2/28 エピローグ・アンハッピーエンドロール
ふと、目が覚めた。時計を見ると午前六時。アラームをセットした時間より一時間も早い。欠伸を噛み殺しながら、昨夜セットした目覚まし時計のアラームを切って回る。寝坊してはいけないと思って、目覚ましを三個、携帯のアラームを一分ごとにかけていたのだ。食パンをトースターに入れて、洗面台に向かう。
「まったく、何が……だよ」
顔を洗い、水で濡れた顔をタオルで拭うと、改めて鏡を見た。
「しっかり覚えているよ、私は」
鏡の向こうの私は白いショートカットを揺らし、同じ色の瞳を細めていた。
愛娘に上目遣いでお願いされたということで、果穂さんの許可の下、今日は果菜を一日中預かることになっていた。こんなことは滅多にあることではないので、せっかくだからとうろな町を歩いて回る予定だったのだが、商店街に訪れた時点で予定は脆くも破綻してしまう。
「あら、果菜じゃない。久しぶりね。どうかしら、これからあたしとデートでも」
「隣にいる私が見えないのか、乳牛コラ」
商店街の東の入り口に位置する花屋ピグミーの店主、綿野日代が接客作業をほったらかしで店先に出てきたのだ。私の文句も今日に限ってはあながち的の外れたものではなく、日代は店名の入ったエプロンの下に黒ぶち模様の真っ白いセーターを着ていた。
「あら、いたの。身長ばかり高くて胸がないものだから気が付かなかったわ」
「存在感と胸は関係ないだろ。というか、前々から言いたかったんだが私は貧乳じゃないからな。お前がだらしない乳をしてるだけだ」
「あんですって?」
「あ、葵井さん、おはようございます。今日もお仕事ですか?」
商店街の入り口で騒いでいたら、藍原夕奈と森田武光のカップルが声をかけてきた。深緑のポンチョと紺のコートのコントラストが人ごみのなかにあっても目を引く。
「いいや、うるさい花屋に絡まれていただけだ。お前たちは相変わらず仲が良さそうだな」
「はい、もちろん。最近ついに森田君の家の合鍵を作ったんですよ」
「お、おお。着実にレベルアップしてるな……。まあ付き合ってるし、いいのか」
「あ、あたしも持ってるわよ。当たり前田の工務店よね」
「お前は確実に駄目だろ。あとで没収だ」
「なんだなんだ、今日は祭りでもあんのか?」
続いてやってきたのは横沢大地だ。車椅子に乗ってはいたが、しばらく見ていなかった特徴的な白い縦線が入ったダークスーツに袖を通して、シルバーグレイの髪もきちんと撫でつけて見事なオールバックになっている。
「お前、病院から出られないんじゃなかったのか」
「もうすぐ死ぬんだから、ちょっとぐらい無茶したっていいだろ」
そしてその車椅子を押しているのはなぜか俯きがちな笹筒深見だ。
「お前は何をさせられてるんだよ」
「ボランティアのお手伝いに行ったら、横沢さんの散歩を手伝ってほしいと言われて」
「僕たちとはそこの角で偶然会いまして。そしたら狩屋さんと横沢さんが意気投合したので、一緒に来たというわけなんです」
「そういうことだ」
「お前らまで……」
宣伝のためか、カナメ薬局の制服のままの古門縁とその横で気難しい顔をしている狩屋宗作までついてきていた。
「うわあ、すごいねしずかちゃん! ともだちいっぱいなんだ!」
無邪気な果菜の言葉が胸に刺さる。ああ、違うんだ。
「すまない、果菜。こいつらは友達でもなんでもなくて……。ただの、ええと、なんと言ったものか。ワルい奴らだ」
YLさんの『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』から、小林果菜ちゃん。
桜月りまさんの『うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話』から、前田工務店のお名前だけ。
以上をお借りしました。
どうも、弥塚泉です。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
この作品は、私が執筆を始めてから二年目の集大成として書いたものです。
前作『ばいばい!』から少しでも成長できていればいいのですが、こういうことは自分ではなかなか実感できないものですね。
この作品にうろな町の舞台をお借りしたのは、『うろな町計画』のおかげで非常に多くのものを得ることができたからです。
執筆のノウハウみたいなものもありますし、いろんな人から感想もいただいて。
日間なんてすごくもないですが、私にとってはランキングに入るなんて初めての経験でした。
一番嬉しかったのは沢山のユーザーさんと知り合えたことです。
なんか、勉強もできて友達もできるって某通信教育の漫画みたいですけど。これで恋人ができたら完璧ですね(笑)
予定していた締切の三月六日は過ぎてしまいましたが、これで弥塚泉の二年目の一区切りといたします。
それでは、今回はこのあたりで失礼します。
再び私の作品がみなさんの目に留まる幸いがありますように。
2014,3,16 弥塚泉。




