第27話:レティ16歳「こんにちは地面、さよなら地面」
セガールに抱えられて帰ってきましたマイホーム。人質にされた王子達、捕縛された王宮騎士達、これまで見たことないような圧倒的な数の亜人種。その様子に人垣がまっぷたつに割れていく。武器を構えている人もいるが挑んでくる様子はまったくない。みんな驚愕の表情で腰が引けてしまっている。
(そりゃあ引くよね。もし私でも突然こんな集団みたらドン引きするわ)
ぞろぞろ団体でのんびり行進してきたが、遂に城まで辿りついてしまった。
「………ぇ……ぁー……」
(ん? なんか声が聞こえる。だんだん近づいて来てる?)
「ひぃーめぇーさーまぁぁぁあああああ!」
豆粒のような人影がすごい勢いでこちらに突っ込んで来ているようにみえた。
(はっ! この声は!)
「クリスっ!?」
「姫様!」
なんと突っ込んできたのはクリスだ。セガールに完膚なきまでに叩きのめされたあのクリスだ。体のいたるところに包帯を巻いていて痛々しい。
単身でこのモフモフ戦士の集団に突撃したクリスは進行を遮ってくるモフモフ戦士の攻撃を華麗にかわし私達の目の前まできた。
「お前はあの時の……」
セガールも私を誘拐した時にぶん投げたクリスを覚えていたようだ。
「あああああ姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様」
(ヤバイ。クリスの目がイちゃってる。壊れたラジオみたいに同じことを繰り返し言っているし……)
「こ、怖いよクリス」
ぶっこわれているクリスにドン引きしてしまった。
しかし、クリスにはその言葉が届いたようだ。
「はっ、姫様、こいつらにいったいどんな怖い思いをさせられたのですか! おのれ亜人種!」
(いや、怖いのお前だから。って、クリス怪我は大丈夫なのかな? もしやあのときのことが原因で脳に後遺症がでて人格が崩壊したとか!?)
「セガール、おろして」
「嫌だ」
(嫌だって、子供か貴様! 無理にでも暴れて降りてやんよ)
セガールの腕の中精一杯暴れてみる。体制が崩れ、地面に落ちそうになったためか一度私を抱えなおすため、そっと地面におろしてくれた。
(おお、地面を踏みしめたのはいつぶりのことかっ、っておわっ)
「ああああ姫様、よくぞご無事で! どこにも怪我はっ!!? こ、この傷はどうされたのですか?! 傷がついてるではありませんか! 俺の綺麗で美しくてたとえるものさえ霞んでしまうほどの姫様の肌に傷をつくるなんていったいどこのどいつですか! 許せない、ユルサネェブッコロス。あああ獣の群れにいたからドレスだってこんなに汚れてしまって! あなたには汚れなど似合わない、埃ひとつ近づけてはいけないのに! あああああでも今俺の腕のなかに姫が様いるんですよね…姫様もう絶対おそばを離れません。例えこの腕を引きちぎられようともう二度と離れませんから」
ぎゅうぎゅうにレティを締め付けるクリス。再会の歓喜にクリスは泣きながらレティの無事を全身で確かめた。抱きしめられている……いや抱きつぶされているレティはなんとかクリスに言葉をかけた。
「クリスも無事でよかった(本当に頭は大丈夫なのか怪しいけど)、もう(ちょ苦しいから)手を放しっわわわ」
クリスに抱きしめられていたが引き離された。
誰にかって?
そりゃあ勿論
「貴様俺のレティに何をする、いいかげんにしないと今度こそ息の根を止めるぞ」
セガールさんですよ
セガールVSクリス再び
つかの間の地面の感触、しかしすぐに誰かに抱き上げられるレティ
レティは果たして大地をゆっくり踏みしめられる時がくるのだろうか
このままでは表情筋だけでなく足の筋力まで低下しそうだと悩む今日この頃であった
(こんにちは地面、さよなら地面)




