20 褒めてほしい3人
「魔物なら向こう」
俺が魔法で魔物を探そうとするとスィーが前に出てきて先導するような格好になった。
「手際がいいな」
「これくらいは普通」
すまし顔で返事をするが、どこか誇らしげでもある。
上空から偵察してきたから魔物の分布を把握できて当たり前と言いたいらしい。
が、普通は時間を掛けずにそこまでできるものじゃない。
相当に気合いが入っているのがうかがえる。
よほど俺の焼死が堪えているらしい。
チートな転生をしたんだから気にしてもしょうがないと思うのだけど、それを言ったところで納得はしないだろう。
そして、それはケイトやレイも同じようだ。
レイなどはノホホンとしているようで隙が感じられないし。
ケイトはケイトで今こそ忠義を果たすべき時なんて目で語っているし。
「3人とも肩に力が入りすぎだな」
とだけは言っておいた。
こんなので平常心を取り戻せるなら苦労はしないが言わないよりはマシだろう。
いざという時のブレーキになってくれれば儲け物ってね。
先頭を走っていたスィーが不意に足を止めた。
「この辺りから魔物の縄張り」
言葉通り、かすかに瘴気の気配が感じられる。
姿が見えないのは岩やら何やらで遮蔽物が多い上に少し距離があるからだな。
ここからは不意打ちを受けないよう慎重に行こうということか。
「サンキュー、スィーの案内のお陰で魔物を捜し回る手間が省けた」
「別に普通」
素っ気なく返事をした割にピリピリした感じが少しほぐれたようだ。
ツンデレかよ。
そんなスィーをうらやましげに見ているケイトとレイ。
この2人も褒めてほしいんだな。
そんなことで鋭い刃物のような緊張感が薄まるならお安いご用である。
まあ、褒めるためには仕事を振らないといけないんだけど。
ならば彼女たちを信じて魔物を探すのを全面的に任せてみるとしよう。
「じゃあ、ここからはケイトの鼻と耳を頼りにさせてもらおうか」
「お任せください」
パッと表情を明るくさせたケイトがバタバタと尻尾を振っている。
一方でレイはプクッとふくれっ面になっていた。
「魔物の位置と数が具体的に分かったらレイの出番だぞ」
そう言うだけで機嫌が直るのだからチョロい。
「何をするニャ?」
「トレインしない程度に魔物を引っ張ってくるのがレイの役割だ」
ケイトやスィーにも可能ではあるが、身のこなしがしなやかなレイが一枚上手だろう。
「一本釣りにゃー!」
ちょっと違う。
が、依頼内容を履き違えず実行してくれるなら問題ナッシングだ。
そんな訳で索敵をケイトに釣り出しをレイに任せて待つこととなったのだが……
「風魔法いる?」
スィーがそんなことを言い出した。
「助かるわ」
返事をしたのはケイトだ。
なるほど。俺たちのいる場所が風下になるよう調整するんだな。
ケイトの嗅覚が存分に発揮できる訳だ。
スィーはそっぽを向きながら魔法を使った。
やはりツンデレだ。
風向きが変わるとケイトはすぐに一方向を注視し始めた。
「この先、5百メートルに魔物の集団」
言いながら視線の先を指差すケイト。
それを聞いたレイは──
「行ってくるニャ!」
返事を待つこともなくシュバッと姿を消した。
身のこなしは忍者的で格好いいのだけど慎重さは欠片もない。
「あー」
おおよその数くらい確認してからでも遅くはないだろうに。
「追跡は?」
スィーが聞いてくるが、俺は頭を振った。
ケイトが慌てた様子を見せていなかったからだ。
「大丈夫だろう」
「ドローンで確認」
念のためなんだろう。
スィーはシャープなデザインのゴーグルを装着した。
ドローンを思考制御するCWOで使っていた装備のひとつだ。
「任せる」
俺の返事を受けたスィーは無言で頷くとドローンに光学迷彩処理を実行させレイの向かった方へと飛ばした。
「ケイトは引き続き索敵を頼むな」
「了解しました」
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結論から言えば蹂躙という形で終わったと言えるだろう。
異世界での初の実戦に忌避感を抱くこともなかったし血を見て気持ち悪くなるなんてこともなかった。
ただ、相手そのものには本能的な嫌悪感を抱いたけどね。
それはゴブリンだった。
緑色の肌で人間の子供ほどの背丈と老人のように背中を丸めた姿からは模擬戦の時のゴーレムのような無機的な空気がない。
獣じみた奇声を発し歯をむき出しにしてヨダレを垂らす醜悪な姿をしているからだ。
嫌悪感はそのせいだろう。
「釣ってきたニャー」
余裕綽々でゴブリンどもを引っ張ってきたレイは楽しげである。
奴らを見ても何とも思っていないらしい。
「全部で52匹いるニャ!」
ドヤ顔で報告してくるレイ。
「御苦労」
そう返事はしたものの内心では軽く途方に暮れていた。
まさかケイトが報告してきた集団以外のゴブリンまでかき集めてくるとは思っていなかったからだ。
現にケイトは「あちゃー」って顔をしていたし。
スィーも「どうするつもりだ」と非難の視線をレイに向けていた。
とにかく乱戦になれば返り血にまみれてしまうであろう白兵戦は避けたい。
「しゃーない、とりあえず魔法だな」
充分に引きつけた上でタイミングを見計らい──
「ピット」
地属性の中級魔法を発動させた。
注ぎ込む魔力量はあえてスルーして魔法のイメージを優先させた。
距離、範囲、深さ、そして発動スピード。
ドゴッ!
そこそこ派手な音を立ててゴブリンどもの足下から瞬時に地面が消えた。
そう、落とし穴である。
そのまま落下するんじゃなくて先頭集団は全力疾走していた勢いのまま穴の壁面部分に激突。
しかも後ろから来た連中に激突され壁面とのサンドイッチ状態になって「ギャッ」とか「グエッ」みたいな声が次々と聞こえてきた。
「コントかよ」
「それにしては面白みに欠けるんじゃないですか?」
俺が漏らした言葉にケイトが首をかしげながら聞いてきた。
「そうか?」
「もっとこう必死に走ろうとする感じがないというか」
「そんなの現実には無理だよ」
ここにも爺ちゃんの影響を受けた者がいたか。
「アニメじゃない」
スィーが夢を忘れた誰かに訴えかけるような台詞でツッコミを入れた。
「面白みに欠けるって言いたかっただけだもん」
フンと鼻を鳴らし、ふくれっ面でそっぽを向くケイト。
穴の底の方は面白みなど微塵も感じられない状態になっていたけどな。
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