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18 悔いる者たち

 結局、地上に降下することになった。

 魔物と何回か戦って加減の仕方を身につけようという訳だ。

 人目につかないように注意しないと化け物扱いされかねないけれど。


 候補地として真っ先に挙げられるのはダンジョンだ。

 洞窟型のダンジョンは冒険者ギルドの管理下にあるのが一般的みたいだから密かに特訓するのには向いていない。

 フィールド型のダンジョンも中小程度のあまり大きくないものは管理されていることが多い。

 瘴気がすぐに許容量を超えてオーバーフローを起こすからだ。

 規模はともかくスタンピードを発生させてしまうんじゃ無理もない。


 大規模なフィールドダンジョンになると滅多なことではスタンピードには至らないようだ。

 瘴気の許容量が多く蓄積しきる前に魔物同士の争いで結果的に間引かれるためらしい。


 洞窟型は管理のしやすさから人間が魔物を間引く結果になっている。

 仮にそれが間に合わない状態になってもダンジョンが拡張されることがほとんどだとか。


 なんにせよ、魔法の制御が不完全な現状で人が管理しているダンジョンに行くという選択肢はない。

 そんな訳で魔物の種別も数も現地に行かねば不明な未開の地へ行くことにした。

 縛りがあるのにベリーハードかもしれない初見のアクションゲームを始める心境である。

 失敗すると命に関わるとかシャレにならないんですがね?


 そんな訳で護衛がつくことになった。

 食堂で創天神様たちを囲んでいたアンドロイドなメイドたちである。

 と思ったら、アンドロイドの容姿を模倣した転生者だった。

 おまけに中身は顔見知りだ。

 祖父母の元で育てられていた時に飼っていた犬と猫、そして仲の良かったカラスなので

人じゃないけどね。


「お久しぶりです。紀州犬だった慧です」


 深々とお辞儀する慧。


「今はステラ様にケイトと名乗るように言われています」


 聞けば3人の名前が似ているせいで紛らわしいからだそうだ。


「やっほー。麗はレイのままだニャ」


 元気よく挙手して挨拶してくる三毛猫だったレイ。


「翠。今はスィー」


 素っ気ないが満更でもない空気をにじみ出している元ハシボソガラスのスィー。


 外見はアンドロイドを参考にしたため顔や体格なんかは三つ子かというくらい似ている。

 髪と目の色が明らかに異なるため見分けるのに苦労はしなかったけど。


 ケイトがショートの灰髪で碧眼。

 レイは茶髪をボブカットにしており金色の瞳。

 スィーは腰まで届きそうなほど長い黒髪に黒目。


 ケイトとレイにはケモ耳と尻尾まであるしな。

 とはいえ3人が人の姿をしていることに違和感がないと言えばウソになる。

 今や170センチ超えで転生前の俺など見下ろすような身長だからなぁ。

 生前は小さくてモフモフだったのに転生後は目線がほぼ同じというのは新鮮味がある。


 それでも懐かしいと思えるあたり不思議なものである。

 創天神様や星界神様にそのことを言ったら──


「不思議でも何でもないじゃろう」


「そうそう、外見が違ったくらいで互いに分からないっていうなら彼女たちを転生させたりしないわよ」


 なんて当然のことだと言わんばかりの返事をされたさ。

 俺は今ひとつ理解しきれずに呆気にとられていた。


「彼女らは死んだ後もユートくんの側についておったんじゃよ」


「え?」


 意味が分からないが3人の方を見るとドヤ顔をしている。

 実感はないが、そういうことらしい。


「もうっ、鈍いわねえ」


 星界神様は焦れったそうに言ってくるがピンとこないんだからしょうがない。


「守護霊って言えば分かる?」


「っ!」


 声に出して返事はできなかったが、どうにか頷くことだけはできた。

 死ぬ前はあまりオカルトな話を信じる方ではなかったんだが目の前に神様はいるし、俺も生まれ変わったからなぁ。

 その上、異世界まで来てしまったんだから否定する方がどうかしているだろう。


「ずっとユートくんのことをどうにか守っていたけど、最後の最後でダメだったって悔いていたのよね」


「あー、あの元上司ですか」


 思い当たる節はそれしかない。

 家の周りにガソリンまかれて焼死体になってしまった一件だ。


「そうよ」


 別に3人の責任じゃないから悔いることはないと思うんだが。

 あれは体が不自由だったにも関わらず健常者だった頃の感覚で生活をしていた俺に責任がある。

 警備会社と契約して見回りをしてもらっていれば、自宅周りにガソリンがまかれるのを阻止できたかもしれないのだし。


「まれに見る邪念と怨念の塊のような人間だったから彼女たちじゃ阻止しきれなかったんだけど」


 そう考えると、仕事をしていた頃のパワハラを止めきれなかったのも頷ける。

 3人はとにかく被害軽減とか事後の賠償の方で頑張っていたんだろう。

 階段から突き落とされた時も発見が遅れていたら死んでいたと聞いている。

 慰謝料だって、いくら半身不随になったからとはいえ通常では考えられない額になったしな。


「それでも俺を守り切れなかったと自分たちのせいにしてしまった訳ですか」


「そうなのよぉ。ユートくんが死んで悔いを募らせることになっちゃったの」


 困り果てた顔で嘆息する星界神様。


「せっかく守護霊になれたのに現世で惑うことになりかねなかったのよ」


 それは大事ではないだろうか。


「バカ者!」


 ゴスッと鈍い音がした。


「痛ぁ~い」


 星界神様の頭に創天神様のゲンコツが落とされていた。


「お主が天罰の処理をミスらねば、この者たちも悔いることにはならなかったのじゃ!」


 説教とともに雷も落ちた。


「あのー、説教するならよそでお願いしまーす」


 そう言わなきゃ延々と続けていただろうな。

 え? 薄情だって?

 知らんがな。


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― 新着の感想 ―
[一言] まだ読み始めですがぼちぼち読んで 行きたい作品ですね。楽しみです。
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