないようにしている。


「本当に様子見するんですか?」


 呆れ気味の顔でケイトが聞いてきた。


「ケイトは余裕がないニャー」


 俺が返答するより先にレイがツッコミを入れていた。


「そんなんだと肝心な時にヘマするニャ」


「なんですって!?」


 挑発されるような物言いをされてガーッとケイトが吠えたものの下の面子はそれでも気付かない。

 風属性の魔法で音が伝わらないようにしたからだ。

 あと光属性の魔法で姿が見られないようにもしている。


 そんなことよりもレイがケイトを挑発したせいでケンカの体勢に入りかけていた。

 まあ、ケンカするほど仲がいいと言うけどな。

 とはいえ少しはTPOを考えた言動を心がけてほしいものである。


「よさないか」


「へーい」


 レイはあっさりと返事をして引き下がった。

 それを見たケイトも引き下がりはしたものの絵に描いたような「ぐぬぬ」状態で大いに不服そうだ。

 紀州犬だった頃の彼女なら唸り声を発していたことだろう。


「気を引き締めろ」


 自分への戒めの意味も込めて注意を促した。


「引き締めてどうするニャ」


「もうしばらく様子見をする」


「何ニャ、それ」


 レイがズッコケた。


「急行した意味は?」


 スィーも疑問を呈する形でツッコミを入れてきた。


「そうニャ、意味ないニャ」


「いいや」


 俺は肩をすくめながら返事をする。


「玉砕覚悟で特攻をするつもりなら止めるつもりだったぞ」


「自暴自棄になっていないから手出ししない方針に切り替えたということですか?」


 ケイトがそんなことを聞いてきたのは今ひとつ俺の意図を図りかねたからのようだ。


「手出ししないんじゃなくて様子見だよ」


「ピンチの時に颯爽と現れてサクッと助けるのかニャ?」


「状況しだいではそうなるかな」


 下の面々の実力がまだわからないし、余計なお世話だったら矛先が俺たちに向けられる恐れだってある。

 そうはならないとしても自助努力によって事態を解決しようとしている相手は尊重したい。

 それで得られる利もあるしな。


「条件が曖昧。明確な介入基準の開示と具体的な指示が欲しい」


 またしてもスィーからツッコミが入ってしまった。


「そんなこと言われてもなぁ……」


 クールなスィーは理屈っぽいのが玉に瑕だと思う。


「彼らにもプライドってもんがあるだろう」


 覚悟完了している今の彼らを無視して介入するのは、なんというか気が引けるんだよな。

 俺が向こうの立場なら鳶に油揚げをさらわれたような気分になるかもしれん。

 少なくとも拍子抜けというか微妙な気持ちにはなるだろう。


「できれば彼らの本気を尊重したい」


 もちろん、その手に余らないのならだけど。


「非合理的では?」


 確かにその点については否定のしようがない。

 どうせ介入するなら山頂の面々の先手を取ってしまえばフォローする手間が省ける。

 早く動いただけ被害も出にくくなる。


「合理的かどうかじゃなく利で見ているのさ」


「意味が分からない」


 スィーはとてもそうは思えないとばかりに頭を振った。


「あれだけの魔物を一部とはいえ屠ることができれば大幅にレベルアップするはずだ」


「ますます分からない」

 そう言いながら困惑の表情でスィーは首をかしげてしまう。

 それだけではなくケイトやレイまでもが同じように首を捻っていた。


「なに言ってるニャ? ユート、頭は大丈夫ニャ?」


 レイが無遠慮かつ失礼な物言いで聞いてくる。

 心配して言ってくれているのは分かるんだけどさ。


「まったくです。大幅にレベルアップするとは考えにくいのですが?」


 ついさっきまでレイと言い争いになりかけていたケイトが同意するし。

 この2人の関係はホント理解に苦しむことがある。

 水と油のように反発しあっていたかと思ったら瞬時に切り替わるもんな。


「俺たちのことじゃないんだが?」


「「「はぁっ!?」」」


 素っ頓狂な声を出してハモる3人だったが、俺は気にしない。


「利があるのは下で思い詰めた表情をしている少年少女決死隊だよ」


 まあ、こっちの世界は16才で成人だそうだし当人たちの前で少年少女と言ってしまうと怒られるかもしれない。

 見た目は全員が若いとはいえ、こういう危険な場所に来るのだから未成年はいないだろうし。

 それどころか俺たちも今は成人ギリギリの年齢だからお前が言うなと反論されそうだ。


「チーム名……」


 スィーが俺のネーミングセンスに呆れている。


「そうかニャ~?」


 レイは首をかしげながら対抗してきたけど。


「珍妙だけど嫌いじゃニャい名前だニャ」


 容赦がないのか擁護しているのかどっちなんだ。


「下の連中って言うより決死隊の方が呼びやすいニャ」


 レイの中では下の面々は少年少女を省略して決死隊で決定らしい。

 些か物騒な名前になってしまったものの訂正しようとすると脱線した話が更に遠くへ流れていきそうで怖い。

 軽率は力なり、だな。


「好きか嫌いかは愛着が湧くかどうかの重要な要素ニャ」


「その呼び方は微妙」


「なんでニャー」


「彼らが喜ぶとは思えない」


「ちょっと、論点がズレてるわよ。名前のことなんて今はどうでもいいじゃないの」


「んニャ?」


「そうね」


 ケイトの指摘で2人も矛を収め、それ以上は言い争わなかった。


「でも、決死隊にレベルアップさせる意味が不明なままニャ」


「同感ね」


 レイの言葉にスィーが同意する。

 この2人も言い争いから切り替わる落差が激しい。

 ケンカするほど仲がいいってことなんだろうけど極端すぎて気疲れさせられるよ。


「それは私も思ったわ」


「だよニャー」


 ケイトの賛同も得てレイは鼻息を荒くする。


「決死隊をレベルアップさせて何の意味があるニャ?」


「我々の得になるとは思えないのですが?」


 レイとケイトが身を乗り出すようにして聞いてくる。


「むしろ損になるかと」


 スィーは落ち着いてはいるものの2人の意見には賛成しているので俺は孤立無援状態。


「短期的にはスィーの言う通りだが物事は中長期で見ないとな」


「どういうことニャ?」


 不思議そうに首を捻るレイ。

 ケイトやスィーも声には出さなかったもののレイと同じように疑問顔になっている。


「何かあるたびに彼らを助けるなんてできないだろ」


「当然。友達じゃない」


 スィーはドライだ。


「今回、もし最初から助けていればどうだ? 彼らの成長を邪魔したとも言えるよな」


 俺がそう言うと、スィーが何かを察したように表情を変えた。


「問題発生時に自分たちで解決する能力を高める、と?」


「そういうことだ」


 スィーの確認を求める言葉に俺は頷きながら答えた。


「今回のことでレベルアップしてもスタンピードクラスの問題には対応できないだろうがな」


「滅多にないから問題ない」


 そんなことを言っているとフラグが立ってしまいそうだが、そんなことはないと思いたいところである。


「それに俺たちだけで何もかも終わらせたら当人たちのためにならないぞ」


「スタンピードの本当の恐ろしさが理解できない、と?」


 再びスィーが聞いてきた。


「それもある」


「他にも?」


「何かあっても他力本願に陥りやすくなると俺は思うんだが」


「そうかニャ~?」


 俺の返事に疑問を呈したのはレイだった。


「誰かに助けてもらえるなんて考える面子じゃないと思うニャ」


「頂上にいる彼らだけならね」


 その彼らから報告を聞くであろう麓の仲間たちは別だよな。


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