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22 誰がいる?

 山越えさせたドローンから得られた情報は想像通りのものだった。


「いやー、大挙して押し寄せてくるねえ」


 ゴーグルに投影される向こう側の映像は未だ麓に達してはいないものの魔物が大挙して押し寄せていた。

 絨毯状態と言っても過言ではない。


「暖気なこと言ってる場合じゃないですよ」


 呆れ気味にケイトが言ってきたが、慌てても仕方ない。


「撤収するかニャ?」


 レイは見えない敵を切り裂くように武器の鉤爪をビュンビュンと振り回しながら聞いてくる。


「格闘戦で対処できる数じゃないでしょっ!」


 ガーッと吠えるように突っかかるケイト。


「大丈夫ニャ。どうせ山を越える前に脱落するのが大半ニャ」


 レイはフンスと鼻息を吐き出しながらドヤ顔で応じている。


「どうしてそんなことが断言できるのよ」


 不機嫌そうに言いながらケイトはレイを睨み付けていた。


「あんな過密状態で、まともに山なんて登れる訳ないニャ」


 ドヤ顔で反論するレイ。


「どうせ途中でドミノ倒しみたいになって転げ落ちるのがいっぱいいるニャ」


 でもって踏まれて同士討ちの格好になるって訳か。

 面倒くさがりの割には考えているな。


「おまけに足場が悪くなるから連鎖的に広がっていくと」


「そうニャ、ユートの方が賢いニャ」


「うぐぐ、腹立つぅ」


 歯噛みしながら悔しげにレイを睨むケイト。


「そんなに睨んでも怖くないニャ」


「キ──────────ッ!」


 ケイトが苛立ちを放出するようにダンダンと地団駄を踏む。


「やる気ニャ? 受けて立つニャよ」


 レイが面白がって挑発している。

 ケンカするほど仲がいいとは言うが、これはやり過ぎである。


「やめておけ、状況を考えろ」


「へーい」


 軽い調子で引き下がったレイに対してケイトは無言はあるが悔しげだ。

 後で発散させてやる必要があるだろう。


 とはいえ今は確定したスタンピードをどうにかする方が先だな。

 近隣に人が多く集まるような街はないがスタンピードなら到達しないという保証はない。

 放置したことで何処かの街まで到達した場合、壊滅的な被害が出るのは目に見えている。

 数の暴力に加え魔物どもは狂乱している訳だし。

 俺たちがスルーしてしまうと後味が悪いなんてものでは済まない結果になるだろう。


「悪いニュース」


 不意にスィーが言ってきたその言葉で森林地帯に集落があったことが確定した。


「規模は……」


 返事を聞く前に、その表情で理解した。


「大きいみたいだな」


 コクリと頷くスィー。

 そうなると一度に全員を揚陸艇で避難させることは難しいかもしれない。

 ならば住人の足で逃げてもらう必要がある。


「説得して避難させた方がいいよなぁ」


 労力を考えると憂鬱だ。

 現状を把握しているか怪しいし、にわかにそんな話を持ち込んでも信じてもらえるかどうか。

 それ以前によそ者の俺たちを敵視してもおかしくない。

 秘境同然の僻地で住んでいる者たちだからね。


「難しいかと」


「だよなぁ」


 ますます憂鬱になる。


「ユート、ユート!」


 こんな状況でもレイはマイペースを崩さずハイテンションで呼びかけてくる。


「何だよ、魔物たちに大きな動きでもあったのか?」


「そっちじゃないニャ、山頂ニャ」


「山頂ぉ!? ヤバそうな魔物が先行してきてるのか?」


「人がいますね」


 俺の問いに答えたのはケイトだった。

 その言葉に促され俺もゴーグルの映像を切り替えて確認する。


「確かにいるけど何だありゃ?」


 1人ではなく軽装ではあるが武装した集団だ。


「弓持ちが多い」


 スィーが言う通り大半が長弓を携えている。

 剣も持っているが細剣か小剣の類いであり、バリバリの前衛職といった風には見えない。


「弓を持たない連中は杖持ちか」


 ということは魔法使いなのだろう。


「状況には気付いているようだが──」


 明らかに全員がスタンピードの方を凝視している。


「──偵察なのか止める気なのか」


 判断しづらいので表情を確認したいところだが。

 遠目にもピリピリしていることが明らかな連中の正面方向へドローンを回すのは避けたい。

 この状況では探知系の魔法を使っていることだってあり得るし。


 どうしたものかと考え始めたところで──


「後者に決まってるニャー!」


 自信満々にレイが断言した。


「根拠はあるんでしょうね」


 疑わしげに視線を向けながらケイトが問い詰める。


「当然なのニャ、アイツら悲壮感バリバリなのニャ」


 どうだまいったかとでも言わんばかりにフンスと鼻を鳴らすレイである。

 それを見たケイトは言葉を失って呆れていた。

 遠目に見た雰囲気だけで、あんなことを言い出すんだから気持ちは分かる。


 しかしながら昔からレイは勘が良かったので決してバカにはできない。

 ケイトはそのあたりを失念している。


「いずれにしても山頂に行くしかないってことだ」


 集落に赴いて避難誘導で四苦八苦するより、あの連中を抑え込んでスタンピードを何とかする方がマシってものである。


「そうかもしれませんが……」


「臆病風に吹かれたのかニャ」


「なぁんですってぇっ!」


 レイの安い挑発にケイトが引っかかる。

 まるで昔の海外アニメに出てくる猫とネズミを見ているかのようだ。

 まあ、元犬と元猫だけどさ。


「やめないか。まずは連中の目的を確かめに行くぞ」


 俺は有無を言わさず風属性の中級魔法である飛翔で空に浮かび上がった。

 急な斜面を駆け上がるより空を飛んで一直線に向かった方が断然早く到着できるからだ。


 とにかく後は状況に合わせて臨機応変に対応するのみ。

 行き当たりばったりとも言うが気にしてはいけない。

 頂上にいる連中が突撃すれば無駄死にするだけだ。

 そのあたりを理解しているらしいスィーが俺の隣に並び、ケンカを始めそうになっていた2人は出遅れる格好となった。


「キャー、待ってー」


「グズグズしてると置いてけぼりにするニャ」


 泡を食うような慌てっぷりを見せるケイトと、それを煽るレイ。

 生前の猫と犬だった頃を彷彿させるようなやり取りだ。

 バタバタしつつも2人が俺たちのところに浮かび上がってきたところで──


「じゃあ、行くぞ!」


 俺は先陣を切って頂上を目指し飛び始めた。


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