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第24話:レティ16歳「いってみるか、カルバントの王宮に」

 ハイライトのないどこまでも暗い闇が広がる素敵な瞳でレティを見つめるセガール。そんな目にビビるレティ。


「お前の目の前でこいつを八つ裂きにしてやりたい。お前の目に俺だけしか映らないようにしてやりたい。だが、今そんなことをしたらこいつはお前の記憶に、心に、こいつが忘れられないよう刻みつけられてしまうのだろうな。そうなってしまったら俺には手のだしようがなくなる。ならば、お前が俺しか見れなくなるまで待とう。その瞳に俺だけを写し、他の男など視界にはいらなくなったなら、お前にかかわった男すべてを消そう。その時までこの耐えがたい衝動を抑え込んでみせよう。ああレティ。俺の、俺だけのレティ」


 モフモフのお顔ですりすりし、見た目からは想像がつかないほどふにふにした唇でチュッチュと口づけしてくるセガール。 


(セガールが何言ってるか意味がわからん。よくわからないけどダニエルを殺そうとしてるんだよね? なんで急にセガールに恨まれてるだ? なんかしたのかしら。や、ダニエルはなんかしなくてもあの破天荒なダニエルパパはなんかしてそうだな。相変わらずダニエルは人の尻拭いさせられて苦労してるんだな。ご愁傷様。南無南無)


 妄想中であったため、ダニエルの婚約者発言を聞き逃していたレティ。ダニエルが恨まれたのもレティが原因。ついでに大切な人発言でセガールにヤンデレが芽生えたのもレティが原因である。




 セガールの目にハイライトが戻ってきた。そして、落ち着いた声音でセガールはエドワードとダニエルに話かけた。


「お前達、話がしたいのだろう。答えてやろう、聞くがよい」


 その言葉にエドワードが口を開いた。


「さっきから何度も言っているだろう。何故、レティを攫ったんだ」


「見てわかるだろう。俺のものにするためだ」


 その言葉にまた2人は暴れようとするも、セガールは言葉を続ける。


「俺とレティの婚姻によって世界はあらゆる変化が生まれるだろう。これまで長年争ってきた人間と亜人種の血塗られた歴史に終止符を打つことも可能だ。俺は和平を望んでいる。そしてレティも亜人種がこれ以上血を流すことに心を痛め、争いがなくなることを望んでいる。俺と、彼女が和平を望んでいるんだ。それが叶わないことなどありえない」


 その言葉に2人は何度目になるかわからない驚愕を受ける。


「なっ、わ和平だと、ティーグレである貴様が、それを望むというのか?!」


 エドワードの驚きの声に、ダニエルも驚きと怒りの言葉を吐きだす。


「レティ、心優しい君が争いを嫌うのはもっともだ、けどそのために亜人種となんて……何か吹き込まれたのか?! 無理やり婚姻しろと脅されたんだろう!!」


(こら、勝手に話進めんな! 婚姻なんてしねーよ……でも)



「私は人間と亜人種の争いを止めたい。人は亜人種を迫害する。それは人が亜人種を恐れているから。人が自分達とは違うものを恐れ、恐れるが故に排除しようとするその行動は理解できる。けれど、ここのみんなはぬくもりのある温かい生き物だよ。家族や友人がいる人となんら変わらない意思があり思いがある生き物なんだよ。亜人種が人を傷つけるのは自分たちを守るため。それは仕方がないこと。でも私達人間がしていることはどうなの? 抵抗もしない亜人種に、何もしていない小さい子供の亜人種でさえその命を奪っているじゃない。そんなことをする人間の残酷さを共感なんかできない。それを共感できるなんて、私は人間であることが恥ずかしい。」


 レティの言葉はエドワードとダニエルの心に響いた。今まで絶対悪であった亜人種にそんな感情を持つことなどなかった。


「そ、それは……でも」


「でも、だからってセガールのものになるという話は納得してない。私は私のやり方で争いを止めたいの」


「そうか……」



 2人の心境は複雑に入り乱れていたが、レティの付け加えられた一言に安堵した。



「ふっ、いつかお前の口から俺だけのものになると言わせてみせるさ」


 セガールがレティを抱きかかえべたべた触りまくる。全力で嫌がるレティだが、はたから見ればキャハハウフフしているようにしかみれない。


 そんな光景を見せつけられる周囲はたまったものじゃないのだが。



「亜人種との……和平……」


 エドワードはその言葉を真剣に考える。いままでそんな考えを持ったことなどなかったのだ。だがそれを亜人種の頂点、ティーグレが望んでいる。そして、愛しい妹のレティがその考えを支持している。レティの影響力は凄まじい。彼女が何か願えば必至にそれをかなえようと命さえ投げ出す姫至上主義がどれだけいることか。レティが望むなら和平はけっして不可能なことではないのかもしれない。だが、亜人種に家族を奪われたり、大切な人を亡くした人も少なくはない。そういった人たちは例えレティの願いでも聞き入れてくれないのではないか。人によっては亜人種の味方をするレティを敵視するものもいるだろう。 


 エドワードは考え込んでいた。



 その姿をみていたセガール。はじめは力技でカルバント帝国に攻め入り掌握するつもりであった。しかし、彼女のレティの言葉には力がある。すんなり心に染みわたりじわじわ浸食する。洗脳とはまた違う、己のこころを冷静にさせ自身に問うのだ。これでいいのか、それは本当に正しいのか選択させる。その選択は強制ではない。己の意思にしたがい道をつかみとる。彼女は国に帰れば呼びかけて説得すると言っていた。そんなことでは何も変わらないと思っていたのだが……




「いってみるか、カルバントの王宮に」




「「「え?」」」





つづく

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