表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

127/130

127 御指名とか遠慮したいんですが

 どうしてこうなった?

 本日3回目である。厄日か?

 倉庫から応接室へと移動することになったので俺はおさらばできると思ったのに。


「すまないが君の助けが必要だ」


 とか辺境伯に言われてしまいましたよ?

 どんな助けが必要なんだか。

 変なゴタゴタに巻き込まれませんようにと内心で祈るほかない。


 応接室で対面に座りお茶が出されたところで。


「率直に問おう」


 辺境伯がさっそく話を切り出してきた。

 魔道具関連か魔法について知りたいことでもあるのだろうか。


「君は治癒魔法を使えるか」


「ええ、まあ。使えるか使えないかで言えば使えますね」


 龍の知識と魔法の能力を受け継いでいるからとは言えないので自信満々に答えることはできない。


「死病の進行を遅らせることはできるか」


 癒やすのではなく進行を遅らせる?


「質問の意味が理解しかねるのですが。治療できるかではないのですか」


「先に依頼した神官によれば治療は無理だと言われた」


「その神官は進行を遅らせられないのですか」


「何度も魔法を使ってもらっているが、そう何度もできん。魔力を大きく消耗するのでな」


 そこまで必死になるところからすると身内なんだろう。

 それも治る見込みがあると考えられる。


「魔法以外に治癒する手立てがあるのですか」


「ある。エリクサーだ」


「なるほど」


 別名、万能薬。

 万病を癒やし死者すら蘇らせると言われているポーションである。

 ただ、後者については真偽が入り交じると言わざるを得ない。

 死んだ直後であれば蘇生も可能だが、死亡から時間が経過してしまうと蘇生率も下がっていく。

 言うほど万能ではないということだ。

 弱点もあるしな。


 とはいえ、病気の人間に対してはこれほど有効な手段もあるまい。

 入手は至難を極めると言われるほど希少であるが。


「伝手があるのですね」


「いや、ない」


 ガクッときたが、どうにか内心だけにとどめておく。


「方々に声をかけて探している最中だ」


「それで病の進行を遅らせる、ですか」


「うむ」


 短い返答をした辺境伯の表情は苦悩に彩られている。

 そんなの見せられちゃ、できませんとは言えないよなぁ。


「患者はどちらに」


 誰かとは問わない。

 下手に知るといざこざに巻き込まれることも無いとは言えないからね。


「引き受けてくれるか」


「成し遂げるとは断言できませんが」


「構わぬ。もとよりわずかな可能性にかけるしかない状況なのだ」


 藁にもすがるとは、こういうことを言うのだろう。

 俺の隣に座るグロリアはおろか辺境伯の嫡子ショーンでさえ口を挟めずにいたほどだ。

 そんな訳で再び辺境伯の屋敷へと向かうことになるのであった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 通された部屋で寝かされているのは幼い少女であった。

 日本だと小学校の中学年くらいだろうか。

 その寝顔には子供には似つかわしくない苦悶が浮かんでいる。


「どなたですか」


 少女の傍らで座っていた中年の男が立ち上がり誰何してきた。

 服装からすると辺境伯が言っていた神官のようだ。


「治癒の魔法が使える者だ」


 辺境伯が応じると神官は驚きの表情を見せた後にぎこちない笑顔を見せた。


「そ、それは重畳にございます」


「疲れているところ済まないが例の魔法をこの者に教えてくれないか」


 辺境伯としては一刻も早くという思いがあるのだろう。

 だが、しかし……


「申し訳ありません。さきほど魔法を使ったばかりなのです」


「そうか。では、ゆっくり休んでくれ」


「はい」


 神官は一礼して部屋を立ち去ろうとした。


「待て」


 廊下に出る寸前で俺は神官を引き止めた。


「何でしょう」


「本当に治癒の魔法が使えるのか」


「何を仰るのです」


 表情を無くした神官が抗議してくる。


「それで変装をしているつもりか」


「失礼な。私が偽物だとでも言いたいのですか」


「ああ。見てくれだけ整えても薬品の匂いをさせてちゃ台無しだ」


「薬品? なんのことです」


 とぼけるつもりらしい。

 普通の人間の嗅覚では無臭ということになるだろうから俺の言葉をブラフだと判断したのかもしれないが。


「人を昏睡させる毒を持っているじゃないか」


 自信満々に言ってやると男のポーカーフェイスがわずかにゆがんだ。

 だが、それも一瞬のこと。すぐに元の無表情に戻った。


「辺境伯様がお連れになった方とはいえ看過できませんね。謝罪を要求します」


「俺はアンタの身体検査を要求するよ」


 そう言うと、男は脱兎のごとく駆け出した。


「アホだな」


 二重の意味で。

 逃げずに大人しく身体検査を受けていれば何者かにはめられたと言い逃れすることも不可能ではなかったのに。

 逃亡を図れば自白したも同然。

 ああ、暗器を持っているから言い逃れるのは難しいか。


 どのみちアホであることに変わりはない。

 俺たちから逃げられると思っている時点でな。


「ゼロフリクション」


 使ったのは火属性の魔法で対象の摩擦力を極端に下げる代物だ。

 魔力の消費量の都合で摩擦はゼロにする訳ではないが、ネーミングについては魔法の効果から連想したノリである。

 ちなみに魔力しだいで効果範囲も変えられるのだが、今回は男の靴の裏にかけた。

 その結果──


「うわぁっ!」


 男はものの見事にひっくり返った。


 ゴン!


 廊下に後頭部を打ち付けパタリと倒れ動かなくなった。

 心音は聞こえるので気絶しただけだろう。

 取り押さえる手間は省けた。


「引んむいてふん縛っておいてくれ」


 3人娘がコクリと頷いて、さっそく行動に移る。

 まずスィーが二刀流の小太刀を振るい魔法で風を起こす。

 切り刻まれた神官服が吹き飛ばされると男が何者なのかが明らかとなるものが白日の下にさらされた。


「これは……」


 ショーンが困惑した顔でそれを凝視していた。

 両腕の掌側に扁平な筒状のものが装着されている。

 腕を伸ばせば筒の中からナイフが飛び出す仕組みになっているようだ。


「御存じありませんか」


「君はアレが何なのか知っているのか」


「ええ、暗器です。隠し持って使う暗殺用の武器ですよ」


「武器だって? とてもそんな風には見えないが」


「あの筒の中を見ていないからですよ。腕を伸ばせば中からナイフが飛び出します」


 拘束の途中であったがレイが男の腕をピンと伸ばさせた。

 すると筒から勢いよくナイフが飛び出す。


「なんとっ!?」 


 驚きをあらわにするショーンに対し辺境伯はわずかに表情を渋くさせているだけだ。

 男が逃亡を図った前後で正体にはすでに気付いていたのだろう。

 隠し武器を目の当たりにしても動揺はしないということか。

 ただ、殺気が漏れ出しているところを見ると心中では腸が煮えくり返っているのは間違いあるまい。


読んでくれてありがとう。

評価とブックマークもお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ