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29 腹をくくるしかない

「どうするんだ、リーアン?」


 焦りをにじませた険しい面持ちでグーガーが聞いてきた。

 いきなり魔法で攻撃しないだけマシではあるが落ち着きを失っているのは明白だ。

 グーガーだけであの数を殲滅するのは不可能だろう。


 いや、俺たちだけでは無理だと言うべきか。

 それだけの魔法を放てる者がいないからな。

 あれにはそれだけの規模がある。


「時間を稼ぐよりあるまい」


 背後の麓には俺たちの里がある。

 俺たちが抜かれれば、さほど時間をおかずに辿り着き蹂躙されてしまうはず。

 そんな中で冷静に行動できる者など、そうそういるものではない。


「だから、どうやって!?」


 冷静さを失っているようでグーガーは苛立たしげに声を荒げて噛みついてきた。

 時間を稼ぐ方法を推測することもなくというのは、いただけない。

 そこまで平静でいられなくなるとはグーガーらしくないと思ったが危機感がそうさせているのだろう。


「騒ぐな、静かにしろ」


 俺はグーガーに対し努めて冷静に告げた。

 本当のことを言えば怒気を込めたいところであったものの、そうはしなかった。

 魔物たちに悟られたくない一心で必死だったのだ。


 空があの状態なら地上はどうなのか。

 最悪を想定するなら麓も同じような状態であろう。

 未だ魔物の殺気などは感じられないが、向こうが俺たちの殺気に気付いたならどうなるか。

 考えたくもない。


 その気持ちが表出していたのか前のめりになっていた皆の雰囲気がトーンダウンしていった。

 それでもグーガーは何か言いたげに俺の方を見てくる。


「奴らに気付かれて、さらに他の魔物どもも招き寄せたいのなら止めはしないが」


「くっ」


 悔しげに呻くところを見ると効果はあったようである。

 ただし、勢い込んでいた反動か里の誰かが亡くなったかのような重苦しい雰囲気に包まれてしまう。

 ここまで士気が乱高下するとはな。

 迂闊に声もかけられなくなってしまった。


 なんとか盛り返したいと俺は言葉を探すもじりじりと時間が過ぎていく。

 一呼吸するほどの間がやたら長く感じてしまう。

 そんな中で1人の仲間が動きを見せた。

 里一番の投げ槍の名人リグロフだ。

 奴は闇をチラリと睨むように横目で見てから俺の方へ視線を向けてくると──


「時間を稼ぐと言っても、ただ待つだけではないのだろう?」


 グーガーに代わって疑問を投げかけてきた。


「ある意味、それに近い」


「どういうことだ?」


 押し殺した声で聞いてくるリグロフ。

 ある意味、声を荒げていた先ほどのグーガーよりも迫力があった。


「あまり殺気立つなよ」


 が、俺もここで退く訳にはいかない。

 皆からの信頼を失えば何もできないまま里が蹂躙されることだって考えられるのだ。


「少しでも連中に気取られないようにしないと今のままじゃ時間稼ぎもままならないぞ」


「むっ」


 俺の言葉にリグロフの方がたじろいだ。


「結局、どうするつもりなんだよ」


 そこにどうにか復帰してきたグーガーが聞いてきた。


「今のうちにあの得体の知れない闇を迎え撃つ準備を進める」


 俺の返答を聞いたグーガーは大きく肩を動かすように溜め息をついた。


「どうにかできる相手とは思えないんだがな」


 そんなことは俺だって百も承知している。

 だからこそ皆も取り乱し掛けていたんだしな。


「誰かが盾にならなきゃ里の皆が助からない」


「…………………………………………………………………」


 重い沈黙が押し寄せてきた。

 それはそうだろう。

 ここにいる全員に捨て石になれと言ったも同然なのだから。


「腹をくくるしかないんだろうな」


 うつむいていたリグロフが思い詰めた表情でボソッと呟いた。

 だが、暗い雰囲気を漂わせていたのも呟きを漏らした直後までだ。

 すぐに唇を引き結んだリグロフは強い意志を感じさせる瞳を俺の方へと向けてきた。


「俺は何をすればいいんだ?」


「今は魔力を練り上げて槍の威力を目一杯高めることを考えてくれ」


 リグロフが本気で放った風の槍なら周囲を派手に巻き込んでくれるだろう。


「分かった」


「私は、兄さん?」


 次に聞いてきたのはリーファンだった。


「闇が接近してきたら風で押し返せ」


 言葉にするだけなら簡単だが妹にやらせようとしていることは無茶もはなはだしいことだ。

 風の精霊魔法を使ったとしても、あの規模で接近されればどうにもならない。


「わかったわ」


 それでもリーファンは強い意志を感じさせる目で俺を見ながら頷いた。


「無茶を言うなよ、リーアン」


 そこにグーガーが苦言を呈してきた。

 せめてリーファンだけでも逃がそうと言いたいのだろう。

 だが、そんなことは不可能だ。

 妹は今この場にいる面々の中で一番の頑固者だからな。


「誰もリーファン1人にやらせるとは言っていないだろう」


「自分たちが補佐すればいいんだな」


 精霊魔法を得意とする男が両脇にいる仲間に目を向けてから声を上げた。

 目を向けられた者たちも決意のこもった視線を俺に向けてくる。


「任せて」


「今から魔力を練り上げれば、それなりの範囲をカバーできると思う」


「お前ら……」


 グーガーは圧倒されたかのように呆然とした面持ちでそう声を漏らすのが精一杯だったようだ。

 残りの面子も同じような目をして俺に指示を請うてきた。

 もちろん俺もそれに応える。


「ええいっ、くそっ」


 最後に残ったグーガーが悪態をついた。


「お前ら、みんな馬鹿野郎どもだ」


 そんな風に言いながらも表情が台詞と一致していない。

 不敵な笑みを浮かべたグーガーが全員を見回してから最後に俺を見てきた。


「俺は派手にぶっ放せばいいんだろう?」


 自分が何をすべきなのかは皆への指示を聞いて推測できたようだ。

 まあ、難しい指示は出していなかったからな。

 攻撃が得意か守りが得意かで役割を持たせただけなんだし。


「そういうことだ」


「だが、それをしても数を減らすのが精一杯じゃないのか?」


「だから俺が炎の魔法を使う」


「どういうことだ?」


 皆には風の魔法を使うように指示しておきながら俺だけ火の魔法を使うと言えば疑問も感じるか。


「狼煙の代わりにするんだよ」


「なにっ?」


「派手に燃やせば里の皆にも見えるだろう?」


「里長に伝われば脱出を判断してくれる、か」


 リグロフが言った。


「そういうことだ」


 誰かを伝令に走らせるよりよほど速いはず。

 特大の炎で誰も見たことのないような派手な狼煙にしてやるさ。


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