第30話 光魔法使い
「ん? なんだ……何も見えない……」
転移した先は、まるで光を拒絶するかのような暗闇だった。目を凝らしても、何一つ見えない。
手探りで状況を確認しようと、周囲を探る。壁かスイッチか、何か手がかりになるものは――そう思った瞬間、手の中に柔らかい感触が広がった。
それは、柔らかくて弾力があり、沈み込むような心地良さ……そして、その先端に感じる突起。
「もしかして……?」
言葉を口にした瞬間、空気を裂くような摩擦音が耳をついた。そして次の瞬間、鋭い衝撃が頬を打つ。
「どこ触ってんのよ! 変態!」
アリサの怒声とともに、頬に痛みがじんわりと広がる。
「ご、ごめん……わざとじゃ……」
「わざとじゃないのは分かっているけど、すぐに気づくでしょ! 触っている時間が長いのよ!」
彼女の非難に言い返せない。確かに、違和感に気づくのが遅すぎた……ということにしておこう。
何度も頭を下げてようやく機嫌を直してもらえたが、この暗闇の中では探索が進まない。
「アリサ、ちょっと俺の後ろに下がってくれないか?」
暗闇の中、アリサが俺の背中にピタッとくっついたのを確認してから魔法を唱える。
「《ファイア》!」
炎が目の前で灯り、周囲を照らしながら前方に飛ぶ。しかし、それでも視界が広がるのはほんの数秒。暗闇は依然として濃く、無機質で深い。
どうやらこの八層自体暗いのだろう。
まさかここで光魔法使いの出番になるとは……。
「アリサ、戻ろう。どうするか考える時間が必要だ。あとこの件を共有した方がいいだろう。秘密にしておくとまたうるさくなりそうだからな」
そう言いながら右手に残る余韻をそっと握り締める。彼女のため息が聞こえた気がしたが、追及されることはなかった。
「アリサ、この辺りで【光魔法使い】を見かけたことはあるか?」
ソファに腰を下ろし、リラックスした態勢で問いかけると、アリサも俺の隣に腰を下ろした。
「たぶん、ルーキータウンでそれらしき人を何人か見かけた気がするけど……そういえば、この辺では全然見ないわね」
「だろうな……【光魔法使い】がどういう扱いを受けているか、知っているか?」
アリサは首をかしげ、「いえ、知らないわ」と素直に答える。
「【光魔法使い】――それは魔法使いの中でも、最も不遇なジョブとされている。理由は単純だ。最初に覚える魔法が圧倒的に弱い。クローズドベータ版の頃から、その弱さは折り紙つき。上位パーティに加入している【光魔法使い】は〇人だ」
アリサは驚いたように目を見開き、興味津々といった様子で俺の言葉を待っている。
「最初に覚える魔法……それは、暗闇を照らす《ライト》」
「えっ!? じゃあ、今の私たちには必須の魔法じゃない!」
「確かに、今の状況では必要な魔法だ。ただひたすら暗闇を照らすだけの存在だ。それでいて、魔法使いとして体力や防御力も低い。おまけに物理攻撃の才能もない。そんなジョブを、誰がパーティに加えたいと思う?」
静かに言葉を締めくくると、アリサはしばし黙り込んだ。俺の言いたいことは、十分に伝わったようだ。
やがて彼女の口から思いもよらぬ言葉が発せられた。
「私が【光魔法使い】になるわ」
――アリサが!?
一瞬、驚きで思考が止まる。しかし、冷静になれば悪い選択肢ではない。【剣士】をマスターした今、次のステップとして魔法使いへのジョブチェンジは考えていたことだ。
そんな俺の戸惑いを見透かすように、アリサが言葉を重ねる。
「それに、この手のトラップがここだけのものってわけじゃなさそうでしょ? そのたびにおっぱいを揉まれるのは……困るし?」
彼女の瞳が揶揄するように俺を捉え、軽く笑みを浮かべる。
それを言われると、何も言い返せなくなる。
今も鮮やかに残るあの感触――あれがもう堪能できなくなると思うと……いや、ここは我慢だ。
「分かった。明日、冒険者ギルドで【光魔法使い】になろう」
翌日――
やってきたのはいつものルーキータウン。
早速閑散とした冒険者ギルドでアリサのジョブチェンジを行った。
【名 前】アリサ
【ジョブ】光魔法使い(0/14)
【状 態】良好
【L V】23(1up)
【H P】450/450
【M P】218/218
【筋 力】174 (7up)(+20)
【敏 捷】198 (8up)
【魔 力】94 (3up)
【器 用】198 (8up)
【防 御】150 (6up)(+10)
【魔 防】150 (6up) (+5)
【適 性】剣術D
【重 量】85/174
【装 備】鉄の剣
【装 備】旅人の法衣
【アクティブスキル】
・《二連切り》・《スラッシュ》
【パッシブスキル】
・《索敵》
ジョブチェンジをしても、アリサのアバターは剣士風のままというのは、以前三角帽子のジョブを探したときに分かっていた。
しかし、予想外のことが起きる。
剣術D(5/10)だったのが、剣術Dになっていたのだ。
もしかして、剣術5レベル分損した?
迂闊だった……と、思い、もう一度【剣士】に戻ってもらうと剣術D(5/10)と表示された。
すぐに仕様を理解する。考えてみればこれが引き継がれしまうと、後々グリッチができてしまうのだ。
わかりやすく例を挙げるなら、【騎士】になったとする。
【騎士】で5レベル上げると、馬術F(5/10)となる。この状態で【馬飼い】にジョブチェンジすると、馬術F(5/5)となり馬術E(0/5)になるのだ。
これができるのであれば、みんなやるに決まっている。
だから適性のレベルは、そのジョブでのみ有効ということになるということだ。
アリサがジョブチェンジを終えてギルドを出ようとするタイミングで、俺は声をかけた。
「アリサ、これを使ってくれ」
そう言って渡したのは、【求道者の書】。
「え? 私もう一回使っちゃってるし……」
申し訳なさそうに言うが、これはアリサが【光魔法使い】になると誓った昨日から決めていたこと。それに今が必要なのだから、すぐに覚えてもらわないと困る。
「なんだ? じゃあ、今日も揉んでいいのか?」
とは、さすがに言えなかったが、アリサはいろいろ察した様子。
「ありがとう。じゃあこれでこの前のはチャラね」
アリサが微笑み、【求道者の書】を使う。
【名 前】アリサ
【ジョブ】光魔法使い(0/14)
【状 態】良好
【L V】23(1up)
【H P】450/450
【M P】218/218
【筋 力】174 (7up)(+20)
【敏 捷】198 (8up)
【魔 力】94 (3up)
【器 用】198 (8up)
【防 御】150 (6up)(+10)
【魔 防】150 (6up) (+5)
【適 性】剣術D・光魔法G(0/7)
【重 量】85/174
【装 備】鉄の剣
【装 備】旅人の法衣
【アクティブスキル】
・《二連切り》・《スラッシュ》
・《ライト》
【パッシブスキル】
・《索敵》
《ライト》
【MP】5
【CT】100
【威力】0
【詳細】魔力/2 分間自身のいる部屋の闇を払う
「これで八層に潜れるな」
「ええ、いっぱい投資してもらったからその分働くわよ」
準備を整えた俺たちは、気持ちを高めながら八層への挑戦に踏み出した。




