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120 天上の狙撃手

 ケイトとスィーがそれぞれシールドトンファーと二刀流の小太刀を装備した。


「近づくのはちょっと待とうか」


 さあ、行くぞとなる前に2人を止める。


「魔法で周りの方から潰していってほしいんだ」


「どういうこと?」


 スィーが疑問を呈してきた。


「アイツら親玉が狙われると身を挺してでも守ろうとするから狙いにくくなるんだよ」


「それで?」


 この返事だけでは納得がいかないらしく先を促してくる。


「準備ができたから一気に方を付ける」


「っ!」


 ハッとした表情を見せたスィーが黙り込んでしまった。

 ゴーグルからログを読み取っているに違いない。

 一方でケイトはというと──


「なるほどぉ」


 納得の言葉を呟きながらウンウンと頷いていた。


「あまり攻める気が感じられなかったのは、この準備のためだったのですね」


「そういうこと」


 どうやら何かあると踏んで先にゴーグルで情報をチェックしていたみたいだな。

 いつもならスィーがそういう風に立ち回るところなんだけど。


「理解した」


 そのスィーがログを見て俺の意図を察してくれたようだ。


「意識の外からの攻撃になるから私たちは気をそらすのが役割」


「うん、スカッとはしないと思うけど」


「何処かの脳筋猫とは違う。気にしない」


「ハハハ」


「メイドにも経験を積ませる良い作戦」


「それくらいはしておかないと何が起きるか分からんからなぁ」


「備えあれば憂いなし」


「どうかな。備えは常に足りてないくらいに思っておかないとね」


「用心に越したことはない」


 スィーがしみじみした様子で頷いた。


「そんなことより決着をつけた方がいいのではないですか」


「おっと、いけない」


 話し込んでしまうところだった。


「それじゃあ、作戦開始だ」


「心得ました」


「了解」


 2人は返事をすると高度をあまり落とさずウナギ魚人を挟み込むように位置取りをする。

 アシッドスライムの酸弾を警戒しつつ少しでも注意を引きつけようというのだろう。


「はあっ!」


「せいっ!」


 2人が魔法で攻撃を始めた。

 声を発しているのも敵の意識を自分たちに向けさせるためか。

 細かな指示を出さなくても最善手になるように動いてくれるのは実に有り難い。


 しかも使っている魔法は風属性のソニックブーメラン。

 火球と違って目では追えないし軌道が弧を描くので何処から飛んで来るのか読みづらい。

 ボルトパイソンにはダメージを与えにくいため相性の良くない魔法ではあるが、衝撃はあるので気をそらすには充分だ。


「さぁて、じゃあ俺は結界からだ」


 ウナギ魚人を座標の中心にして結界を展開する。

 ただし、構築される結界は地面に対してだ。

 クレーターだらけにしたくないので、これからの攻撃には必須と言える。

 結界は程なくして展開完了。


「セット」


 ゴーグルに上空からの映像をターゲットスコープ越し風味で表示させた。

 映像内で不規則に揺れるふたつの小さなサークルが本体を捉える。

 さらにサークルをズレなく合わせれば照準完了なんだが簡単ではない。

 衛星軌道上からの超長距離射撃になるからね。


 もちろん、俺が直に射撃する訳じゃない。

 宇宙空間に待機させたマニピュレートアーマーことMAに射撃させるのだ。

 トリガーボタンはMAに登場しているメイドロイドが押す。

 照準情報をデータとして送信しメイドが寸分の互いなく機体を操作する。


「ロックオン」


 照準は合わせたが、初っ端からド真ん中に当たるとは考えていない。


「撃てっ」


 俺の指示したタイミングでスナイパーライフルをMAに撃たせた。

 待つことしばし。


 スドオッ!


 ライフル弾がウナギ魚人がが絶えず産み落とし続けている魔物に着弾。

 奴の周囲は過密状態なので当たらない方がおかしいんだけど。

 衛星軌道上からの狙撃は魔物を周囲のお仲間もろとも木っ端微塵にした。

 その威力たるや凄まじい鋳物があったが結界でちゃんと止まっている。

 一方で奴にはかすりもしなかったが初弾はこんなものだ。


「次弾装てん。誤差修正……」


 照準サークルが少し大きくなって照準が合わせやすくなった。

 それだけデータの精度が上がった訳だ。

 照準を合わせるまでの時間も初弾より短くなっている。


「次、撃てっ」


 2発目が発射された直後に今度も外したと直感する。


 スドオッ!


 至近に着弾。


「ギュオオオオオォォォォォォォォ────────────────ンッ!」


 ウナギ魚人の悲鳴がこだまする。

 直撃はしなかったものの原形をとどめていない奴の右腕だった部位が消し飛んだ。

 間近でガードしていた魔物たちも一緒に消えているのは言うまでもない。


 更に照準サークルが大きくなって照準精度が上がっていく。

 3発目は確実に奴の中心をぶち抜けるはず。

 ダメージを受けたのに逃げようとしないから狙いやすい標的状態だもんね。

 眷属を際限なく生み出し続ける反動なんだろう。


「切り札を出すのが少し早かったようだな」


 だが、今まで対応し続けてきたウナギ魚人が黙ってやられるとも思えない。

 この状況に適したモードに変異することは充分考えられる。

 ならば俺も勝負に出るまで。

 アニメや漫画なら「こういうこともあるだろうと思って」とか言い出すキャラの出番だ。

 今度はウナギ魚人とその眷属たちに悲鳴を上げる間も与えはしない。


「全機、撃てぇっ!」


 衛星軌道上で待機させている複数のMAで一斉に射撃する。

 狙撃手たるMAは1機じゃないのですよ。


 そうして弾丸の雨が天上から降り注いだ。


読んでくれてありがとう。

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