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101 レンチンします

 皆の配膳は終わっていた。

 既に食べ終えている者すらいる。

 まだ晩飯を確保していない俺は食いっぱぐれる恐れが出てきた。


「おい、そこ。何を片付けようとしている」


「食べる気がないんだと思ったニャ」


 行動に移そうとしている誰かさんを見咎めたら、そんなことを言う始末。


「んな訳ないでしょうが!」


 ケイトは目をつり上げて吠えているがスィーは我関せずで黙々と食べている。

 コントを披露しないと俺は晩飯も食えないのだろうか。


「あの、ここに確保してます」


 酢豚と味噌汁が脇から差し出された。

 リーファンが取り分けてくれていたようだ。


「ありがとう」


「いえ、どういたしまして」


 柔らかい笑みとセットでそんなことを言われると食べる前から、ほっこりした気分になるじゃないか。

 ええ子や……


 まあ、しみじみしながら固まっている場合ではないな。

 適当な場所に座って食べることにしよう。

 周囲を見渡して場所を捜していると、グロリアに手招きされてしまいましたよ。

 拒否する理由もないので近づいていく。


「まだ食べてなかったんだねえ」


「アンタもな。せっかくの料理が冷めるぞ」


「1人で食べるよりは暖かいと思うんだがね」


「待たせた側としては罪悪感が湧いてくることを忘れないでくれるかな」


「ハッハッハ、こっちが勝手に待っていただけなんだから気にすることはないさ」


 笑い飛ばされてしまった。


「はい、そうですかとは言えないんですがね」


「冒険者になろうって男が細かいことを気にするねえ」


 気にするから生き残れると俺は思っているんだが見解の相違というものだろう。

 異論は認める。


「ちょっと魔法を使うぞ」


「魔法だって?」


 こんな場所で何の魔法を使うのかと言いたげにしているグロリア。


「レンチン」


 即興で電子レンジをイメージして術式を開発した。

 レンジを使ったときのように食べ物を温めるだけだから魔力消費が少ないのが特長だ。


「何を?」


 ブーンという動作音にグロリアは周囲を見渡しながら警戒している。


「魔法を使っているという合図のようなものだ。その間は料理に触れなければ問題ない」


 口腔内で料理が熱くなったんじゃシャレにもならないので音を追加している。


「変なことをしているんじゃないだろうね」


「料理を温めているだけだ」


「はあ? 何を訳のわからないことを……」


 チーン


 温め完了の音がした。

 するとグロリアは驚きを顔に貼り付けた状態でビクッと固まってしまう。

 よく味噌汁をこぼさなかったものだ。


「な、何だい? ビックリするじゃないのさ」


「悪い悪い。だけど、お陰で冷め切った料理がホカホカだろう?」


 俺が言いながら指差す先はグロリアの手元だ。

 釣られるように目線を落としていったグロリアは器の中から出ている湯気を見て口をパクパクさせる。


「何もそこまで驚かなくてもいいだろうに」


「無理を言わないでくれるかい」


「そうか?」


「そうだよ。こんな魔法の使い方があるなんて夢にも思わないじゃないか」


「魔道具だって明かりを灯すだけのようなものがあるだろう」


「そりゃ、そうだけどさ」


 グロリアは不服そうに唇を尖らせている。


「それにしたってこの魔法とは別物じゃないか」


「明かりを灯すだけ、食べ物を温めるだけ。どちらも用途が単一に特化したものだが?」


「あたしが言いたいのは、そういうことじゃないんだよ」


 そんなのは百も承知している。


「はやく食べよう。腹が減った」


 だから強制的に話は打ち切った。

 箸を手に取り食べ始めることしばし。

 何故だか見られている気がしてならないと思っていたらグロリアが俺の手元を見ていた。


「どうした?」


「変わった道具を使って食べてるじゃないか」


「ん、箸のこと?」


「ハシって言うのかい。器用なものだね」


「慣れだよ、子供の頃から使ってるから」


「へえ」


 しげしげと見られて居心地はよろしくない。


「冷めるぞ」


 そう言うと、グロリアもようやく食べ始めた。


「この料理も変わってるねえ」


 酢豚を一口食べた直後のグロリアの言葉がそれだった。


「これは酢豚と言って酢を使った料理だ」


 そうは言うものの酢の分量は控えめだ。

 初めて食べる者に対して配慮した味付けと言えるだろう。

 疲労回復効果という点では物足りないが、食べてもらえなければ意味がない。


「酢だって!?」


 グロリアは目を丸くさせている。


「そこまで驚くほどのことじゃないだろうに」


「これはアタシの知らない酢の味なんだよ」


「へえ、そうなんだ」


「食品を扱う商人としちゃあ見過ごせるものじゃないさね」


「そんなこと言われたって住む所が違えば原料だって変わるだろう」


 醤油にだって大豆の醤油と魚の醤油があるんだし。

 酢も色んな原料のものがある。

 ブドウを使ったバルサミコ酢とかワインビネガーとか。

 リンゴ酢なんかもあるよな。

 日本人にとって馴染み深い米酢はグロリアには新鮮に感じられたとしても不思議ではない。

 おそらく果実酢しか知らないんだと思う。


「これは穀物が原料の酢だ」


「へえ、この歳でこんな驚かされるものに出会えるなんてねえ」


 しきりに感心しながら酢豚を食べていく。


「こっちのスープも見たことがないね」


「味噌汁だよ。大豆を原料にした調味料の一種だ」


「ほうほう」


 こちらにも口を付けると、その後は黙々と食べ進める。

 どうやら気に入ったようだ。


読んでくれてありがとう。

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