117 武器の見本市ではありません?
ウナギ魚人の正体が分かったところで戦いに影響するものではない。
これがゲームとかなら判明するまでは無敵状態なんてことも珍しくはないのだけど。
「ある意味コイツは無敵に近いしなぁ」
触手の連続攻撃を躱しながらボヤく。
鉄甲で殴りかかると奴が電気バチバチ状態になって弾かれるんだよな。
それで攻撃が届かないというのがもどかしい。
まあ、普通はその電気バチバチで感電死してもおかしくないんだけど。
「ギュワアアアァァァァァッ!」
どうやら向こうも俺が感電しないのがお気に召さない様子だ。
生憎と最初にかすめた時から魔法で対策したさ。
「無敵は言い過ぎ」
すかさずスィーからのツッコミが入った。
もっと強く踏み込めば殴れるとは思う。
「強引に突破すると鉄甲を壊してしまいそうなんだよなぁ」
奴の防御力によってではなく、それを突破する俺自身のパワーによって。
物は大事にしろと爺ちゃんに教わった身としては、そんな真似はしたくない。
もっと余裕のない状況なら話も変わってくるんだけど。
現状は守るべき相手がいるものの結界が有効な上にバックアップもいるので切羽詰まっているとは言い難い。
「武器破壊、恐るべし」
スィーも俺と同じように勿体ない精神が根付いているようだ。
生前のスィーってこんな感じじゃなかったと思うんだけど守護霊になってから俺に感化されたのか?
「別に敵の攻撃で壊す訳じゃないでしょ」
ケイトは呆れているけれど。
「ユート様が自重すれば壊れないんだから」
「決着がつかない」
うん、だから俺は無敵に近いと言ったのだ。
「武器を変えればいいだけの話でしょ」
それは目から鱗の提案だった。
「「っ!?」」
俺もスィーも愕然とした表情でケイトを見る。
え? 戦闘中によそ見をするな?
もっともなんだけどウナギ魚人の攻撃は空気の流れと地面を伝わる振動で読めるので躱すだけなら問題ない。
「ちょっ、何よっ!?」
滅多にないスィーからのガン見にケイトが焦っている。
「ギュオオオオオォォォォォォォォッ!」
ウナギ魚人が無視するなとばかりに吠え、触手の連続攻撃が更に激しさを増した。
「息切れとかしないのか」
とはいえ現状はお互い様であり、どうにかして均衡を破る必要がある。
そのヒントは、たった今ケイトが出してくれた。
踏み込みを強くしなくても奴に攻撃が当たるような武器に持ち替える。
「じゃあ、まずは槍だ」
鉄甲を亜空間に収納して錬成魔法で長槍を作り出す。
即興だからシンプルな出来映えだが実用性重視ってことで。
「せやぁっ!」
ウナギ魚人の触手攻撃に匹敵する速さで連続突きを繰り出す。
初撃はあっさりと電気バチバチに弾かれた。
その後も弾かれ続けるが、徐々に奴の体の方へと槍の穂先が向かい始める。
腕力任せにしている訳ではない。
それをすると槍がひん曲がってしまいそうだからね。
奴に対応されないよう技とスピードを駆使した結果である。
だが、ウナギ魚人も黙って攻撃されている訳じゃない。
自分の体の方へと攻撃が集まり始めたことを見て取ると攻撃のみに使っていた触手で弾いてきた。
バチン!
デカい上にパワーもあるおかげで槍の軌道が大きくそらされてしまった。
「ええいっ!」
もう少しで脇腹に突き刺せるかというところだったのに。
だが、奴が攻撃一辺倒から防御するようになったことで連続突きという見切りやすい攻撃だけでは突破するのは難しいことが判明した。
「槍はダメかっ」
見切りをつけながらも連続突きの手は緩めない。
バチンバチンと何度も弾かれるが、奴に防御させることで余裕ができる。
「次はこれだ!」
長槍を亜空間に仕舞い込み、今度は短い棒を握りしめた。
ヴォン
熱を持った光の刃が筒から伸びていく。
CWOで使っていたビームソードだ。
これなら弾かれないかもと思ったのだが。
バチッ!
結果は同じだった。
「だったら、これはどうだっ!」
新たに引っ張り出したハルバードを大きく振りかぶって──
「どっせぇいっ!!」
横薙ぎに振るう。
柄の部分はトーションバーの製法と同じ原理で錬成したから粘りもあって折れづらくなっている。
ゴォウッ!
振るった勢いに相応しい風切り音がした。
だが、それは空振りを意味している。
「器用な真似をする」
下半身狙いの攻撃を奴は後ろ手で立つような格好で体を浮かせて回避した。
巨体に見合わず身軽なことだ。
「体操選手かっての」
これも触手が変幻自在に動かせるからだろう。
とはいえ、奴も肝を冷やしたらしい。
「ギュオワアアアァァァァァ────────ッ!」
その咆哮には怒りと殺意が満ち満ちており更に攻撃が増えた。
「うぉい、マジか!?」
スピードは今までのままだったが手数が増した。
尾びれや背びれに相当する部分も触手化したのだ。
おまけに両腕の触手よりも数が多い。
思わず飛び退いて距離を取ってしまった。
「ここまで来ると何でもありだな」
そのうち何でもない部位からも触手が生えてきそうな気がするんですがね?
「ギュワアアアァァァァァンッ!」
ウナギ魚人はここが勝負所とばかりにすべての触手をこれまでの最速で打ち込んでくる。
それもあらゆる角度から追い込むように。
俺が退いたのを好機と判断したようだ。
「やかましいっ!」
俺はあえてその場にとどまったまま魔法で全方位に雷撃を放った。
奴の触手をすべて弾き返す。
「ギュアッ!」
それは悲鳴であった。
意外なことにウナギ魚人は痛みを感じたようだ。
雷属性に耐性があると思っていたのだけど違うのだろうか。
読んでくれてありがとう。




