111 混乱の後に見せた本性とは
ストーンゴーレムが忙しなく首を左右に振っていた。
首の可動域に制限をかけておいたので挙動不審に見えてしまうのは御愛敬。
「キョドってるニャ」
「視界が暗転した直後に景色が一変した反応としては妥当よね」
レイの言葉を肯定するケイト。
スィーも無言で頷き肯定している。
「フェイズ1、成功だ」
今のうちに敵との魔力のつながりが断ち切られた保護した者たちの確認をしておく。
ドローンを通して見た限りでは誰も目覚めてはいない。
辛気くさい地下牢の光景を夢として見せた割に拒絶反応的なものはなかったようだ。
目覚められて動き回られては別室に引き寄せた亡骸と鉢合わせしかねないので魔法で眠りの質を深めておく。
ついでに怪我や病気なんかは魔法で治療する。
多重制御の鍛錬になるので魔力の大量投入によるゴリ押しはしない。
ドローンの補助で対象を個別に把握し状態を確認。
最適な術式を同時展開して魔法を発動。
完了したのは全員ほぼ同時であった。
魔法での治療にはそれなりに時間を費やしたにもかかわらずゴーレムに大きな変化はなかった。
キョロキョロした動きが止まったくらいだろう。
「八つ当たりはしないみたいね」
ケイトが小首をかしげて不思議がっている。
「まだ早い」
そう答えたのはスィーだ。
「混乱から抜け出せていない」
「怒りが強くなるのは、まだ先ってことね」
合点がいったのかケイトはポンと掌を叩きながら言った。
「おそらく次は地下牢に確認しに行く」
「あー、ありそうだわ」
続くスィーの言葉にケイトは苦笑しながら同意した。
「魔力のつながりを確認して魔法で八つ当たりするかと思ったけど」
「そこまで冷静なら、とっくにやってる」
「でしょうねー。でもって地下牢がもぬけの空になっているのを見て爆発すると」
「見物」
「同感ね。ドローンの映像も確認しておかなくちゃ」
ケイトがいそいそとゴーグルを操作し始めたが我関せずとそっぽを向く者がいた。
「つまんないニャ」
レイである。
さっそく飽きてきたようだ。
気まぐれっぷりは、さすが元三毛猫と言うべきだろう。
こういう時は放置するに限る。
それよりも地下牢に黒幕が現れるかを気にすべきだ。
屋敷内に分散したドローンの監視映像は地下牢に限定してゴーグルに流すようにした。
これを編集記録したものを希望する被害者たちに見せようと思いついたからだ。
バカ三男坊が狼狽えた姿を見せるなら彼女らも少しは溜飲を下げてくれるかもしれない。
そして、待つことしばし。
男が勢いよくドアを開け放ち階段を駆け下りてきた。
「来ました」
ゴーグルから網膜投影される映像に反応して声を出したのはケイトだった。
「荒れている」
スィーが眉間にしわを寄せながら淡々と感想を漏らす。
「ここまで酷いとは俺も思わなかった」
男の髪も服も乱れ放題で肩で息をしている。
怒りに染まった形相で地下牢をひとつひとつ見て回っていた。
瞳をギラつかせ檻をつかんで額を押しつけるようにして覗き込む姿は手負いの獣である。
「悪いことをした自覚があるからじゃないですか」
他人事のように淡々と答えたのはケイトだった。
「それにしたって酷すぎないか?」
そう疑問を口にしたのはリーアンだ。
「「何処が?」」
ケイトとスィーがハモった。
「街のトップにしては見苦しいにも程があると思うんだがな」
リーアンは人の上に立つ人間だからこそ自覚とけじめが必要だと言外ににじませている。
「あれこそが追い込まれたバカ三男坊の本性」
スィーがそう言ったもののリーアンの反応は鈍い。
理解しかねているようだ。
「理屈じゃないのよ」
すかさずケイトがフォローする。
「え?」
「クズな人間っていうのは自分に甘く他人に厳しいものなの」
「なんと……」
リーアンはケイトの言葉に酷く驚いていた。
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