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雷鳴士、世界を救う  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第2章 オイルリグ

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第51話 裏顔

「無駄無駄無駄無駄ぁ!!!」

「うぉぉぉりゃぁぁぁあああ!!!」

「いてまうぞゴラぁぁぁあああ!!!」


 響き渡る怒号、荒れ狂う鉄拳。

 俺たちは目の前の光景に呆然と立ち尽くすしかなかった。


「アイドルだからってなめんじゃねぇぞぉぉぉ!!!」

「バチボコにしてやるからなぁぁぁああ!!!」

「調子乗っとったら承知せんぞワレェェェ!!!」


 甘い声とはかけ離れた、地を這うような怒鳴り声。

 拳に装着されたメリケンサックが閃き、その一撃で魔物が吹き飛ぶ。

 口からは鮮血が噴き出し、地面に叩きつけられた魔物は、虚ろな目をしながらエフェクトとなって散る。


 その光景に耐えきれず、アリサが俺の袖を引っ張りながら震えた声で囁く。


「ね、ねぇ……? 本当にカオリ――夢咲香織よね?」


 俺は乾いた喉を鳴らしながら、ようやく言葉を絞り出した。


「あ、ああ……間違いない……夢咲香織――本人だ」


 だが、その姿は昨日までの彼女とはまるで違った。


 可憐で愛らしいアイドルの面影は消え失せ、そこに立っていたのは、青筋を浮かべながら戦場を支配するバーサーカー。

 メリケンサックを握り締めた拳は血に濡れ、瞳は血走っている。


 そして、彼女は嗤った。


「次はどいつじゃぁぁぁあああ!!!」


 俺たちは――何も言えなかった。




「ユウ君。ありがとう」


 部屋に巣食う魔物をすべて蹴散らすと、夢咲香織――バーサーカーは、飾り気のない声音で短く礼を述べた。


「あ、ああ……だいぶ雰囲気が変わったけど……大丈夫か……?」


 俺の戸惑いをよそに、彼女はふっと唇を尖らせ、上目遣いで甘えるように囁く。


「うん。でもね、このこと……誰にも言っちゃダメだよ? アリサちゃんも、おじ様も……そしたら――い~っぱい、ご褒美をあ・げ・る♡」


 いたずらっぽくウィンクをひとつ。


「ど、どっちが本当の夢咲香織なんだ?」


 思わず息を呑みながら問いかけると、彼女は小さく鼻を鳴らし、不敵に微笑む。


「どっちも私よ。いつもぶりっ子して愛嬌を振りまくのも私。こうして悪態をついてストレスを発散するのも私……」


 次の瞬間、彼女の表情からすっと熱が引き、無機質な冷たい瞳が俺を射抜いた。

 先ほどまでの愛らしさが嘘のように、そこに立っているのは別人のような冷淡な美貌だった。


 どうやら通常モードとアイドルモード、バーサーカーモードの三種類があるらしい。

 そんなバーサーカーのステータスはこれ。



【名 前】カオリン

【ジョブ】拳使い(0/14)

【状 態】良好

【L V】21(+18)

【H P】225/225

【M P】478/478

【筋 力】138 (90up)(+100)

【敏 捷】116 (72up)(+40)

【魔 力】245 (180up)

【器 用】138 (90up)

【防 御】138 (90up)

【魔 防】224 (162up)

【適 性】神聖魔法C

【重 量】138/138

【装 備】浄怒のメリケン

【アクティブスキル】

・《ヒール》・《キュア》・《エリアヒール》・《ハイヒール》

【パッシブスキル】

・《成金》



【名 称】浄怒のメリケン

【攻撃力】100

【敏 捷】40

【重 さ】130

【特 殊】装備して殴るとスっとする



「カオリ? もしかして、十層に行きたいのって……?」


「そうよ。ずっと追われるのって、正直疲れるでしょ? ユウ君とおじ様は私をアイドル扱いしないから楽なんだよね」


 彼女の言葉を噛み締める。

 つまり、心休まる場所が欲しい。ファンが絶対に近づけないような、誰にも邪魔されない場所が――


「じゃあ、アイドルをやめれば――」


「バカね」


 カオリはくすっと笑い、肩をすくめる。


「もてはやされるのは嫌いじゃないの。ただ、あのキャラで事務所が売り出しちゃったんだから、もう後戻りできないでしょ?」


 そう言う彼女の瞳はどこか楽しげで、それでいて少しだけ寂しそうだった。


「だから、一人になれる場所がほしかっただけ。でも、こうやってストレス発散もできるし、一石二鳥ってわけ」


 ……なんとなく、理解できてしまう俺がいた。


 配信をしていると、自分の下手なプレイを見られるのは恥ずかしい。けど、それでも誰かに見てもらいたい――そんな感覚に似ているのかもしれない。

 ……まあ、俺の場合は下手なプレイを晒したら、ただ開き直るだけなんだけどな。


「なぁ……偽名ショップあたりで、よく目撃されてたのも……?」


 俺の問いに、カオリはふっと目を細め、少しだけ口角を上げる。


「何? まさか私のこと張ってたの?」


 くすっと笑ったあと、彼女は小さく息を吐いた。


「そうよ。名前を変えれば、少しはキャラを作らなくて済むかなって思ってたの」


 やっぱりそうか……迷宮から出るたびに、パーティから抜けるのも納得だ。

 常に誰かに見られているような息苦しさ――それが嫌だったのかもしれない。


 これで、疑わしき点はほぼ晴れた。


 まあ、すでに身バレしているカオリが、今さら妙なことをするとは考えにくい。仮に何かあったとしても、今の彼女なら「浄怒のメリケン」を渡したところで、脅威にはならないはずだ。


 ――昨日、キョウヤを交えて話し合った結論も、そうだった。


 キョウヤとしても、カオリと対立するのは得策ではないと考えていたようだ。

 あれだけの熱狂的なファンがいる以上、下手に敵に回せば厄介になるのは明白。

 そう思うのも当然だろう。




 アリサが周囲を索敵し、誰もいないと確認したら――カオリの独壇場だ。


 彼女は暴れに暴れ、魔物を蹴散らしていく。


 結局、そんな調子で五層まで突破した。


 そして、中央広場の転移門へ戻ると――待ち構えていたのは、今日も変わらぬ熱狂的なファンたち。


「みんな~! 待っててくれてありがとう♡」


 満面の笑みで手を振る彼女。


 ついさっきまで、魔物相手に

「奥歯ガタガタ言わせてやんよ!!!」

 と、怒鳴り散らしていたのと、同一人物とは到底思えない。


 アイドルモード全開の夢咲香織は、ファンたちを引き連れながら、セントラルシティの闇へと消えていった――。

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