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16 効果の確認には不向きだったかもしれない

「そんなに考え込まなきゃならないことなんてないでしょ」


 考え事をしていたせいで星界神様からのお小言をもらってしまった。


「いくらゴーレムが弱いからって攻撃はしてくるんだから油断しちゃダメッ」


 小さい子を叱る時のような口ぶりで完全に子供扱いである。

 とはいえ相手は神様だし下手なことは言うもんじゃない。

 見た目からは親子ほどの年齢差を感じられなくても実際は……

 女性に年齢の話が厳禁なのは言うまでもない。


「申し訳ございません」


「わかればいいのよ」


 俺が謝ったことで星界神様も矛を収めてくれるようだ。


「それでMPはちゃんと確認できたのかしら?」


「それは、まあ……」


「何よ、煮え切らないわね。MPの消費を確認するくらいのことで」


 そんなこと言われてもなぁ。

 変に言い訳すると星界神様の当たりがもっとキツくなりそうなのが悩ましいところである。


「………………」


 故に俺は何も答えられずにいた。

 と、そのタイミングで──


「おおっ、大事なことを忘れておったわい」


 今度は創天神様が声をかけてきた。


「何です?」


「この空間内では魔法の効果が増幅されるんじゃよ」


「はぁ?」


 あまりに予想外で俺は間抜け面をさらしてしまっている。

 だが、言われてみれば風魔法の切れ味が良かったのも持続時間の長さにも納得できた。

 ホイールスライサーの馬鹿げた大きさについてもね。


「そういえば、そうでしたねえ」


 失念していましたと言わんばかりに創天神様の言葉に同意する星界神様。

 そういうことは前もって言って欲しかったんですがねという言葉は喉まで出かかって止めた。


「アハハ、ドンマイドンマイ」


 星界神様が爽やかな笑顔でサムズアップしながら誤魔化そうとしてきたのでジト目になるのは止められなかったがね。


「そんな状態で魔法を使っても参考にならないと思うのですが?」


「魔法の効果については参考にならんのは確かじゃ」


 創天神様もあっさり認めるんだな。


「とはいえ全くの無駄ではないんじゃよ」


「えっ?」


「MPの増減を確認するには充分使えるからのう」


「それもこの空間の効果で差があるのではないですか?」


「いやいや、そんなことにはなっておらんぞ」


 言いながら朗らかに笑う創天神様。


「この空間内で増幅されるのは発動した魔法の効果においてのみじゃ」


「ということは……」


 レベル1の俺は本来はMP不足で使えないはずの大魔法を使える。


「──ということでしょうか?」


「そうじゃな」


 うんうんと頷きながら創天神様が肯定の言葉を口にした。


「それだけではないぞ」


「もしかしてMPの回復速度がやたら高速なのもですか」


「うむ」


 創天神様は鷹揚に頷いた。


「体が龍の素材でできておるからのう」


「ですよねー」


 MPが100万分の1しか減らなかったのは、確実にそれだが原因だろう。

 その程度の回復ならば瞬時に終わる。

 まあ、普通は初級の魔法とはいえ魔力消費量がその程度で済むなどあり得ない話ではあるが。


 改めてチートだと思う。

 しかも余分にMPをつぎ込んでいなければホイールスライサーで消費される魔力量は4ポイントだ。

 その場合は桁がもうひとつ下ということになっていたのは言うまでもない。

 1人で万の軍勢を殲滅させてしまうことも不可能ではない訳だ。

 問題は正確な威力が把握できなければ加減もできない訳で。


「地上に降りてみるかの?」


 俺の考えを見透かしたように創天神様が聞いてきた。


「そうしたいところですが……」


「ホッホッホ、慎重じゃな」


「下手に加減を間違えて周辺に被害を出したらシャレになりませんから」


 威力が低い分には大きな問題にはならない。

 怖いのは地形を変えてしまったとか山火事を起こして生態系を壊したなんてことになった場合だ。

 現地の人間に被害が出なかったとしても取り消しようのない証拠が残ってしまうんじゃ悪名が立つのは避けられないだろう。


 それだけならまだしも変な連中に目を付けられるのは勘弁願いたいところだ。

 利用しようとしたり目の敵にして排除しようとしてきたり。

 会社勤めをしていた頃のパワハラ上司みたいなものだな。

 日本だと証拠を集めて弁護士に委任することで対処できたけど、こっちの世界じゃそうもいかないだろう。


 何にせよ悪目立ちはしたくないものだ。

 その旨を創天神様に告げると、ふむふむと頷いてくれた。


「とりあえず人気のない場所で練習すればええ」


「あ」


 そういう発想はなかった。

 同時に子供の頃のことを思い出した。

 家庭の事情により何年か田舎に住む祖父母の元で育てられたんだよな。

 山奥でそこそこ過疎っていたから人気のない場所なんていくらでもあった。

 大人に見つかれば大目玉を食らうような無茶な遊びをしたのも今となっては良い思い出である。


「ついでに生身を持つ魔物と戦っておいた方が良いじゃろうな」


「どういうことでしょう?」


「いくら万の数のゴーレムを全滅させたとはいえ──」


 その言葉で気付かされたが、いつの間にか創天神様の言うような結果になっていた。

 仕掛けた罠に勝手にかかるような状態だったせいだろう。

 あまり戦ったという実感はない。

 とりあえずホイールスライサーはキャンセルしておいた。


「魔物が相手とはいえ殺傷するというのはゲームと現実では大きな隔たりがあるからのう」


「あー、そういうことですか」


 創天神様の言いたいことは分かったが、俺にとってはそんなに重い話ではない。


「たぶん大丈夫ですよ。子供の頃に色々と経験していますので」


 鶏を絞めたり罠にかかった鹿やイノシシを仕留めて解体したこともある。

 田舎暮らしは伊達ではないのだ。


「ふむ、そのようじゃな」


「それでも実際に戦っておくべきだと思うわよ」


 星界神様が話に割り込んできた。


「加減の仕方とか分からないでしょ」


 それも一理あると思ったので俺は頷いた。


「そうじゃな。経験値はゴーレムを相手にしていた時のようには稼げんじゃろうがのう」


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