第26話 マイホーム
「ユウト! 1.000.000G達成よ!」
その瞬間、アリサが喜びに満ちた笑顔で俺の腕の中に飛び込んできた。
弾力のある双丘が押しつぶされ、それでもなお柔らかく、彼女の身体がさらに密着してくる。その嬉しそうな姿に、思わず俺の顔も綻んでしまった。
念のため言っておくが、俺が笑顔になったのは、アリサの喜ぶ姿を見たからだ。双丘の感触を楽しんでいるわけではない――そこは断じて勘違いしないでくれ。
「時間よ、このまま止まってくれ……」と思わず願ったものの、そんな願いが叶うはずもなく、不意に目の前にアナウンスが表示された。
ベリグランド迷宮四層踏破
ハーティ名【白銀騎士団】
パーティリーダー名【シルバ】
「私たちも負けてられないね」
ゆっくりとアリサが俺の腕から離れていく。
おのれシルバめ……いいところだったに……覚えてろ……というのは冗談? で、俺たちも目的を果たすべく、セントラルシティへ戻ることにした。
早速、不動産を訪れ、購入した物件について改めて説明を受けた。
俺たちが購入したのは、セントラルシティの外れにある1LDKの一室。
外れと聞くと治安が悪いイメージを持つかもしれないが、実際にはこのエリアが最も安全だ。
理由は明確で、このエリアはプライベートハウスを購入した者しか入れない特別な区画だからだ。
この区画への唯一の通路は転移門のみ。物理的な侵入はシステム的に完全にロックされており、不可能となっている。
そして、ベリグランド内でプライベートハウスを所有しているのは、俺たちだけだろう。
新居の中に入り、さらに詳細な説明を受ける。
「プライベートハウスには専用のアイテムストレージを設置できます。このタイプのプライベートハウスには初めから一つストレージが付いており、さらに二つまで追加可能です。今回はユウト様がベリグランドで初のプライベートハウス購入者となりますので、特典として通常500,000Gのストレージを一つ無料で提供させていただきます。一つのストレージには重量制限がありませんが、保管可能なアイテムの数は十個までとなりますのでご了承ください」
おお、なんという豪華な特典だ!
そもそもプライベートハウスを購入した一番の理由は、このアイテムストレージの存在だったのだ。
これで迷宮で手に入れた貴重なアイテムを、常に持ち歩く必要がなくなり、安全に保管できるようになった。
一通りの説明を受けると、不動産の女性NPCがアリサをじっと見つめる。
「説明は以上となります。それでは、アリサ様。この1LDKのお部屋に本当にユウト様とお二人でお住まいになるということで、よろしいですね?」
NPCの真剣な口調にアリサは吹き出しそうになりながら、右手首のスナップを利かせて、俺には見えないウィンドウ画面をタップした。
「……承知しました。では、それでは契約が正式に成立しました。このプライベートハウスにはユウト様とアリサ様、お二人専用となります。他の方は入れませんので、ご注意くださいませ。お買い上げありがとうございました」
契約を終えると、NPCは俺の方を見てニヤリと笑い、部屋を後にした。
その直後、アリサが早速動き出す。
「ユウト、まずはお風呂に入ってきて。新居での最初のお風呂は、やっぱり家主が使うべきでしょ?」
ゲーム内の世界だから、お風呂に入らなくても休息すれば自動的に綺麗になる。それでも、気分的には入っておきたいものだ。特にアリサと一緒のときは。
風呂から上がり、並べられた食事に舌鼓を打ち、いよいよ就寝。
ベッドが二つ。ただし、同じ部屋に置かれている。
「別に同じベッドに入るわけじゃないんだからいいのに……」
アリサはそう言ったが、俺は慎重になる必要があった。
彼女が芸能事務所から声をかけられている以上、たとえアバターでも同じ部屋で寝ていたなんて話がバレれば、後々大きな問題になりかねない。
リビングにベッドに移動させたのは、そのための予防策。
移動中、アリサが少し寂しそうな表情を浮かべたように見えたが……いや、それは俺の気のせいだろう。
俺はこの勘違いのせいで、三度痛い目をみたのだから。
――翌朝
澄み渡る空の下、朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、アリサと二人、マイホームを後にする。
道具屋に向かう途中、不動産の前を通りかかると、昨日まで1.000.000Gだったプライベートハウスが1.100.000Gに値上がっていた。
物価上昇……どの世界も世知辛い。
久しぶりに二人のストレージをポーションとマジックポーションで満たし、冒険者ギルドでクエストを受けた後、いざ出発。
すると、中央広場の転移門に向かう途中、背後から甲冑の音と共に、俺を呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと、やはり仲間を従えたシルバの姿が目に入る。
「四層のボスデータだ」
何も言ってないのにデータをくれる。
「助かる。今日俺たちも挑もうと思っていたんだ」
「そうか。最近姿を見せないと思っていたが、しっかり潜っていたようだな」
俺たちが狩場を他の冒険者とは異なるエリアにしていたせいで、遭遇する機会が少なかったのだ。まさか俺がマントボア相手に奮闘していたとは思っていないだろう。
「シルバから見て四層のボスの強さはどれくらいだ?」
「三層とは違って長期戦になったのは確かだ。だが、ユウトの火力なら問題ないだろう」
つまり、それなりに強いってことだな。
「分かった。四層のボスデータは、俺の鑑定結果と合わせて返しておく」
要件を済ませた後、シルバは五層へ、俺たちは四層へと向かう。
そして――迎えた四層のボス戦。
結果はというと、三層のボスよりも弱いと感じた。




