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27 夜の闇に思うこと

 俺たちはどうにか北壁山の山頂に辿り着いた。

 今の俺が出しうる限りの魔力で精霊魔法を使ったのは良いのだが……


「見事に疲労困憊だな」


 到着するなりグーガーに笑われた。

 実際にその通りではあったのだけれど俺は安易に認める訳にはいかなかった。

 幼なじみに馬鹿にされたからなんて小さな理由ではない。

 妹のリーファンが気遣わしげに俺の方を見てくるからだ。


「大丈夫ですか、兄さん」


「ああ、問題ない」


 8合目で休憩を取るまでは妹に負担を掛けっぱなしだったことを考えれば、どうと言うほどのことはない。

 魔力はスッカラカンだが、それは里長が用意してくれた秘薬を飲めば解決する。

 俺は竹筒の栓を開けて一気に中身を煽った。

 途端に暴力的な苦みと不味さが嵐のように口腔内を蹂躙していく。

 条件反射的に手で口を押さえていた。


「─────────────────────────っ!!」


 成人した時に一口だけ飲んだ時とは破壊力が桁違いだ。

 招かれざる口腔内の客を無理やり飲み込んだが、それで味覚の破壊が終わる訳ではない。

 今もなお舌は蹂躙され続けている。


「お、おい……、大丈夫か?」


 グーガーが気遣わしげに聞いてきた。


「無理すんなよ」


 その言葉に俺ではなく周囲の皆がドン引きしながら頷いていた。

 昼間の明るい状態であれば皆の顔色の悪さも見て取れたことだろう。

 周囲は夜の闇に包まれようとしていた。

 魔法で強化したとはいえ北壁山の山頂まで登り切るのは相応の時間を要したのだから無理もない。


 ここからは暗くなっていく一方だが明かりを灯すことはできない。

 スタンピードが発生しているなら暴走した魔物たちに目印を与えてしまうような真似は控えるべきだろう。

 口の中で不快の極みが自己主張してくるが、その程度の思考は可能だ。


 しかしながら口を開けば逆流もあり得るので喋ることはできない。

 2回も秘薬を飲み干して涙目だけで済んだのだから我が妹の忍耐強さには脱帽だ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 どうにか喋ることができるくらいには回復した頃合いになって──


「すっかり暗くなってしまったが、どうする?」


 グーガーが問いかけてきた。

 明かりもなしに麓の様子を確認する術はあるのかと言いたいようだ。

 平時であるなら勿体ぶりたいところだが先ほどから地の底から這い上がってくるような重圧を感じている。

 麓の方から流れてくる魔物どもの殺意の波動がそう感じさせているに違いあるまい。


 ならば夜明けを待って麓の様子を確認するという選択はなしだ。

 早急に確認して少しでも早く俺たちの帰りを待っている里の皆を避難させるべきだろう。


「魔法を使う」


「明かりは厳禁だと思うのだがな」


 仲間たちも同じ認識だとばかりに頷いていた。


「明るくしたところで麓の様子は確認できまい」


 北壁山の高さを考えれば当然のことだ。

 麓に知り合いがいても頂上から発見することなど叶うまい。

 たとえ昼間のような光源があっても結果は同じ。

 子供の頃におとぎ話で聞いた竜のように巨大な存在ならば話は別だが。

 現状で最も目撃したくない魔物の頂点とも言える存在だ。

 そんなものが麓にいるのなら恥も外聞もなく逃げ帰るだろう。


「うっ、それは……」


 グーガーが言葉に詰まる。


「では、どうする?」


 今度は投げ槍名人の男が問うてきた。


「皆の視力を強化させればいい」


 小さいものを大きく見ることができるだけでなく、少ない明かりでも様子をうかがい知ることができる。


「おおっ、あれを使うのか」


 グーガーはそう言ってニヤリと笑った。


「久しぶりすぎて、すっかり忘れていたぞ」


 人前では、ほとんど使ったことがないから無理もない。

 子供の頃に早く大人たちに追いつきたい一心で秘密の特訓を続けて編み出した魔法。

 これは妹のリーファンでさえ知らない。

 習得はできたが遮蔽物の多い森の中で使うような魔法ではなかったこともあって今では恥ずかしい思い出でしかないからな。


 おまけに精霊の助けを借りられる精霊魔法ではなく普通の魔法だ。

 精霊の助けを借りない分だけ魔力の消費効率は不利になるから里の者たちには敬遠される傾向がある。

 実際、幼かった自分には消耗が激しかったのをよく覚えている。


 それでも幼い自分にはそのデメリットを受け入れても使うに値する魔法だった。

 普通の魔法だから精霊の助けを借りた痕跡が残らないため発覚しづらかったのだ。

 子供の俺たちには実にありがたいことだった。

 大人にバレれば呆れられるであろうことは目に見えていたからな。

 リーファンですら知らないのはそのためだ。


「兄さん?」


 妹が困惑の視線を向けてくるのも当然と言えた。

 精霊魔法では視力強化は不可能だからな。

 もしかすると、できるのかもしれないが少なくとも俺は該当する精霊魔法を知らない。

 他の者たちが困惑して顔を見合わせるばかりになってしまうのも仕方のないことだろう。


 なんにせよ幼いが故の見栄から始めたことが役に立つことになろうとは夢にも思わなかった。

 世の中わからないものである。


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