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ワルい奴ら  作者: 弥塚泉
9/21

2/17 情けはひとのためならず

 外を吹きすさぶ大雪に、横沢は思わず苦笑いした。昨日の午後七時頃に葵井から連絡があり、今日娘を連れてくると聞いていた。

「神様は俺のことが嫌いだってか?」

 くだらない冗談をこぼして、また顔を天井に戻す。

「俺もお前なんか、でえっきれえだよ」

 昨夜は高熱が出ていて、眠れなかった。葵井のメールに返信できたのは寝なければならないのに寝ることができなくて、看護士に黙ってこっそり携帯を見ていたからだった。今はやっと熱が引いてきたところで、この大事な時にまぶたが重くなってきている。

「横沢さん、お見舞いの方が来てくれましたよ」

 担当の看護士の声が聞こえる。ゆっくりと入口の方へ顔を向けると、すでに二つの人影がベッドの隣に立つところだった。見慣れた看護士の白い制服の前にベージュのスカートが見える。

「顔を、見せて、くれねえか」

 そういうと彼女はかがんで、その顔にかかった長い髪をかきあげた。その頬に触れる。

「ああ、綺麗になったな」

 写真では何度も見た。一度遠くから、買い物をする姿を見たこともある。だが、直接言いたかった。そして、最後にもう一つ。

「お前は今……幸せにやってるか?」

 これが最後だというのに、視界がぼやけて顔がよく見えない。しかし、彼女が確かに頷いたことはわかった。

「そうか。そうか……」

 涙を流して何度も頷きながら、横沢は静かに目を閉じた。そしてだんだんと力が抜けていき、私の頬から手が離れた。

「死んだのか?」

「そんなわけないでしょう。眠っただけです。昨日はずいぶんうなされて眠れませんでしたから」

 看護士が横沢の手を布団の中に入れてやるのを見届けると、私たちは病室の外に出て、談話室へ歩み始めた。

「でもあの……横沢さん、お孫さんの居場所を調べられたんですよね。またご自分で調べて、嘘がバレないでしょうか」

「あのオヤジにそんな気力はもう残ってないさ。嘘かもしれないとうすうすは感づいていても、証拠がない。それに、無茶して本当のことを知るよりは私のことを信じる。もっとも、私だって半端なことはしていないから賭けてもいいが、横沢は本当に娘だと信じているだろうがな」

 談話室について、ウィッグを取る。通販で買った、通称サダコウィッグと呼ばれる長い黒髪のかつらだ。そして今日は黒いスーツも左耳のピアスも着けていない。ナースセンターに預けた私のコートは自分のものだが、中の服装はコスモス色のセーターにベージュのスカートを穿いてきている。

「でも、やっぱり可哀想ですね。娘さんに会えないなんて」

「私やあいつのような人間なら当然だ。自業自得だよ」

「そんなこと言って、こんなにしてあげるなんて、優しいんですね」

「いや、そういうことではなくてな……昨日、ふと思い出したんだよ」

 他の看護士が届けてくれたコートに袖を通しながら、振り返った。

「そういえば私、あいつに三千円借りっぱなしだった」

どうも、弥塚泉です。

三話目になります。二話書いて慣れたと思ったら、テイストが変わっちゃったので、やっぱり小説は難しいと思いました。


次回もお楽しみにしていただければ、嬉しいと思います。

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