123 何食わぬ顔で翌朝
結局、土下座をやめてもらうのにかなりの時間を要した。
お陰で装甲車に戻ってくるのが遅くなって寝不足なんだよね。
リーアンたちが。
俺やケイトたちは一晩くらい完徹したとしても眠気を感じたりはしないので申し訳ないところだ。
「すまない」
俺が謝るとリーアンが呆れたように嘆息した。
「どうして謝るんだ?」
「そうですよ」
リーファンも兄と同意見らしい。
いや、この兄妹だけではなかった。
グーガーもリグロフも当然のように頷いている。
「俺たちは自分の意思で一緒に行くことにしたんだからな」
「その通り」
「そうは言ってもなぁ」
付き合わせてしまった事実は残るのだ。
「俺が行動を呼びかけた訳だし」
「だから、それに同意したのは俺たちだろう」
「兄さんの言う通りですよ、ユートさん」
「言っただろう。俺たちの意思だって」
「何度も言わせるな」
4対1では分が悪い。
その分、負い目も4倍になってしまう気がするんですがね。
「寝不足は体に良くないんだぞ」
「それはお互い様だ」
「そうですよ」
「一晩くらい大したことないって」
「若いからな」
そんなことを言っているが、4人とも寝不足特有のぼんやりした表情になっている。
ただ、それを指摘したところで素直に認めたりはしないだろう。
「まったく……」
本当に頑固で困るよという言葉はどうにか飲み込んで俺は小さく溜め息をつく。
「せめて移動中は仮眠を取っておけよ」
装甲車の運転はメイドロイドが行うので交代する必要はないし、ゆっくりできるだろう。
「ああ、そうさせてもらう」
「ユートさんたちもですよ」
「寝過ぎるなよ」
「夜に眠れなくなるかもな」
時差ボケすることは充分に考えられる。
ただ、寝ぼけた顔をグロリア婆さんたちに見せるのも考え物だ。
そんな訳で治癒魔法を軽く使っておいた。
これでリーアンたちも眠くて仕方がない状態は脱することができるだろう。
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年寄りは朝が早い。
夜が明けて間もないような時間だというのに誰よりもシャキッとしていた。
今すぐ出発となっても即応できそうだ。
まあ、田舎の爺ちゃん婆ちゃんもそうだったから驚くようなことでもないんだけど。
とはいえ周囲の者たちにとっては有り難くなかったりする。
護衛たちの中には昨日の疲労が抜け切れていないのかボンヤリした表情の者もいたし。
他の護衛だって平気って訳じゃない。
「おはよう。よく眠れたかい」
グロリアは意にも介していないようだけど。
「お陰様で」
「妙なことを言い出すね」
いぶかしげな表情を見せるグロリア。
「あたしゃ何もしちゃいないよ」
「夜の張り番をしなくていいと言ったのはグロリアだろう」
お陰でクズ三男坊への対応に専念できた。
「アンタたちには借りがあるからね」
そう言いながら肩をすくめるグロリア。
「こんなことでチャラにできるとは思えないが、これくらいはさせておくれ」
そう言われるほどのことをした覚えはないので苦笑することしかできない。
だからといって掘り下げてしまうと押し問答になるだけだろう。
「ところで話は変わるけど今日の予定はどうなってる?」
俺は強引に話を切り替えてスルーした。
「まずは腹ごしらえだね」
朝食も食べずに動けばガス欠を起こして途中でダウンしてもおかしくないのだから当然だな。
「片付けを済ませたら出発だよ」
忙しないことだ。
昼まで休憩しても良さそうなものなのに。
「昨日の疲労が抜けきっていない者もいるだろうに」
ついツッコミを入れてしまっていた。
「これ以上は遅れる訳にはいかないんだよ」
承知の上で無理をするという訳だ。
遅れると赤字になるのは容易に想像がつく。
「そうか」
ならば納得するしかないだろう。
「だったら俺たちが先導しよう」
俺の提案にグロリアはまたしても怪訝な顔をする。
そうすることに何の意味があるのかとでも言いたそうだ。
意味はある。
馬車移動の負担が減るよう装甲車で地ならししながら走行するつもりだからだ。
こんな場所じゃ地面が波打っているのが当たり前の酷道状態だもんな。
板バネすらない単純な構造の馬車は乗り心地が最悪だから整地されているか否かで疲労度も大幅に変わってくる。
加えて移動スピードが上げられるから目的地までの移動時間が減って更に負担が減る。
あとはその目論見が取らぬ狸の皮算用でないことを願うばかりだ。
「好きにするといいさ」
俺の意図を見抜いた訳ではないだろうけど、グロリアはフンと鼻を鳴らして言った。
何かするつもりだというくらいは想像がついたのかもね。
「そのつもりで予定を聞いたんだろう?」
「まあね」
間違いなさそうだ。
これくらい勘が良くないと大店の商人は務まらないんだと思う。
「なら休憩場所と今日の目的地の説明をしておくよ」
「助かる」
余計なことを聞かないというのは好感が持てる。
今後も良い商売がしたいものだ。
一通り説明を受けた後、朝食の準備を始めた。
昨日の晩ご飯で余分に下ごしらえしておいたものを使ってササッと作る。
ただ、なんちゃって酢豚が続くのでは芸がない。
エビチリならぬ豚チリにするか。
それともカニ玉ならぬ豚玉にするか。
豚玉というとお好み焼きになってしまうな。
それ以前に使う肉は豚じゃなくてボルトパイソンの肉だけど。
いずれにせよ朝食にするには微妙なメニューだな。
ならば無難な朝食になるようオムレツにするか。
読んでくれてありがとう。




