119 オプションは自白する
棒手裏剣の大量投入でウナギ魚人を蜂の巣にすることもできそうにない。
「ギュワアアアアアァァァァァァァァ────────────────ッ!」
ひときわ甲高く咆哮した奴が体表面をボコボコと膨張させ始めた。
「おい、まだ巨大化するつもりか!?」
死角が増えるだけじゃないのかと内心でツッコミを入れる。
念のために飛び退いて様子を見た。
が、しかし……
「ん?」
何か様子がおかしい。
奴の体表面が泡立つようにボコボコと膨らんでいく。
巨大化ではない?
「まさか自爆するつもり!?」
ケイトが驚きの声を発するが。
「手間を掛けて受肉したアレがする訳ない」
即刻、スィーに否定されていた。
その間もウナギ魚人は体をいびつな形で膨れ上がらせ、もはやウナギの面影は体色だけだ。
見ようによってはブドウっぽく見えなくもない。
ウナギの蒲焼きの味がするブドウとか嫌だけどさ。
パンッ!
不意に膨らみのひとつが破裂し、破裂痕からヘドロのような濁った体液と共に何かがズルリボトリと地面へ落下。
「うげっ、気持ち悪っ!」
グロさ満点なんてもんじゃないが、単発で終わることではなかった。
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパンッ!
次々に破裂し奴の周囲に大小様々な塊を無数に落としていった。
「うへえ……」
ウナギ魚人の姿はもはや原形をとどめておらずクリーチャーとしか言いようがない。
塊の方も濁った奴の体液まみれで正体を見極めるのが困難な有様。
だが、それらが魔物であることだけは容易に想像がついた。
奴とは別の気配があったからだ。
殺気と言った方がより正確だろう。
「悠長なことを考えている暇はなさそうだな」
ウナギ魚人は再び体をいびつに膨らませ始めている。
しかも、先程より明らかに速くなっている。
どうやら触手ではらちが明かないと攻撃方法を変えてきたようだ。
「オプションによる物量作戦か」
何処かのゴツくて顔が傷だらけのオッサンが「戦いは数だよ、兄貴」と言っていたな。
いつの世もどの世界でもあの言葉は真理なんだろう。
このまま放置すれば何処まで増えるのか見当もつかない。
「そっちの方針が分かった以上は対応しないとな」
触手がないなら棒手裏剣も容易に届くだろう。
「バッチイのは元から絶たないとっ!」
投げ放った棒手裏剣が触手に阻まれることなく奴に届くと思った瞬間。
バチバチバチッ!
奴の正面で強力な放電現象が生じて棒手裏剣の軌道をそらした。
「おいおい、そう来るかよ」
オプションが数体で一斉に放電し威力を増しているらしい。
しかも放電することにより防御を強化するのは本体と同様だ。
「ボルトパイソンか」
サイズこそ昼間に見たものよりずっと小さくパワーがあるようには感じられないが、特殊能力の方は遜色がないように見える。
「これ全部そうかよ」
ぼやいた瞬間にオプションの幾つかから何か塊が飛んで来た。
「おっと」
もちろん回避する。
感電して痺れるのは嫌だったので余裕を持ってね。
その判断は正解だったようだ。
背後から躱した塊の数の分だけジュワッと音がした。
地面や壁面に当たって生じたその音を聞けば何が起きたのかは容易に分かる。
煙が生じたり臭いがしたりもしているので考えるまでもなかろう。
「アシッドスライムもいるのかよ」
クズ三男坊が嫌がらせに使った魔物たちが両方ともそろっている訳だ。
自分が犯人ですと自白しているようなものだが奴の意識が消滅した今となっては何の意味もない。
辺境伯の方でも病死扱いにするだろうし。
そして体の成れの果ても今夜中に消える運命だ。
まずは宙に浮かび上がる。
酸の攻撃を連続で受ければ服がボロボロになりかねないのでね。
「ケイト、スィー、飛んだ方がいいぞ」
「はい」
「了解」
2人も上昇してきたのだが、その2人を目掛けて塊が勢いよく飛んだ。
「気をつけろ!」
注意を発するまでもなく躱したかに思えたが……
バチッ!
雷撃が追いすがる。
塊はアシッドスライムの酸弾ではなく小さいボルトパイソンそのものだった。
突進力は大きいものと遜色がなくコンパクトな体躯のお陰で俊敏さはずっと上。
「きゃっ」
「ちょっと」
2人は悲鳴を発しながらも感電はしなかったようだ。
「低空だと油断できないな」
「まったくです」
「でも、近づかないと攻撃は当たらない」
「意味不明? 魔法で完封」
「……」
ケイトの反論にスィーは火球で攻撃することで返事の代わりとした。
その火球はアシッドスライムの酸弾によって迎撃されウナギ魚人に届くことはなかった。
それを見たケイトは顔をしかめる。
「これならどう?」
無数の火球を一斉に放つケイト。
だが、それも結果は同じだった。
アシッドスライムは1体ではないのだ。
火球を超える数の酸弾で撃ち落とされる。
余った酸弾は連中に降り注ぐがオプションたちはもちろん、ウナギ魚人も平然としていた。
奴のヘドロのような体液が中和しているようだ。
「面倒なことをしてくれるわね」
まったくだ。
読んでくれてありがとう。




