115 化け物の真の姿?
ウナギ魚人の前に姿を現そうと思ったら様子がおかしいことに気付いて出て行くタイミングを逸してしまった。
何が起きるのか確認してからでも遅くはないかなと思った訳だ。
結論から言えば、その判断は間違っていなかった。
「ギュオワアアアァァァァァッ!」
奴が再び吠えると四肢が肥大化した。
「おわっ、まだデカくなるのかよ」
「違う」
驚きの声を発した俺に対してスィーが否定を口にした。
「違う、だって?」
スィーがこくりと頷いた。
「向こうにいる間の奴は拘束されていたけど今は自由の身」
「ああ、シャドウゲートに入ったからな」
そのせいで拘束していた魔法がキャンセルされた。
ただし、クレーターを結界で覆っているので逃がしてしまうことはない。
「ようやく本来の姿になれたってことか」
「そう。胴体以外の部分が本来のサイズになった」
スィーはウナギ魚人を指差す。
確かにアンバランスだった体躯からちぐはぐさがなくなっている。
上半身だけでなく四肢も頭も大きくなったことで細長くウナギらしい見た目になったと言える。
まあ、手足のあるウナギなんていないけどさ。
「デカくなったなぁ」
身の丈は数十メートルに届こうかというほどある。
実は胴体も引き寄せる前より大きくなっていたが他の部位の比ではない。
「伸びたと言った方が良さそうだけどな」
グーガーがそんなことを呟いた。
言い得て妙だとは思う。
横も大きくはなったものの縦の伸び率ほどではないからね。
「あまり迫力は感じないがな」
リグロフがボソッとツッコミを入れていた。
「あの細身じゃあな」
グーガーもその意見に同意して頷いている。
拘束しているときの方が威圧感があったくらいだが今の方が対峙したいとは思わない。
「ギュアアアァァァァァ────────ッ!」
2人の声が聞こえた訳ではないだろうが、ウナギ魚人が苛立ちの咆哮を発した。
クレーターから出ようとして見えない壁に阻まれたからだ。
八つ当たりのように何度も触手を打ち付けるも俺たちの施した結界がその程度で打ち破れるものではない。
たとえ触手に雷をまとわせて威力を上げていたとしてもね。
「じゃあ、2人が奴と戦ってみるか?」
そんな風に話を振ってみると、両者ともにビクッと身を震わせた。
怖じ気づいているという風には見えないのだが尻込みしている。
「いっ、いやぁ、それは遠慮したいというか……」
グーガーはタジタジとなり。
「我々だけでは実力が足りていない」
リグロフは情けなく見られることを躊躇わぬ言い訳をした。
「怪我をしないように援護くらいはするけど?」
なおも戦うように勧めてみるも、2人ともブルブルと頭を振った。
心なしか表情から血の気が引いているように見受けられる。
やはり、間近で見るウナギ魚人のヌメヌメ感や諸々が尻込みさせるようだ。
通常のウナギだと何とも思わなくても巨大化すると気持ち悪さも倍増するし魚類の目が苦手だという人もいる。
死んだ魚の目なんて表現があるけど生きていても似たようなものだ。
けれども誰かがアレと戦わなきゃならない。
結界を永遠に持続させられるなら放置したいところだけどタイムリミットは存在する。
一晩で消滅するような代物じゃないけど嫌な仕事は早々に片付けるのが吉だ。
「しょうがない。さっさとオブショーするか」
「オブショーって何ニャ?」
小首をかしげながら聞いてくるレイ。
「汚物は消毒」
俺が答えるよりも先にボソッと呟くレイ。
「OHニャ! 確かにアレの所業は汚物と呼ぶに相応しいのニャー」
騒いで喜んでいる割には自分が対峙するとは言い出さないレイ。
我慢しているというよりはウナギ魚人の見た目の気持ち悪さに負けているのだと思う。
そのあたりを誤魔化すためにも騒いでいるだけだ。
「はいはい、無駄口はそれくらいにしておきなさい」
ケイトもそうであろうと踏んでいるようで軽くあしらわれている。
「無駄口じゃないニャッ!」
「ユート様の邪魔をするつもりがないなら口を閉じろと言っているのよ」
「ぐるるるるっ」
ケイトの正論に反論できないレイは喉を鳴らして威嚇している。
大人げないものだ。
露骨な妨害じゃないので、とやかく言うつもりはなかったのだけど放置していただけで面倒な感じになってしまった。
大きくなったウナギ魚人に対応するために下準備の追加をしようと思っていたのになぁ。
この調子じゃ、もたもたする方が厄介なことになりそうだ。
「あー、行ってきます」
そう言い残して俺はウナギ魚人の元へと向かった。
それまで結界に対し触手で八つ当たりを繰り返していた奴は、俺が姿を現すと──
「ギュオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!」
一際大きな咆哮を上げた。
憎悪と殺意が降り注いでくる。
魔物のそれとはまた少し違うように感じるのは奴が人間であったからか。
それとも[混沌の申し子]などというヤバそうな名前になっているせいだろうか。
とにかく魔物のそれと違って粘着質な気配を感じる。
名前のこともあるし、これは気を引き締めてかかった方が良さそうだね。
読んでくれてありがとう。




