表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/193

第十七話  『探偵沙智はここにいる』

◇◇





「ねえシアン、本当にそれで後悔しないー?」


 競赤祭三日目の夕方、自治会庁舎の裏口。

 勇者シアンから今後の方針を聞いた白い兎は、一歩前に出て尋ねてみた。するとシアンは兎に背を向けて、これ以上話はないと表情を隠す。

 だが、半年の時を共に過ごした兎は知っていた。


 何かを迷っている時。

 この気丈な猫耳勇者は、尻尾を地面に引きずるのだ。


「覚えてる、シアン? 家族も彫刻のじじいも、みんないなくなっちゃって瓦礫の上で塞ぎ込んでいた私に言ってくれたよねー? その涙を、涙のまま終わらせちゃいけないんだってー!」


 兎は恩義を決して忘れない。

 その言葉が、泣いていた兎を救ったから。


 彫刻のじじいが、世界を周る足をくれた。

 シアンが、世界の言葉を聞く耳をくれた。

 そして、七瀬沙智らが初めての――。


 だから、兎は頷かない。

 間違っていると思った時は戦うのが、兎のスタンスだ。


「ねえ、考え直そ」


「アルフ、私が会議に出てる間に迷子になっちゃダメよ」


 兎の声は、もうシアンには届かなかった。

 耳を垂らして歩き出す灰色の猫に、やり切れない思いで兎は叫ぶ。


「――ッ! 迷子はどっちだぁー!!」 


 絶叫は、兎の喉を枯らしただけだった。





§§§





 時を同じくして、自治会庁舎の中庭。

 昨日から二日続けて開かれる勇者会議の会場には、今日も絢爛豪華な食事が並び、様々な勇者派閥の仲間が顔を合わせ、大いに盛り上がっている。

 その一画で、赤毛の少女が頭を下げていた。


「急な話でごめんね、ヤマト」


「いや、無理を言って頼んだのは俺だからな」


「それでもだよ」


 七瀬沙智という少年は、秘密基地から走って行ったきり戻って来なかった。レイファは大丈夫じゃろうと笑ったが、直前の沙智の泣き崩れそうな表情を見たステラは、どうしても心配を拭えなかった。

 ステラ一人に仕事を任せた、少年への不満も同時にあるが。


 急用ができたので会議には参加できない――。

 これを伝達するのが二人の仕事だった。補足すると、魔神信仰会の企みや裏切りの勇者について説明するのは、ヤマトの潔白を確認した後である。

 故に今は、ステラは詳細を避けている。


 ただ、ヤマトの反応にステラは思うところがあった。

 思わず、彼女の口は開く。


「ところでさ、ヤマト」


「何だ?」


「どうして、沙智を勇者会議に誘ったの?」


 部外者を自分の仲間と偽って、ヤマトは極秘の会議に沙智を誘った。

 だがそれは一歩間違えれば、勇者らの結束を崩す行為だ。


 ステラが不思議そうに眺めていると、ヤマトは「そうだな」と唸り声を上げる。彼の中で話がまとまると、彼は卓上の高級そうな透明のグラスを人差し指で弾いて、こう語り出した。


「――何もしてこなかった奴に、何かが為せる訳がない」


「え?」


「はずれの町の黒十字の風車で、あいつは自分をそう卑下したんだよ。だが、あいつは魔王を倒し、多くの人を救った。勇者会議に出れば、勇者たちが挙って『六人目』を称えるのを聞けるだろう。――俺は知って欲しかったんだ」


 そう言って、ヤマトは薄紫色の空を仰いだ。

 声は、清々しく、温かく。


「それが時の運でも拾い物でも、ちゃんと何かを紡いできた結果なんだって」


 ステラはその身に染みる言葉を黙って聞いていた。

 ギニーを倒せたのはライフポイントが元から削れていたから、ソフィーのバフがあったから。雷鬼王を倒せたのは偶然聖剣が認めてくれたから。挙句の果てには自分を「俺なんか」と卑下して、その意味を放棄しようとする沙智に、ただ友人としてヤマトは知っていて欲しかったのかもしれない。

 沙智自身で掴み取った、自分自身の価値を。


「そっか」


 ステラにはその言葉が温かくて、僅かに頬を緩めた。

 ロブ島に向かう船の上ででも教えてあげよう。何だかんだで情に絆されやすい少年だから、やはり二日目の会議も参加しとけばと言い出すに違いない。

 そんな事を、ステラが笑顔で考えていた時だった。


 庁舎の内側のゲートから堂々と近づく人影。

 足音は、もう衝動を隠さない。


「――遅くなって悪いな、ヤマト!」


「え?」


 少年は、腰に祭りの露店に並んでいそうな安物の剣のレプリカを携え、野山でも駆け回ってきたのか足元を泥で汚し、爛々と瞳を輝かせてやって来た。速やかにロブ島へ出立するという当初の予定を、天下の大嘘つきも呆れるほど簡単にひっくり返して、その堂々たる立ち姿で挑んでやると表明するのだ。


 話が、まるで違う。

 ステラもヤマトも、ただただ唖然と口を開けた。


「今日は、空中戦じゃ終わらないぜ!」


「殴ってもいい?」


 歯を見せて親指を立てる少年に、ステラが苛立ちで小刻みに震え出す。

 ともかく、これがリスタートである。





◇◇  沙智





 ――挑んでやる。


 ネミィに戦うことを誓った手前、臆病風に吹かれて尻尾巻いて逃げ出すのは甚だ格好悪い。魔神信仰会が企んでいる赤の大魔王復活の件は勇者連中に任せるにしても、魔神信仰会と手を組んで聖剣エクスカリバーを狙う裏切り物の勇者が誰なのかくらいは見定めておきたい。

 最悪、容疑者を二人程度には絞ってやる。


 逃げるのは、やれることをやった後でで良い。

 後で後悔できるよう、限界を尽くせ。


 そんな確固たる誓いを白いアキレアに込め、現在時刻は午後八時。

 二日目の勇者会議も無事に終了し、人も疎らになった庁舎中庭の片隅。


「――魔神信仰会と内通する勇者がいる、だと?」


 俺たちの話を聞いたヤマトは、額に手を添えて顔を顰めていた。

 五人の勇者は、多少の軋轢はあれど大変仲が良い様子だった。だからこそ、志を共にする同士の中から造反者が現れた事実を、受け入れ難いのだろう。


 そんな彼には悪いが、俺たち側の気分は軽かった。


「ヤマトを容疑者リストから外せて良かったね」


「本当にそうだよ。味方として機能しないヤマトなんて、削り過ぎて小さくなった鉛筆より使えないもんな!」


「衝撃的な話ばかりで、精神はもう随分削れたけどな!」


 ヤマトの潔白は、ステラの聞き取り調査で証明された。

 彼を信じたいと思っていた一方で、彼の部下が暴走して聖剣を狙った可能性がずっと捨て切れなかった。そこで俺が会議に出席している間、彼のパーティー内で不和がないか、ステラに調べてもらったのだ。

 そんな訳で、彼が白だと太鼓判を得られた状況には安堵しかない。


 少なくとも、これで赤の大魔王の件は彼に預けられる。

 問題は、もう片方だ。


「で、ヤマトはどう思う?」


「魔神信仰会と内通する勇者が誰か、か?」


「うん」


 ステラの問いに、ヤマトが腕を組んで目を細める。

 彼が思い悩む間、俺も自分の推測を整理することにした。


 俺が現状、最も怪しんでいる勇者はセリーヌさんだ。

 二百年以上の時を生き、あらゆる属性の魔法を使いこなす天才エルフ。詳しくは知らないが、千の瞳を持つ魔法使いと謳われる、あの不思議な勇者である。

 勿論、適当を言っている訳ではない。


 勇者ヤマトに聖剣アメノハバキリ。

 勇者ギーズに聖剣ミスティルテイン。

 勇者シアンに聖剣カーテナ。

 勇者パジェムに聖剣ゾルファガール。


 そう、唯一聖剣を持っていない勇者がセリーヌさんなのである。

 誰であろうと敵は、聖剣自体の価値を正しく認識し、運用できる人物だ。自分の武器にするにも、売って金にするにも――聖剣を持っていない彼女が容疑者リストの最上位に名を置くことは避けようがないのだ。


 怪しいのは、セリーヌさん。

 ところが、ヤマトの意見は正反対だった。


「分かるのは、セリーヌが一番可能性が低いって事くらいだな」


「え?」


 彼は長い唸り声の後、顎に手を当ててそう発した。

 ヤマトがなるべく身内贔屓しないよう、感情論を排して思考しているように見えたので、その結論が俺には尚の事、疑問だった。


「何でだ?」


「五人の勇者の反撃をレイジリアの国王と共に推進したのはセリーヌだからな。それに、アイツは魔神信仰会にとって不利なニュースを幾つも出してる。通じているとは考えづらいだろ?」


「――ニュース?」


 ヤマトの言い分に、俺はきょとんと首を傾げる。

 この世界でニュースと言えば、それは電子モニターを意味している。世界各地に設置された特殊なプレートに、午前九時と午後六時の二回、その日の情報が静止画や映像として映し出されるのである。

 ただし、この世界は通信技術はさほど発達していない。それ故に、電子モニターも何者かのユニークスキルなのではないかと実しやかに囁かれていた。


 そこまで思い出して、俺はハッと目を見開く。

 そんな俺に「知らなかったか?」とヤマトは囁いて。


「ユニークスキル『電子モニター』の能力者はセリーヌさ」


「何だって!?」


 俺の度肝を見事にぶち抜いた。


 これは衝撃的な事実である。だが確かに、勇者の反撃を大々的に報道し、民衆を駆り立てるような人物が魔神信仰会と悪巧みするとは思えない。

 容疑者リストの中で、セリーヌさんの名が急降下する。


 でも。

 だとしたら。


「一体、誰が敵なんだ!?」


 勇者らしいと評判のシアンさんが敵なのか。嫌な奴だがどうも小物臭いパジェムが敵なのか。トオルの事で真摯に話してくれたギーズが敵なのか。セリーヌさんの可能性だってまだ否定できるほどではない。

 誰が、一体誰が――。


 俺は眉間にしわを寄せて、静かに声を震わせる。

 そんな様子が、ステラにはやはり不思議だったのだろう。


「でも、一体どういう心境の変化?」


「え?」


「逃げるのやめて、急に容疑者絞りなんてさ」


 腕を組んで俺を見つめる淡い瞳には、俺への心配と不満が複雑に入り混じっているように感じた。当初の予定を何の脈絡もなくひっくり返されて、ステラがへそを曲げるのは仕方なかった。

 とは言え、正直に話すのも恥ずかしいので、笑って誤魔化す。


「ちょっと急に探偵気分を味わってみたくなって――痛いッ! 悪かったから無理にアンテナを引っ張るなッ!」


「~~っ!」


 一心不乱に俺のアホ毛を引き千切ろうとするステラ。

 ちょっと冗談を言っただけでこれとは、想像以上に鬱憤が溜まっていた様子である。涙目になって謝罪を連呼すると、ようやくアホ毛は解放された。


「もう、私たちの懐の広さに感謝してよね?」


「私たち?」


「――ええ、私たちです」


 ステラの言い方が気になってオウム返しすると、不意に隣から落ち着いた声音が参加する。聞き覚えのある声に振り向くと、そこには――。

 いつの間にか、疲れた表情でトオルが立っていた。


「来てたのか!?」


「待ち惚けは暇でしたので」


「あ」


 俺はしまったと内心汗を掻く。

 この少女に事情を説明するのをすっかり忘れていた。


 ロブ島への旅費稼ぎを終えたら、宿はまさかのもぬけの殻。慌てて自治会庁舎に来てみれば、聞き取り調査中のステラを発見し、俺の急な方針転換を聞いた、というところだろうか。

 少し頬を膨らませているトオルに、恐る恐る尋ねる。


「お、怒ってる?」


「怒られたいんですか?」


「いえ」


 怒られたくないです。

 トオルは大きく溜息を溢すと、仕方なさそうに肩をすぼめる。

 優しい友達ばかりで助かった。


 ただ安堵する一方、トオルの疲れ顔は変わらなかった。

 それどころか、神妙な面持ちで俺をまっすぐ見上げ、その瞳に若干の怯えが孕んだ光を宿らせるのだ。ゴクリと息を呑むと、真剣そうに口を開く。


「お兄さん、ギーズには警戒してください」


「あのロリコンっ!」


「違いますよ! 何でそういう話に持っていきたがるんですか!」


 トオルが怯えた目で告げた瞬間、俺とステラは直ちに先ほどまでの蟠りを脇へやって臨戦態勢を整えたのだが、それは他ならぬトオルによって止められる。

 そうして、少女はこう続けた。


「庁舎に来る時、彼に背後を付けられました」


「――何?」


「『不審な奴を見つけて探していた』と、怪しくないですか?」


 不信感露わなトオルの視線に、俺たちも腕を組んで考え込む。

 ギーズはトオルを案じてくれていたし、ヤマトと同様に疑いたくない人物だったのだが、トオルの発言が事実なら言い逃れできないほどに怪しい。

 それこそ、最大の容疑者と考えても良いレベルだろう。


 小さな拳が、夜よりも暗く、海よりも深い怒りを滲ませる。


「ギーズが敵なら私がバラしますからね」


「怖いよっ! お前何かあいつに恨みでもあるのっ!?」


「沙智、大声は禁止!」


 ともかく、三人の話を総合すると、今の段階で最も怪しいのは勇者ギーズ。次点でまだ人柄を詳しく知らないパジェムとシアンさん。容疑者を二人に絞りたかったが仕方がない。問題は明日も敵探しを継続するか、それとも聖剣を引き渡すよう指定された時間になる前にやっぱり出発するか、というところか。


 そんな風に悩んでいると、咄嗟にトオルが口元に人差し指を添えた。

 秘密の会談に、誰かが近づいて来た合図である。


「――皆さん、まだ帰らないの?」


「シアンさん?」


 やって来たのは、奇しくも灰色の毛の猫耳勇者だった。

 この辺りにはフィスの消音魔法が掛けられていたので話は聞かれていないだろうが、背後のみんなは各々即座に口を閉ざして、心の中で緒を締めた。


 だが、俺は違和感を覚えて眉を顰めていた。

 猫耳勇者ではなく、彼女の隣を見て。


「――――」


 彼女に付き添う、三日ほど一緒に過ごした白兎。

 普段なら大切な話の前であろうと気にせず元気に飛び掛かってくる兎が、大人しく微笑を浮かべているのである。それも耳は揺らして機嫌良さそうに振舞っているのに、尻尾は固まったまま微塵にも動かない。

 昨日までと様子が異なるアルフの態度が、不思議だった。


 そこまで考え、フッと息を吐いて集中し直す。

 今はアルフより、シアンさんの要件だ。


「七瀬さん、少しだけお時間頂いて良いでしょうか?」


「――っ」


「庁舎の裏手で待ってます」


 彼女は端的に告げて頭を下げると、裏口の方へ歩いて行った。

 この場所に、唇を噛んだままの俺が残る。


 シアンさんの容疑は依然として晴れていない。

 彼女と二人きりになるのは危険だと重々承知していたし、早く呼び止めて断ってと背後からステラやトオルの熱的な視線も感じる。しかし、容疑者を二人には絞っておきたいと思うのもまた事実だった。

 怖くないのか、と問われれば嘘になるが――。


「――虎穴に入らずんば虎子を得ず」


 敢えて口角を浮かせ、拳を握って俺は呟いた。

 今日の俺は何かが違うようだと感じ取っていたのか、ステラやトオルは俺を止めようとはしなかった。一瞬表情を歪め、それでも見送ってくれるようだ。


 しかし、代わりに俺を呼ぶ声があった。

 様子がおかしい白兎だ。


「ねえ、さっちー?」


「何だ?」


「私に初めて会った時、どう思ったー?」


 俺はまた、強い違和感を覚える。

 アルフの声からは昨日までの陽気さを感じられない。語尾で伸びた母音もどこか元気がなくて、何と言うべきか、能天気なアルフらしくなかった。


 だからだろうか。

 俺は、この質問には何か大きな意味があるように思えた。

 きっと、真面目に答えるべきだと。


 どう返事しようか正直迷った。

 でも、答えは何となく、飾らなくても良いと思った。


「――ただの間抜けな迷子だよ」


「ふふっ、迷子じゃないってばー!」


 ほらな、笑った。


 結局何だったのかは分からないが、アルフの異変は通り雨のように一瞬だった。にっこり微笑んで尻尾を揺らし、先導するように庁舎の裏口へ向かおうとするその後ろ姿に、俺も歩き出す。

 きっと正しい解答を選べたと、喜びを噛みしめて。


 と思ったら、今度はヤマトが俺を呼び止める。

 いい加減、歩かせて欲しいのだが。


「沙智、待て!」


「何だよ?」


 煩わしい気分で振り返ると、ヤマトの傍から彼の部下が離れていく。

 そして、ヤマトは部下から聞いた速報を、俺に伝えた。


「――セリーヌが、今しがた臨時ニュースを出したらしい」





◇◇





 競赤祭三日目の夜、午後九時。

 一つのニュースが、赤の国を騒がせた。


『魔神信仰会が表明、赤の大魔王復活の可能性――!!』


 電子モニターは、魔神信仰会が赤の大魔王を復活させると表明したとし、最悪の場合、赤の国の住民が国境を越えて逃げられない五日間の間に為される可能性もあると、強い語調で報道した。

 それは、祭りで賑わう住民にとっては、突然の巨大隕石だった。


 住民たちは、ニュースを見て語り合った。


『魔神信仰会の奴らめ』『赤の大魔王復活だって、どうする?』『復活って言ったって、どうせ可能性でしょ』『ニュースがきっと間違ってるんだわ』『魔神信仰会の連中が赤の大魔王の封印場所を見つけられないかもしれない』『偉大な勇者様が残した封印が解かれるはずないよ』『自治会の連中が対処するだろう』


 多くは、楽観的な言葉を繰り返した。

 だが、誰もが本当は気づいていた。


 楽観的な言葉で自分を安心させようとするのは、いざという時に自分たちが国境を越えて逃げることができないからであると。称号『イズランドの決まり』によって、この狭い鳥籠の中に囚われているからであると。


 この壁を乗り越えるための答えは、称号によって最初から閉ざされている。

 そう信じて、楽観的な言葉を繰り返しながら――。


 心の中では、祈るのだ。


『――その答えは、きっと誰かが見つける』


『――その答えは、きっと誰かが見つける』


『――その答えは、きっと誰かが見つける』


『――その答えは、きっと誰かが』


 その時、カランとドアベルが鳴った。


 赤の国の西の果てでカフェを営むメイド衣装の女性は、暗く沈んで星が輝く夜空へ踏み出そうとする白髪の少女を慌てて呼び止めた。日中に何時間も散歩から帰って来なかった事もあるが、何より、帰って来てからの少女の様子がおかしかったからだ。感情を閉じ込めていた、氷が、解けていた。

 だから、メイド衣装の女性は繰り返す。


「どこ行くの?」


「沙智さんは、この世界を好きになれるようにって言った」


 白髪の少女は、メイド衣装の女性に正しく返答しなかった。

 だがそれは、彼女に強い別の納得を促す。


 この少女の氷を解かしたのは、やはり七瀬沙智という少年なのだと。あのどこか頼りない少年が、夕刻、少女の居所を尋ねてドアベルを鳴らした時、彼女は少年が今までと違って見えたのだった。


「その言葉が素敵だと思った」


「な、何を?」


「だから、どれだけ小さな足掻きでも良い」


 少女は左手に野山の花を携え、一度も振り向かずに歩き出した。

 その小さな背中を、メイド衣装の女性は――。


「――抗ってやるんだ」


 なぜか、追いかけてはいけないと思って。


【ディテクティブ・サチ】

 「さすらいの騎士」に続く、沙智の調子に乗った姿その二。要は、余計に事件に首を突っ込んでは場を引っ掻き回す、極めて迷惑な一般人だよ。別に頭のアンテナが犯人にピコンピコン反応するような特殊能力もなく、チャチな推理で無性に人を苛立たせるような、迷惑で、本当に迷惑な「急に方針変えて本当に悪かったって!」



※加筆・修正しました

2020年5月11日  加筆・修正

         表記の変更

         ストーリーの変更

         ・ヤマトとの相談追加


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ