第47話 P活
「ねぇ?どうするの? 要求を受け入れるの?」
セントラルシティに戻り、五人で再び討論をする。アリサの問いに答えたのはキョウヤだった。
「俺とユッカは、もう十四層までのボスをすべて二度倒しているからキャリーはできない。レベル上げには協力できるが、キャリーするとしたら、お前たち【雷光】の三人がメインだ」
「そうか……俺も一層のボスは一度、アリサと戦っているから、二層からになるな」
そう言いながら、チラリとアリサのほうを見る。
今のアリサなら、ゴブリンキング程度は余裕だろう。
だが、問題はそこじゃない。
――夢咲香織を信じるかどうか。
そこが、俺たちの一番の懸念点だった。
「俺たちも夢咲と同じ立場だ。ユウトの出した答えに従う」
どうやらキョウヤの俺への信頼は厚いらしい。
最初に口を開いたのはシルバだった。
「俺は話を聞くべきだと思う。ここまで来て指をくわえて時間を無駄にするのは、クリアから遠ざかるだけだ」
予想通りの答えだった。
「でも、カオリンは明らかに何かを隠していた雰囲気でしたよ?」
アリサがシルバの意見に疑問を呈すると、シルバは静かに頷く。
「それは、分かっている。だから、潜る前に《鑑定》することを条件にすればいい。もし夢咲が危険なジョブに就いているなら、監視するか、あるいは断ればいいだけだ。俺たちにはユウトがいる。《鑑定》できないということはないだろう?」
シルバの意見にキョウヤも頷く。
「そうだな。ユウトが常に隣で監視していれば問題はないだろう。今のアリサとシルバがボス含めて十層までの魔物相手に苦戦するようには思えない」
「そうか……アリサもそれでいいか?」
「え? うん……そうね」
どこか歯切れの悪いアリサ。戦闘のときは言葉がなくても息はピッタリなのに、こういう場面では彼女が本当は何を考えているのか、読み取るのが難しい。
「何か、気になることでもあるのか?」
マイホームでアリサに訊ねる。
「うん……懸念ってほどじゃないんだけど……カオリンって、可愛いじゃない?」
ああ、アリサは熱狂的なファンのことを気にしていたのか。
「確かにあのファンたちは厄介だな――」
「そうじゃなくて!」
俺の声を遮るアリサの声は、どこか必死だった。
「……ほら、ユウトはどう思っているのかなって?」
俺が?
「胡散臭い……この一言に尽きるかな……」
「え? 可愛いとかスタイルがいいとかって思わないの?」
さっきから可愛いをやたら推してくるな。
「ん? まぁ可愛いんじゃないか? グラビアやっているくらいだからスタイルもいいだろうし」
「……でも、アリサほどじゃないけど」――その言葉は、飲み込んだ。
余計なことを言えば、変に意識させてしまうかもしれない。
それに、フラれるのも辛いが、フる方だって辛い。
でも、俺の言葉を聞いたアリサはどこかすっきり――いや、ホッとしたような表情を浮かべていた。
「そっか、なら大丈夫。私たちでカオリンたちをキャリーしましょう」
翌日、【雷光】の三名だけでレイクタウンに向かうと、そこには熱狂的なファンたちを背に、夢咲香織と一人の男が待っていた。
「おはようございます。答えは出ましたかぁ?」
相変わらず、谷間を強調してくる夢咲。
その隣に立つ男は、ずっとそこに視線を集中させている。
「ああ、十層までキャリーする。しかし、その前に《鑑定》だけはさせてほしい」
「ありがとうございます! じゃあ好きなだけ見てください♡」
彼女はそう言うと、わざとらしくポーズを決める。
【名 前】カオリン
【ジョブ】神聖魔導士(2/15)
【状 態】良好
【L V】3
【H P】81/81
【M P】118/118
【筋 力】48
【敏 捷】44
【魔 力】65
【器 用】48
【防 御】48
【魔 防】62
【適 性】神聖魔法E(2/10)
【重 量】3/48
【アクティブスキル】
・《ヒール》・《キュア》・《エリアヒール》(2/15)
【パッシブスキル】
・《成金》
な、なんだこいつ……!?
レベル3で二次職の【神聖魔導士】だと? どういうことだ……!?
俺が訝しげに視線を向けていると、彼女はクスクスと笑いながら、片眉を上げた。
「……なんか? お兄さんの視線、ずっと刺さってるんですけど?」
小首を傾げながら、軽く胸元を抑える。
「もしかして……透けて見えてたりしますぅ?」
夢咲香織が小悪魔的な笑みを浮かべて言うと、アリサの冷たい視線が俺に刺さる。
「すまない、鑑定結果に驚いてな。 一つ聞かせてくれ——どうしてレベル3なのに、二次職の【神聖魔導士】なんだ?」
「えっ!?」
今度は、アリサの視線が夢咲香織に向かう。
「ファンの子たちが【求道者の書】と【心理の書】っていうのをくれてぇ。使ってみたら【神聖魔導士】になれたの。デートと引き換えにだけどね♡」
そう言って、俺にウィンクを飛ばしてくる。
……噂に聞くP活ってやつか。
すると、隣に立っていた男が唾を飛ばしながら口を開く。
「お、俺も! 【造船師】になって船を作ったらカオリンとデートできるって! そ、そうだなよ? カオリン?」
「うん。あっくんも頑張って。ベリグランド湖を一緒に漕ごうね♡」
このあっくんというのが、【船大工】ってわけか。念のため《鑑定》すると、ビンゴだった。
「よし、じゃあ早速セントラルシティに行こう。時間が惜しい」
転移門をくぐろうとした瞬間、夢咲香織が俺の腕を掴む。
「ちょっ!? お兄さん!? 私セントラルシティに行ったことがないから転移できないんですけど!?」
慌ててしゃべると、猫なで声ではなくなるんだな。
にしても、そうか……行ったことがない場所には転移できないんだった。
「じゃあ馬で行くか」
そう言って馬に乗ると、何の躊躇もなく夢咲香織が俺の後ろに乗ろうとする。
「な、何をしている!?」
「え? だって私、馬乗れないしぃ」
構わず鞍に手をかける夢咲香織。
同時に、ファンたちの殺気が俺に集中する。
……やべぇ。ガチで刺される。
「わ、分かった。アリサ、アリサが馬に乗ってくれ。彼女を後ろに頼む」
「えぇっ!? 私が!?」
返事を待たずにシルバにも指示を出す。
「俺は転移門で先にセントラルシティに戻る。シルバはそのあっくんを後ろに乗せて来てくれ」
「おい! ユウト――」
「俺は先にキョウヤたちに知らせてくる!」
慌てて馬から飛び降り、転移門へと向かう。
クリアした後、日本で彼女のファンに刺されるのは御免だ……というのもあるが、それ以上に夢咲香織を――いや、他の誰かを後ろに乗せることに妙な抵抗があった。
それに、このステータス差を考えれば、彼女がアリサに何か仕掛ける可能性はゼロに等しい。だったら、ここはアリサに任せた方がいい。
転移の直前、振り返ると、二人はわずかに呆れた表情を浮かべながらも、しっかりと頷いた。それを確認し、俺は一足先にセントラルシティへと転移する。
転移門を抜けると、キョウヤとユッカが待っていた。
「どうだった?」
キョウヤが興味深そうに問いかける。俺は夢咲香織が【神聖魔導士】であること、そして【船大工】の確保に成功したことを報告した。二人は驚きながらも、安堵の表情を見せる。
「で? 俺たちも手伝った方がいいか?」
「いや、悪いが、キョウヤとユッカは二人のレベル上げには同行しないでくれ。人数が増えると経験値が分散される。あっくんの適性がDに到達したら、チャットで知らせる。それまでは迷宮攻略を進めてくれ――その前に、一度ギルドに寄ってくれ。パーティから除外する」
俺の言葉に、キョウヤは満足げに頷く。
「ユウトがそう言うなら助かる。じゃあ俺たちはギルドに向かってから、迷宮に戻る」
二人を一度パーティから除外し、背中を見送ると、急いでレイクタウンに戻り、すぐに馬に跨る。
アリサとシルバに任せれば問題はない。頭では理解している。だが、それでも胸の奥に不安がくすぶる。だから――俺は、こっそり尾行することにした。
もっとも、同じパーティにいるアリサとシルバには、俺の位置が分かってしまう。気づかれていないはずがない。
信用されていないと思われるかもしれない。だが、それでも――こんな場所で、アリサに何かあったら……。
そう考えると、俺は動かずにはいられなかった。
朝から馬を駆り続け、セントラルシティにたどり着いたときには、すでに夕闇が街を包み始めていた。




