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第十四話  『五人の中に敵がいる』

Red-country's Festival

Day 3


 紅茶の香りを傍らに、競赤祭は折り返しの三日目。

 過去二日と違って、今日はフィンチズカフェのカウンター席から始まった。胃に優しい朝食を嗜みながら、ステラらとセシリーさんの会話に耳を傾ける。

 外気が熱を帯びる一方で、気分は一日目の冷めように逆戻りだ。


 そんな中、セシリーさんの頓狂な声が響いた。


「――え、じゃあ最終日の花火を見る前に行っちゃうの?」


 赤の国を予定よりも早く旅立つことにした。

 そう聞いてセシリーさんは、注文されたお弁当を包む手を止めて、最初はポカンとした様子だった。だが小さく「そう」と呟くと、すぐに作業に戻る。

 観光客が多いこの国では、客の予定が急に変わるケースも多いのだろう。


 カウンターに並んだ小瓶の一つにセシリーさんの表情が映る。

 どこか、寂しそうだ。


「うん、どうしても外せない用事ができちゃったんだ」


「いつ出るの?」


「遅くても、明日には出ようかと」


「そう、昔の日程だったらギリギリ見れたかもね」


 セシリーさんの残念そうな声が、俺の鼓膜を切なく揺らす。

 それでも、彼女が笑顔を作ってオマケの茶菓子をご馳走してくれたのは、お別れの時は笑顔でという、彼女なりの流儀なのだろう。

 その温かさが、小さな罪悪感を掻き立てる。


 会話に参加せず、俺は黙々と箸を進めた。

 美味しいはずの紅茶が、苦かった。


「ネミィ、どこへ?」


「――散歩」


「遅くならないようにね」


 カランとドアベルが鳴って、罪悪感がまた一つ募る。

 別れを切り出してから、氷の少女は最後まで俺と言葉を交わす事はなかった。その態度を、ステラたちは寂しさの裏返しと勘違いしたようだ。

 憐れむような視線を、彼女らは物悲しいドアに向けた。


 称号の悩みを打ち明けてくれた少女の、俺への期待。

 結局、答えることはできなかった。


「あの子、沙智さんには懐いていたのになあ」


「――――」


 何気ないセシリーさんの言葉が棘となって俺の心を蝕む。飾らない、心の底から零れた声だったからこそ、ズキズキと痛かった。

 居た堪れなくなって、受け取ったお弁当を片手に立ち上がる。


「俺、先に行ってるよ」


「一人になっちゃダメだからね」


「分かってる」


 ステラの忠告に片手を上げて応え、リュックにお弁当を放って、俺はレイファが待つ表口に向かって、ゆっくり歩き出した。

 そもそも、なぜ赤の国を発つ話になったのかを、思い出しながら。





§§§  数時間前





 空が明るみ始め、窓から薄明かりが差し込む時間帯。

 宿の個室の、テーブルの中心では、麻布に包まれた聖剣エクスカリバーの破片と、白い封筒、そして砂時計の紋章が入った便箋が四人の注目を集めていた。

 その中の便箋に記された要求はこうだった。


 聖剣エクスカリバーを引き渡せ。

 時刻は競赤祭四日目の正午、場所は渓谷奥の墓地。

 来なければ、正体をバラす。


 この困った要求をどうするかというのが議題だ。

 レイファも交えて昨晩の説明を終えた後、俺はこう告げた。


「――結論から言おう。この聖剣が幾ら俺の少年心をくすぐる伝説級のアイテムであろうと、崩れ切って粉々になった破片に未練はない!」


「つまり?」


「いっそ、引き渡して楽になろう!」


 これが一番堅実な解答である気がして鼻を高くすると、ステラ、トオル、レイファの三人は、何とも言えない微妙な表情で同時に肩をすくめた。

 やはり沙智では駄目かと言いたげな表情、甚だ心外だったが。


「ジュエリーが赤の国に眠る古の大魔王を復活させようと目論んどるのは分かったが、聖剣エクスカリバーがどう必要なのかはまだ分からんじゃろう?」


「それに、引き渡したからって安全とは限らないよ?」


 なるほど、皆さん現実的な視点をお持ちのようで。

 ステラの言い分だけなら最強悪魔がいれば何とでもなりそうだが、ジュエリーが聖剣をどう使うか分からないのは確かに気持ちが悪い。

 万が一、悪用でもされたら堪ったものじゃない。


「しかし、あのジュエリーが絡んでくるとは思いもしませんでしたよ」


「そう言えば、お主ら、あやつと知り合いなのか?」


「以前、ジェムニ神国の南にある小さな町で、少しだけね」


「魔神信仰会の一員だったとは、本当なんですか?」


 ステラにとっては信じて正体を明かしたのに裏切られた相手であり、トオルに至っては危うく悪事に加担させられそうになった相手。二人が重く膝を抱えてしまうのも無理はなかった。

 その後の事件も含めて、あれは苦い記憶だった。


 しかし、いつの間にジュエリーは魔神信仰会に入っていたのか。

 俺も頭を抱え込むと、ステラはまたいつものやつだと思ったのだろう。赤い髪を揺らして、俺のこめかみ辺りをツンと人差し指で突いた。


「沙智、魔神信仰会が何か分かる?」


「おいおい揶揄うなって。――簡単に言うと悪い奴らだろ?」


「簡単に言い過ぎじゃないっ!?」


 胸を張って答えると、ステラが間髪入れずにツッコミを入れた。

 やはり、これが当然の反応である。


 ステラは呆れ果て、額を抱えてレイファに説明の匙を投げた。

 その人選は間違いと言わざるを得ない。


「沙智や、魔神信仰会というのはのう」


「うんうん」


「――簡単に言うと悪い奴らじゃ!」


「こっちもダメだったーっ!」


 この受け答えを俺に教えたのは他でもない、レイファである。

 俺たちはにっこり笑って、親指を立て合った。


 そんな調子の良い俺に、ステラは呆れて教壇を降りた。

 重い話ばかりだったので、少し場を和ませようと思ったら、失敗である。魔神信仰会がどういう組織なのかを知る機会が、悪ふざけで消滅しそうだ。

 えへへと反省すると、ステラに代わってトオルが溜息を吐いた。


「いいですか? この世界には雷鬼王や古の大魔王など、不死の存在がいます。元は人間だった魔王が、どのように不死性を得たかは知りません」


「――――」


「重要なのは、魔神が不死の存在を作ったという事実の方です」


 トオルの説明に、俺も小指を抓んで記憶を掘り起こす。

 思い返してみれば、ジェムニ教会の壁画に描かれた大魔王は、古の存在だ。魔王も人間だと分かった今となっては、彼らが今なお厄災として認識されているのは、なるほど、おかしな話である。

 その答えが、魔王の不死性というやつなのだろう。


 そう言えば、壁画に関してキャロルが妙な事を言っていたな。

 ――コフキールを知ったお前を生かすつもりはない、と。


 勇者会議に誘われた理由の他に、ヤマトに尋ねてみようと思っていた案件がもう一つ抜けていたと思い出した。忘れないよう心にメモしておこう。

 だが今は、便箋に手を伸ばしたトオルの説明が、優先事項だ。


「この文末の紋章をよく見てください。上の黒い逆三角形は魔神、下の白い三角形は信仰する人間、そして紋章全体で砂時計を表しています」


「あ、本当に砂時計なんだ」


「ほら、砂時計って上から下に砂が零れていくでしょ? それと同じで、黒き魔神の力を白き我が身に上から下へ落とし込もうっていう意味があるんだよ」


 我慢できなくなって、結局説明に参加してしまうステラ。

 そんな可愛いステラはさて置き、話を総合すると。


「つまり、種族に問わず永遠の寿命を持つ『魔王』を生み出した魔神を信仰して、自らも不死性を手に入れようとする、超おっかない集団って訳か!」


「――――」


「あれ、違った?」


 俺はポンと掌を打ったのだが、ステラとトオルの反応は芳しくない。

 レイファは左隣で熱いお茶を啜りながら満足そうに頷いているのだが、二人はポカンと口を開けた後、お互いに見合わせて、こちらに視線を戻す。

 何だか、呆れと感心が入り混じったような表情だった。


「あんた、偶に鋭いよね」


「お兄さんの世界に似たような知識があるんですよ、きっと」


 トオルが正解です。

 永遠をテーマにしたメディア作品には俺も多く触れている。何かとファンタジーが好きな俺だったが、そういうダークな分野は妹から借りた知恵だ。

 相変わらず、妹の名は思い出せないが。


「――おや?」


 説明のために身に寄せた便箋をテーブルの中心に戻そうとして、不意にトオルが固まる。何だと気になったが、レイファが湯飲みを置く音で興味は遮られた。

 面倒そうに溜息を溢し、レイファが気にせず説明を受け継ぐ。


「奴らは各地で魔王に助力することを『功徳』とする極めて危険な連中じゃ。そんな連中が聖剣を持つお主に目をつけた。全く、困ったものじゃの」


「――でも、どうしてバレたんだろうね?」


「何が?」


「沙智が聖剣エクスカリバーを持っている『六人目』だってこと」


 ステラも昨晩の俺と同じ疑問を抱いたようである。

 あのジュエリーの情報網ならあり得るんじゃないかと、自分でも釈然としない可能性を投げかけてみたが、ステラはますます唸り声を上げるばかり。

 可能性は、所詮は可能性の域を出ないのだ。


 まあ、ここからは専門職の皆様にお任せしよう。

 そう思い立って、俺は一旦話を打ち切るように両手を合わせた。


「とりあえずこの話、勇者の所に持って行かないか?」


「勇者に?」


「ジュエリーが復活を目論む赤の大魔王の件も報告しなきゃいけないし、聖剣を引き渡すかどうかも今日の会議でヤマトに相談してからでも――」


 自分でもすごく良い提案のように思われて、舌が軽く滑る。

 ステラもレイファも、話の途中で顔を明るくした。


 だが、響く。


「――それは待ってください」


 安直な結論を押し留めたのはトオルだった。

 脅迫を記した便箋と食い入るように睨めっこを続けていた彼女が、今は神妙な面持ちで口を開いたことに、俺は僅かに胸騒ぎを覚えた。

 何か、不味いことに気づいたのではないか、と。


 そう感じたのは俺だけではなかったようだ。

 自然と、部屋が静まり返る。


「皆さん、よく見てください」


「む?」


「この青いインクの染み、何かに見えませんか?」


 トオルが指差したのは、便箋の文字でも紋章でもなかった。

 隅の方に薄っすらと付着した青いインクの跡だった。恐らく、手紙をしたためる際に手の側面についていた青いインクが擦れてできたのだろう。

 何か、別の書類の傍で、封筒を用意したのかもしれない。


 トオルの指摘を受け、三人で覗き込んで改めて注視する。

 青いインクの染みは太線から垂直に霞のような線の尾を引き、目を細めると確かに、その太線が何らかの図形の一部のように思えてきた。

 この太線が、例えばどこか一線を中心にした線対称、あるいはどこか一点を中心にした点対称だと捉え、頭の中で図形の欠けている部分を少しずつ思い描く。

 そうして、弧を描いて浮かび上がってきたのは――。


「――――!」


 瞬間、頭の中でパチリと火花が散った。


 思考を研ぎ澄ます静かな海の中で、記憶を閉じ込めた二枚貝が一つずつ開かれていく。無意識に、違和感を覚えた記憶を、時を遡るように辿っていく。

 一つ目は、世界樹の広場での、ジュエリーのあの言葉。


『聖剣を奪うのは契約通り、あの人に任せましょう』


 ジュエリーは魔神信仰会の一員だが、あの発言からは、俺に脅迫状を送るよう指示したのは魔神信仰会ではないと読み取れないだろうか。

 魔神信仰会と契約を結ぶ「あの人」がいる。


 それを証明するように、昨晩尾行した若い男には紋章を見つていない。

 二枚目の貝が、不自然な記憶を解放する。


『ジュエリー様、リーダーが急務で来られないため私が定期報告を』


 若い男は「あの人」の部下なのかもしれない。

 魔神信仰会が赤の大魔王復活を目論んで動いているのに対し、「あの人」一味は聖剣エクスカリバーを奪うことを目的に動いている。

 恐らく、それを取り決めたのが契約だろう。


『男は十時頃から一時間、庁舎の裏口に突っ立って居った』


 自治会庁舎で「あの人」は俺の正体に気づき、その場で慌てて便箋を認めた。そして正体が露見するのを恐れた「あの人」は、部下の若い男に封筒を届けさせたのである。

 定期報告のために、待ち合わせしていた部下に。


 勇者会議の場で、俺は「あの人」と会っている。

 それもお互いに顔を合わせ、名前を名乗り合っている。

 魔神信仰会と契約を交わした、敵。

 慌てて、便箋を認めた。


 信じられないが、確かにあった。

 自治会庁舎二階講堂、あの勇者介護の場にて、その日に話し合って取り決めた内容を記す議事録に、五人の勇者が調印するためのもの。

 確かにあった、青い液体が浮かぶインク皿が。


「――勇者の、五芒星のマーク!?」


「え!?」


「何じゃとっ!?」


 俺の辿り着いた結論に、ステラとレイファが同時に表情を歪めた。

 数々の証言と証拠が、衝撃的な答えを浮かび上がらせたのだ。


 ――五人の勇者の中に、敵がいる。


 じわりと汗を掻いて、正座のまま固まる俺。

 そんな俺に、レイファが嘆息した。


「これで、お主が聖剣を持っとるとバレた理由も分かったのう」


「え、どういうこと?」


「聖剣エクスカリバーは千年もの間、誰も選ぶことのなかった有名な聖剣じゃ。どの勇者も、認められようとその聖剣に触りに行ったことはあるじゃろう」


 聖剣には、持ち主を自分で選ぶという特徴がある。

 五人の勇者も、簡単には聖剣に認められなかっただろう。きっと何か所も聖剣のある場所を巡っては、選ばれるかどうか試したはずである。

 だが、それが何だと言うのか。


「お主、この聖剣を包んでおる麻布はただの麻布じゃろ?」


「そりゃそうだけど?」


 当たり前じゃないかと唇を尖らせると、あからさまに溜息を吐かれる。

 そしてレイファは、呆れた目で、こう告げた。


「普通は『探知』を妨害できるアイテムに包むもんじゃ」


「あ」


 思い返してみれば、ソフィーも貴重なアイテムは、魔力を断絶する特殊なショルダーバッグに入れて持ち運んでいた。それに、ジェムニ教会のオーウェン氏もピーチクパーチク言っていた気がする。

 触れた物なら『探知』は可能。勇者たちが俺のリュックの中にある、雑に保管された聖剣に気づく機会は、幾らでもあった訳だ。


 額に汗が浮かび上がる。

 俺を見る三人の目が虚ろに変わっていく。


「えーっと、てへぺろ!」


「――フン!」


 議論は一時、中断されました。





 勇者に相談することに、リスクが生まれた。

 もしもジュエリーら魔神信仰会と勇者が手を結んで悪巧みを企てているのであれば、報告しに行くなんて手の内を晒しに行くようなものである。

 五人の勇者の、誰かが敵なのかも分からないのだ。


「何らかの形で、勇者が関わっているのは確かなようです」


「――――」


「どうしますか、お兄さん?」


 皆の視線が、自然と俺に集まる。

 最終的な決定権は、俺に託されたようだ。

 ならば、迷わない。


「よし、じゃあ急いで氷を持ってきてくれ!」


「頭の瘤を冷やすのは後でね」


「冗談だよ。……聖剣の引き渡しは明日の正午だよな?」


 俺の確認に、ステラがコクリと頷く。

 それからしんと静まり返って、便箋の文字だけが主張を続けた。


 使えない聖剣を捨て去ることに未練はない。

 だがレイファが危惧した危険が消えない以上、敵の要求に応じる選択肢はなかった。元々、赤の国は次の目的地への中継地でしかなかったんだ。

 素性がバラされるのは嫌だが、止むを得まい。


「――明日の午前までに、ロブ島に向かおう!」


「そう、なるか」


「仕方ありませんね」


 俺の提案に、二人が苦笑いを浮かべる。

 魔神信仰会の悍ましい企みは、五人の勇者に任せてしまおうという選択だ。俺が戦わなきゃならない義理はない上、勇者にとっては専門分野。

 五人の中から造反者を見つけ出すこと含めて、任せてしまおう。


 方向性が決まれば、話が進むのはトントン拍子だった。


「ヤマトには裏事情も全部話しますか?」


「敵である可能性は一番低いし、何より信じたいからね。――私が話してくるよ。今日の会議に行けなくなるだろうから、それも含めてね」


「ではロブ島への旅費稼ぎ担当は私ですかね。ステラは羽化が近いので魔獣は討伐はダメですし……ふふ、お兄さんは普通に嫌がりそうですから」


「放っとけ!」


 今日一日かけて準備。明日の朝に出発。

 そういう感じだろうか?


 取引時間にはギリギリだが、何とかすり抜けられるだろう。危険な赤の国にセシリーさんやネミィ、アルフを残していくことに、多少の罪悪感は灯るが、それは勇者ヤマトに任せよう。

 ただ、トオルにはまだ気がかりがあるようだった。


「今日一日、お兄さんを一人にしておくのは心配ですね」


「ああ、それなら――」


「む? お主、悪魔に一体何を期待しておるんじゃ?」


 急に俺の熱烈な視線を受け、ゆっくりと熱いお茶を啜っていたレイファが、何とも言えない微妙な顔つきになる。

 何を、と言われれば、そんなのは決まってる。


「一見怖そうな見た目の人が実に捨て犬に優しい、例のアレ」


「わしは最初から良い奴じゃったろ!」


「ってことは?」


「~~っ、しょうがないのぅ!」


「さっすがレイファ!」


 この悪魔は本当にお人好しだ。

 以上が、赤の国を発つことになった顛末である。





§§§  現在





 カランとドアベルが鳴って、カフェのドアが閉まる。

 電飾が絡みつく玄関先のモミノキに背中を預け、レイファは今日も悪魔らしくない、清楚な白いワンピース衣装で俺が出てくるのを待っていた。

 ニヤリと微笑み、彼女は俺に尋ねる。


「――本当に、アレで良かったのか?」


「何の事だよ?」


「さあ、何の事じゃろうな」


 優しい悪魔は、俺の心境を見透かしたように和やかに微笑んだ。

 その表情に、ぎゅっと身が引き締まった。


 レイファは、気づいているのだろうか。

 本当は、一人逃げ出すような選択に、俺が罪悪感を抱いている事を。

 本当は、叶うならどうにかしたいと思っている事を。


 でも、それは無理なんだ。

 それができるのは、きっと俺じゃない。


「で、どこに連れてくんだ?」


「軟弱なお主を、少しトレーニングしてやろうと思ってな」


 ネミィの悩みに答えを出せるような誰か。

 赤の国の危機を救う答えを出せるような誰か。

 ステラの苦しみに答えを出せるような誰か。


 そんな特別な誰かが、きっと――。

 そう思いながら、俺はレモングラスの香りを追いかけた。


【五芒星のマーク】

 勇者たちが反撃の証として掲げた青い線で描かれた星の形のマークだよ。頂点が反撃を先導したセリーヌさんで、時計回りにギーズ、パジェム、シアン、ヤマトを表してるんだって。重要な書類の調印なんかでも使われるんだけど――。



※加筆・修正しました

2019年5月5日  加筆・修正

        表記の変更

        ストーリーの一部変更


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