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103 黒幕は何処に

 数時間かけて黒幕の存在を捜したが成果は得られずじまいであった。


「ダメだぁ~」


 装甲車内に設置されたシートの背もたれに体を投げ出す。


「所用で留守にしているのかもしれませんよ」


 手分けして探ってくれていたケイトが声を掛けてきた。


「その可能性は低い」


 スィーがバッサリ切り捨てていたけどね。


「何でそんなことが言い切れるのよぉ」


 ケイトが唇を尖らせて抗議する。


「参謀でいるのが黒幕にもっとも都合がいい」


 黒幕が仕えるふりをしてクズ三男を操るには常に目の届く範囲にいるのが理想だろう。

 そのポジションが参謀だ。

 三男の裏の顔を知りながらも様々な悪知恵で加担し、その地位を得たはず。

 ただ、その場合は三男から離れられないため身動きは取りづらくなる。


「下っ端には任せられない仕事をしていることだって考えられるわよ」


 悪事を働いているから露見しないように動くのは当然と言いたいらしい。


「勘違い野郎でも敵が多いことは自覚している」


 高貴で優れた人間である自分が妬まれるのは当然と口癖のように言っているからな。

 非道な行いの数々も優れた自分が行うなら正当な行為だが凡人には理解できないと主張しているくらいだ。


「なるほど。敵が多いが故に信頼する部下は手の届かない場所へ行かせたりはしないかぁ」


「そういうこと」


「じゃあ、黒幕は何処にいるのよ?」


「それが分かれば苦労しない」


「……そうだけどぉ」


 にべもなく質問を切り捨てられたケイトは不服げに唇を尖らせている。


「そんなの簡単に分かるニャ」


 それまで我関せずと、くつろいでいるだけだったレイが自慢げにフンと鼻を鳴らした。


「何ですって!?」


 驚愕の表情でケイトが叫びながらレイを睨み付ける。

 他の面子も驚きながら視線を向けていた。


「どうやるんですか?」


 代表するようにリーファンが問う。


「堂々とバカ息子のところに乗り込めばいいニャ」


 即答したレイを除いた全員でズッコケたさ。


「ちょっと何言ってるか分かんないわね」


 すぐに復帰したケイトが小馬鹿にしたように言い放つ。


「せっかく隠密で偵察しているのに、バレたら意味ないじゃない」


 だが、レイも負けてはいない。


「実行犯だけでも先に眠らせておけばいいニャ」


 レイにかかれば貴族の三男だろうが関係ないな。


「警備を呼ばせなければ騒ぎにはならないニャ~」


 レイの口ぶりは、お返しだとばかりにケイトを挑発しているのは明らかだった。


「何が起きるかわかんないんだから慎重にやらないとダメでしょうがっ」


「そんなのドローンを使っても同じニャよ」


 吠えるケイトを更に挑発するレイ。


「それともドジを踏むかもしれないってビビってるのかニャ~?」


「なぁんですってえーっ!」


 ケイトの表情が般若の面を思わせるほど険しいものに切り替わった。

 これ以上はケンカに発展しかねない。


「そのくらいにしておけよー」


 有無を言わせぬよう睨みをきかせたお陰でケイトもレイも静かになった。


「それで今後の方針は?」


 静かになったところでスィーが聞いてくる。


「敵地に乗り込んでみるのも一興か」


「そう来なくちゃニャ~」


「無謀じゃないですかー?」


 自分の意見が採用されたされないで一喜一憂する御機嫌なレイと不服そうなケイト。

 中立っぽい感じで見守っていたスィーは黙り込んでいるものの、表情から察するにケイトに近い考えのようだ。


「スィーも無謀だと思うのか?」


「堅実とは言い難い」


「もっと慎重な方がいいと?」


 俺が問いかけると頷いた。


「少なくとも黒幕が誰なのかは確定させておいた方が良いと思う」


「そんなことしてたら何日かかるか分からないニャ」


 レイはそう言いながら嘆息しつつ頭を振った。

 決して大袈裟ではない。

 既に就寝時間であることを考えると日を跨ぐのは確定的だ。

 向こうの屋敷にいる大半が寝静まってしまう今から夜中のうちに調べられることなど、たかがしれている。


「ちまちま情報収集しても時間を無駄にするだけだろう」


「そうニャ、そうニャ」


 レイはウンウンと頷いているが、ケイトやスィーは渋い表情である。


「誰も黒幕を確認しないまま三男坊をとっちめるとは言ってないぞ」


「「「「「えっ?」」」」」


 装甲車の中にいる全員が俺の意図がつかめず驚きの声を上げた。


「どういうことですか?」


 真っ先に口を開いたのはリーファンだった。


「黒幕が出てこないなら出てくるように仕向ければいいってことだよ」


「どうやって?」


 反射的にグーガーが聞いてきた。

 少しは考えようぜとツッコミを入れたくなったが面倒なのでスルーしておく。


「想定外の事態が発生すれば……」


 リーアンが考え込みながら呟く。


「そんなに都合良くできるものか?」


 すかさずツッコミを入れるリグロフ。


「そんなに難しいことじゃないぞ」


「「「「「ええっ!?」」」」」


 俺の言葉にまたしても驚く一同。

 いや、ケイトとスィーは驚いていない。


「要するに、あり得ないと思っている事件が発生すれば何だっていいんだよ」


「その何だってが難しいだろう」


 リーアンがジト目でこちらを睨んでくる。


「何かが起きれば騒ぎになるんだからな」


 警戒厳重な屋敷からの脱出が困難になると言いたいらしい。

 別の見方をすれば忍び込むのは難しくないと言っているも同然だ。


「騒ぎになるのは翌朝以降だから何の問題もないと思うけどね」


「はあっ!?」


 リーアンが目を丸くさせる。


「本当にそんなことが可能なのか?」


「三男坊が寝ているときだからこそ有効な手があるんだよ」


 地下には来ないからね。


読んでくれてありがとう。

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