124 登録できればいいんだけど
あれからグロリアのホーンド商会を先導して旅を続けること数日。
特に大きな事件もなく辺境伯のいる大きな街に到着。
冒険者ギルドではグロリアに推薦された結果、見習いと新人の枠をスキップして2級で登録となった。
それすらグロリアの婆さんには不服だったようで。
「冗談じゃないよ! コイツらは最低でも1級の能力があるんだっ」
噛みつかんばかりの勢いで抗議していたが登録後の実績がないという理由で却下された。
ちなみに1級の上には特級がある。
いや、特級しかないと言うべきかもな。
「いいんじゃないか。討伐の依頼に制限がなくなるなら等級なんて何でもいい」
ただし2級以上が依頼を受けるのは自己責任なので判断を誤ると酷い目にあうのは言うまでもない。
「信用度がまるで違うんだよ!」
「だったら尚更ギルドの判断が正しいな。俺たちは何の実績もない」
「あるだろうっ」
「ボルトパイソンのことを言っているなら意味はないぞ。ギルド側に認識されてないだろ」
被害が出るまで待てという訳ではないが、素材だけを提出しても討伐したとは認められない。
雑魚クラスなら問題視されなくても危険な魔物であれば報酬などは違ってくるからな。
実績の面でも金の力で解決したのではないかと疑われかねない。
「試験でも証明したじゃないかっ」
確かに試験官を軽くあしらいはした。
特級目前と言われていたものの怪我で引退したという職員だったが、事前に聞かされたほど強くもなかったしな。
膝が万全でないならプライドも傷つかないだろう。
そう思っていたのだが試験が終わると借りてきた猫のようになってしまった。
どうも現役の1級冒険者でも勝てる者はいなかったようだ。
この街の冒険者ってレベル低すぎないかと思ったのは内緒である。
まあ、2級から昇格したばかりの冒険者しかいないということも考えられるか。
あるいは時間をかけてコツコツと積み上げた実績で1級になったため戦闘力はさほどでもないとか。
個人のレベルを測定する方法がないのが一因かもしれない。
「試験なんて目安でしかないだろう。魔物を討伐してこその冒険者なんだから」
「それにしたって魔法が使えるアンタたちが2級とかおかしいっ!」
それも試験はあったのでギルド側も俺たちが魔法を使えるのは確認済みだ。
全員が魔法を使えることに酷く驚かれたことに驚かされたが。
薄い木製の的に攻撃魔法を当てるという子供だましみたいな試験だったのにな。
別に魔法的な防御が施されているという訳でもなかったし。
「あの試験は魔法が使えるかを判定するだけのもので戦闘力を見るものじゃないだろ」
「アンタたちは悔しくないのかいっ」
「別に」
皆の方を見たが肩をすくめたり首をかしげたりアクビをしたり。
グロリアの言葉に首肯する者は誰もいなかった。
「あのぉ……」
カウンターの向こう側にいる女性ギルド職員が申し訳なさそうに声をかけてきた。
「なんだいっ」
目をつり上げたグロリアが睨みをきかせるが女子職員は怯む様子もない。
普段から荒っぽい者も少なくないであろう冒険者たちの相手をしているだけのことはある。
「そろそろ前を開けてもらえませんか」
これは向こうの方が正しいと言わざるを得ない。
受付の窓口をひとつ潰している格好になっていたからね。
「窓口はここだけじゃ──」
反論しかけたグロリアの肩をつかむ。
「やめとけ。あんまり騒ぐと俺たちが利用しづらくなる」
幸いにも受付周りは閑散としていたので他の冒険者に目をつけられることはなさそうだ。
ただし、これ以上はギルド側の印象が悪くなりかねない。
「ぐぬぬ」
やり込められた格好のグロリアは反論の余地がなくうなっている。
が、態度も表情も大いに不服そうなままなので諦めるつもりはなさそうだ。
迷惑になることを理解していながらこれとは往生際が悪いというか何というか。
そんな訳で俺たちは多少強引にでも冒険者ギルドを退出することにした。
「お騒がせしましたー」
言いながらグロリアの背中を押す。
「ちょっと、何すんのさ」
「終わり終わり。長居は無用ってね」
「まだ話は終わっちゃいないよっ。ギルド長を呼んどくれ!」
「はいはい、呼ばなくていいですよ-」
受付の職員に向かって言うと苦笑を返された。
向こうにこちらの気苦労がわかってもらえるなら次に冒険者ギルドを訪れたとしても邪険な扱いはされまい。
とにかく屋外に出た。
するとグロリアはくるっと踵を返してスタスタと歩き始める。
「次、行くよ」
「ずいぶんと切り替えが早いじゃないか」
「あれくらい騒いどきゃ職員の間で通達が出るだろうよ」
「おい、面倒事は勘弁してくれよ」
「目立っときゃ昇進も早いんだ」
「何だ、それ」
思わずズッコケそうになったさ。
「あれだけやっときゃ職員に顔を覚えられただろう」
「嫌でもね」
「それでいいんだ」
嫌み半分の返事も何処吹く風のグロリアである。
「実績を積むのに都合のいい依頼を先に回してもらえるようになるんだよ」
言いたいことはわからなくもない。
強く印象に残れば人選が必要な依頼の場合に候補者として真っ先に選ばれやすくなるだろうからね。
ただし、それは好印象の場合だ。
あんな騒ぎ方をして良くない印象を抱かれていたら逆効果と言わざるを得ない。
どうなることやら。
それはともかく次は商人ギルドである。
商人であるグロリアにとってはホームと言える場所なので冒険者ギルドの時のように揉めたりはしないだろう。
そう思っていたのだけど予想は裏切られましたよ。
「これだけの商品を提供できるのに3級はないだろう!」
こちらでも一悶着だ。
まあ、個室で担当職員と面談をする形だったので大勢の耳目を集めずにはすんだが。
「実績がないと無理ですよ。今回のもカウントはしますが足りません」
応対した職員はシャットアウトできないのか困り顔である。
「やめとけって」
グロリアの隣に座る俺が止めようとすると職員がギョッとした目を俺に向けてくる。
どうやらグロリアの商人ギルド内での力は俺が思っていた以上なようだ。
「バカ言うんじゃないよ。3級だと店を構えられないんだよっ」
「取引できるならそれでいいよ」
4級は見習いなので仕入れや販売ができないのだ。
別の言い方をするなら丁稚といったところか。
「ダメだ! 舐められる」
知らんがな。
大手を振って商売ができるんだから等級なんてどうでもいいじゃないか。
等級だけで判断してこちらを軽んじてくるような相手とは取引しなきゃいいんだし。
「勘違いしないでくれよな」
「なにぃ?」
「俺はこの街を根城にするつもりはないし冒険者が本業なんだからさ」
商人ギルドで登録するのはストラトスフィアで待つエルフ組の窓口になるためである。
常設の店舗で販売を継続するほど商品の品揃えを豊富に提供できる訳ではないので3級で充分なのだ。
そのあたりをグロリアに説明していなかったのはミスだったかもしれない。
「結局、何だったんだよ」
商人ギルドもどうにかグロリアの暴走をクリアし、外に出てから聞いてみた。
冒険者ギルドで登録する時から作為的なものを感じたからね。
「箔づけさ」
「何のためにそんなことするんだよ?」
「それは、これから向かう先でハッタリをかますのに必要になるからに決まってるさね」
そんな風に言われると、そこはかとなく嫌な予感がするんですが?
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