109 グーガーは疑問に思う
準備が整ったところで物陰に隠れて待機する。
「で、どうして隠れるんだ?」
聞いてきたのはグーガーだ。
「隠れなくても敵を釣り上げて倒せばいいだけだろう」
「確かにグーガーの言う通りだ」
リグロフも賛同している。
スタンピードの際に北壁山の山頂で俺たちが好き放題に暴れたのを見ているからな。
敵から隠れる必要などないと思うのは自然なことか。
「何か理由があるのでは?」
そう言ったのはリーファンだが見当がついている訳ではなさそうだ。
「理由はあるにはあるが確証はないから断言はできないぞ」
「何の確証だ?」
今まで黙って静観していたリーアンが割って入ってきた。
「視覚をゴーレムにつなげた敵が放置されたらどうなる?」
「どうなるって……」
困惑の表情を浮かべるリーアン。
グーガーやリグロフも同様だ。
「つながっていると思っていた女の人たちが何処にもいない」
呟いたリーファンを驚きの目で見る3人。
「見知らぬ場所に放り出されたあげく人影もないのだとしたら……」
「「「だとしたら?」」」
「その先に何かあるとユートさんは考えたんじゃないかしら」
リーファンの推測を耳にした3人が一斉に俺の方を見る。
「そういうことだな」
「何があるんだ?」
グーガーがウズウズした様子で聞いてくる。
普段はクールなリグロフも身を乗り出してきそうな気配を感じるほど聞きたそうにしていた。
リーアンも興味津々である。
「何があるんだろうな?」
俺が問い返すと、3人はガクッとズッコケた。
「おいぃ、ユートォ」
「それはないだろう」
「はぐらかさないでくれ」
口々に抗議の声を上げられたが他意はない。
「先に言っただろ。確証はないって」
その言葉で3人の前のめりな空気が和らいだが。
「しかし、ある程度は予想しているんじゃないのか?」
諦めきれないようでリーアンが聞いてきた。
「まあな」
3人が再び興味の塊と化す。
リーファンはそれを見て苦笑していた。
「少なくとも三男坊は八つ当たりを始めるだろうさ」
不逞の輩とは縁がなかったエルフ組は今ひとつピンとこないらしい。
「そうなのか?」
グーガーが聞いてきた。
「意味もなく人を傷つけることに躊躇いを感じないような輩だからな」
「そういうものか?」
納得がいかないのかリグロフが聞いてきた。
一応、ストラトスフィアで悪党についての講義はしてきているのだけど。
知識はあっても体験がゼロに等しいと簡単には結びつかないようだ。
「自分が加害者である間は優越感に浸るようなタイプなんてメンタルは脆いもんだよ」
「強いストレスを与えれば暴れ始めるという訳か」
リーアンの言葉に俺は頷いた。
今度はリグロフもクレームを付けてこない。
「けどよ、暴れさせる意味はあるのか?」
そんな疑問を呈してきたのはグーガーだ。
「意味はないよ」
「おいっ」
絶妙なタイミングでツッコミが入った。
「ただ……」
「ただ、何だよ?」
「もしかしたら化けの皮が剥がせるかなと考えたんだよ」
「「「化けの皮ぁ!?」」」
予想外だったらしく、リーアンたちが素っ頓狂な声を出してハモっていた。
「絶対じゃないぞ。あくまで疑念があるってだけの話だからな」
「何の疑念なんだ?」
たまりかねたようにグーガーが聞いてきた。
「敵が人間じゃない説」
「「「「ええ────────っ!?」」」」
3人だけではなくリーファンまでもが驚きの声を発していた。
「そんなに驚くことかと思うんだけどなぁ」
「バカを言うなよぉ」
唇を尖らせるようにして抗議してくるグーガー。
「人間じゃなかったら何者なんだ?」
正体を問われても肩をすくめることしかできない。
「まさか三男とかいう奴は既に死んでいて……」
「すり替わっているとか?」
グーガーの疑念を引き継ぐようにリグロフが聞いてきた。
「それについては疑う余地もないだろうな」
「どうして、そう言いきれるんだ」
根拠を求めてくるリーアン。
グーガーたちも、しきりに頷いて同意している。
証拠もないのに疑念の段階をすっ飛ばせばそうもなるか。
「奴の国の人間は魔法に対する素養が薄いのは実際に見てきただろう」
グロリアたちのことなので割合の数字まで出せるほどの頭数ではないが、ほとんどが魔法を使えなかった。
「にもかかわらず奴は高度な魔法を使いこなしている」
「「「「あ……」」」」
「それに貴族の息子に魔物の知識があるのも妙じゃないか?」
「確かにボルトパイソンなんて魔物は俺たちも知らなかった」
リグロフがそう漏らした。
「それだけじゃない。スライムの体液を使った嫌がらせをしていただろう」
「そうね。魔物のことにかなり詳しくないと思いつかないんじゃないかしら」
リーファンの言葉にリーアンたちも神妙な面持ちで頷いている。
「普段から利用しているなら話は別なんだろうけどなぁ」
「そんなものを普段使いする奴がいるものかよ」
グーガーの呟きにリグロフがツッコミを入れた。
「まあ、普通はな」
「普通じゃないなら、どう使うって言うんだ?」
「狩りをする時とかに罠を設置するとか使えそうじゃないか」
「用途が限定的すぎるだろ」
「そうかもな」
「それに貴族がそんなことをする訳ないだろ」
狩りには行ったとしても手間のかかる罠を使うとは思えない。
仮に罠を使うことがあろうと自分で設置するとは考えづらい。
「うん、それは俺も思った」
「あのな……」
コントか漫才かと言いたくなるようなやり取りをしている2人はスルーだ。
「とにかく、やっていることが貴族の子弟らしくないんだよ」
俺が話を進めたことでグーガーたちも自分たちの話を止めて聞く体勢に戻った。
「だとすると、どういうことなんだ?」
グーガーが聞いてきた。
「少しは自分で考えろよ」
またしてもリグロフがツッコミを入れる。
「そういうお前も似たようなものだろう」
グーガーも負けじと反論していたが、またかよと言いたくなった。
「何だとぉ」
もう少し周囲に気を配ってもらいたいものだ。
そう思っていたのは俺だけではないようで、リーアンが鋭い視線を向けていた。
「2人とも、そのくらいにしておけ」
その言葉でようやく2人は静かになった。
やれやれ……
読んでくれてありがとう。




