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幼女はみんなと結婚したい

青年×少女が書きたくて。

―けっこん?

―そうよ。結婚。大好きな人とずっと一緒にいられる魔法のお約束

―じゃあ、アメリ、ママとパパとけっこんする!

―ふふ、アメリ。ママとパパとアメリは、結婚しなくてもずっと一緒にいられるのよ

―む?

―まだあなたには難しかったかしらね

―むー

―いつかあなたも、きっと、結婚する日が来るんでしょうね。わたしの可愛いアメリ……



「アメリ、けっこんしたい!」

 満面の笑みでアメリにそう宣言されたノエは、そうかそうか、と小さな彼女の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。ふわふわした金色の髪の感触が気持ちいい。椅子に座る自分の膝によじ登ってきた小さなお転婆姫は不機嫌そうにうなりながら小さな手で髪を直そうとしていて、その仕草もまたかわいらしい、とノエは笑みを深めた。


 齢5歳の女の子。年相応におしゃまで、可愛くて、天真爛漫で、純粋で、お転婆な、自分の主の一人娘。ノエがこの家で従僕を務めるようになって5年になるが、アメリが生まれたのも同じぐらいの時期だった。そういうわけなのかなんなのか、まだ22歳の若造である自分がこの小さな女の子の面倒を見ることが多い。

 初めこそ扱いがよくわからなくて戸惑ったりもしたが、5年も一緒にいれば仲良くもなる。慣れてくれば可愛いものだ。よく動きよく話しよく笑いよく泣く子犬のようなアメリ。


「それで、可愛いお姫様?結婚っていうのはひとりじゃできないんだけど、だれと結婚したいわけ?」


 5歳児に結婚だのなんだのっていうのは早すぎる話題だとも思うが、おしゃまなこの年頃なら普通なのかもしれない。父親と結婚する、なんてセリフ、このぐらいの娘はみんな言うものだ。自分は父親ではないけれど。

 

 彼女に問うと、アメリは内緒話でもするように小さな手を自身の口元にあてて、小さな声でノエにささやいた。

「あのね、アメリ、ママとパパとけっこんしたいんだけど、でも、ママとパパとはけっこんしなくてもいっしょなの」

「うん。ていうか君のママとパパは結婚してるんだけどね。そしてなんで内緒話」

「だから、アメリ、マリちゃんと、ジョルジョと、サーヤと、リッカちゃんと、メアリーおばさんと、プチとけっこんするの」

 ノエのつっこみを軽く無視したアメリは、嬉しそうに彼の膝の上でぴょんぴょんと飛び跳ねながら友人やこの家で働くメイドらの名前を挙げていく。さりげなく飼っている犬の名前もあったけど、とつっこもうとしたが、ぴょんぴょん飛ぶ彼女のひざがみぞおちに決まり、ノエは「ぐえ」と真剣にうめくはめになった。


 なんというお転婆。まだ5歳だと甘やかしていたが、そろそろ本気で淑女のマナーを教えるよう主人に進言しなければ。ノエはそう考えながら、一方で、彼女に問いたださなければいけない、と思っていた。


 それは。


「それで、俺の可愛いアメリちゃん?なんで結婚したい相手に俺の名前がないわけ?」

 アメリの脇の下に手を入れ、力をいれると、小さく軽いアメリはすぐに浮いた。抱っこしてもらってうれしいのか、きゃらきゃらと楽しげに笑う彼女を、加減しながら左右に揺らす。アメリがきゃー、と甲高い歓声をあげた。


「こっちは真剣に聞いてるんだけどね、お嬢さん?」

 この5年、忙しい夫妻に代わってこのお転婆姫を誰よりかまってきたのは自分だ。おやつの取り合いをして真剣に喧嘩をしたり、木から落ちて大けがしそうだったのを助けたりしたこともあった。時には寂しがって泣くこの娘をなだめ、一緒に喜劇をみて笑いあった。

 5年間、ずっと一緒にいたのだ。少なくともプチ――つい最近飼い始めた犬だ――に負けることはないと思っていたのに。


 小さな娘の戯言に大人げないと思いつつ、しかしノエは本気で少し傷ついている自分に呆れる。もちろん本気でこの娘と結婚したいなんて考えているはずもないが、まるで気分はかわいくかわいく育ててきた愛娘をとられた父親だった。

 アメリはそんなノエに、ふふ、と笑うとまたいたずらっ子のような表情で、内緒話をするかのようにこっそり言った。


「あのね、アメリ、ノエともけっこんしたいのよ。だって、ノエのこと、だーいすきだもの」


 けっこんは、だいすきなひととずっといっしょにいられるまほうのおやくそくなの。


 アメリの言葉をきいて、一瞬呆けたような表情をしたあと、ノエは頬を赤らめながらため息をついた。

「……そんな告白、5歳児にされてもうれしくないよ」

 そんな文句とは裏腹に、彼の顔はうれしさを隠しきれてはいなかった。またきゃっきゃと笑うアメリの頭を優しくなでると、慈愛を瞳いっぱいに浮かべ、小さなお姫様のこめかみにキスをした。


 ああ、こんな調子で、この子が本当に結婚するとき、俺は泣かずにいられるだろうか。もしかしたら主である本当の両親よりも泣くんじゃないだろうか。自分の結婚より先に、ノエはまだ5歳のアメリの花嫁姿を想像しては、頭を悩ませるのだった。




次は5年後のお話になります。ちょこっとシリアス注意。

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