第23話:レティ16歳「現実逃避したい時こそ妄想だ!」
地べたに押さえつけられるエドワードとダニエル。2人を押さえつけるグレイ。それを見下ろすセガールとレティ。そしてその周囲を囲むモフモフ戦士達。
(この状況……いったいどうすればいいの)
頭を抱えたくなる状況に成すすべのないレティ。しかし、地べたに這いつくばって押さえつけられている2人を見下ろしているのはいい気分ではない。グレイは力任せに押さえつけていたのを少しだけゆるめてくれたみたいだが、拘束は解除してくれなかった。
ああ、兄様の綺麗な顔が土埃にまみれ汚れている。服装だってヨレヨレになり、いつも高貴な佇まいでこれぞ王族の鑑と言われた兄様が見る影もない。
その姿に泣けてきたレティ。久方ぶりに表情筋を使った痛みに涙がでてから涙腺も弱くなったのだろうか。悲しいわけでも辛いわけでもないが自然に一筋の涙が頬をつたった。
レティが自身を押さえつけている亜人種を叱りつけ、そしてその亜人種が叱りつけたレティに大人しく従ったことに驚いたエドワードとグレイであったが、静かにその瞳から涙を流したレティにさらなる衝撃を受けた。
あのレティ(妹)が涙を流したのだ。2人ともレティが泣いた姿を見たことはない。彼女が感情を顕わにしたところをみたことがない。レティはいつだって感情が波立つことなく穏やかでその存在自体神聖で神秘的。めったに笑わなければ泣くことは皆無だったのだ。そのレティが泣いた。ただごとではなかった。
レティにとったら大したことはない。イケメンが這いつくばって汚れている姿にホロリとしただけだ。
「ああ、レティ、レティ、いったい何があったんだい! どうして泣いているんだ! いったい何をされたんだ!」
(やめて兄様、またそんなに暴れるとさらに恰好が崩れてみじめに……ってあら、これってBL的にはおいしい状況。いやん、取り押さえられるイケメン2人。敵対する亜人種。ヤベ、妄想が……)
BL妄想している場合じゃない。しかし、現実逃避したいときほど妄想は次から次へと湧いてくるもの。身内で妄想してしまうことに罪悪感もあるが腐女子とは自重しないもの。すっかり涙はひっこみ、妄想の世界へ意識はダイブした。
レティの顔に傷をつけられ、決して泣いたこのとないレティを泣かせた。エドワードとダニエルは自分の無力に打ちのめされながらも力の限り叫んだ。
「貴様らあああああああ、愛しい愛しい俺の妹に何をしたああああああああああ」
「彼女は僕の婚約者だぞ!! 彼女を傷つけたヤツはどいつだあああ」
その叫びにセガールが反応した。
「ほお……婚約者だと? お前が、レティの?」
セガールはレティの身内と思っていた2人にたいして興味はなかったのだが、レティの婚約者という青年の前まで足を運び、その顔を目に焼き付けた。
「そうだ! レティは、ぼ、僕の大切な婚約者だ!」
セガールの威圧に少し怯むも、自分の心に宿った怒りでなんとかその視線に対抗したダニエル。
「……レティ、こいつはお前の大切なヤツなのか」
セガールのレティを掴む手に少しだけ力が入った。
「(いてっ! って、なんだっけ、ダニエルが大切かって? そりゃあ勿論)うん、私の大切な人(お笑い要員よ)!」
その言葉に、セガールの瞳は暗く影を落とした。
「ほう……そうなのか」
反対に、ダニエルはレティの言葉を聞き歓喜で胸があふれ出しそうになった。
え、何。なんかセガール目がテラヤバス。ハイライトがないよ? 病んでる、目が病んでる。なにゆえ?




